表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/339

2年生4月:禁句

「逃げないで。」


前回は急にアリスのシャッターが閉じた。

『何から貴女を守ればいいですか?』

エリオスの問いかけを『そんなものはない』と否定しなかったアリス。

彼女の答えは『巻き込んでごめんなさい』。

『聖女の騎士』にはアリスが謝るようなーあまりよくない役目があるということだ。


(アリスはなにを畏れている?)


前世の、転生の秘密を共有しただけでは足りない『聖女』の謎。


「‥わたしは‥。」

アリスが小さな声を紡ぐ。

「‥‥‥。」

彼女の迷いが伝わってくる。

エリオスは促すように、アリスを抱きしめる力を緩める。


「‥『魔王』が‥」


(ー『魔王』?)


それは強力な魔法を操り地上の魔物を従える魔物の王。

大型の魔物が生息する大陸北部『魔の山脈』の支配者だ。

約150年前、魔王は突如『魔の山脈』を出て『北の国』に攻撃を開始する。


魔王が『北の国』に侵攻した理由はわかっていない。

グラディス王国の北に隣接していたその国は、わずか1ヶ月ほどで完全に滅びたという。


その後、魔王軍の標的はグラディス王国に移り、魔物たちの断続的な攻撃が続いてきた。

16年前、アリスの父親であるジャスパー・イオス・マーカー魔術師団長が魔王を聖都で封印するまでは。


「『魔王』が、ふっか‥。」


ー聖女の『禁句タブー』抵触を認定、魔属性魔法レベル3『消去イレイズ』を強制発動しますー


『復活する』と言葉を続けることはできなかった。

頭に響いた誰かの声。

エリオスの腕がほどけ、彼の手のひらが背中を滑り落ちていく。

ゴトン、とエリオスの身体が木の床に倒れる音がした。


「エリオス?!」


エリオスのやさしい温もりに寄りかかりたくて。

巻き込んでしまったのだから、聖女の秘密を話すべきだと。


ー聖女の『禁句タブー』抵触を認定ー


「エリオス!!」

床に横向きで倒れてしまったエリオスの口元に手をかざすと、かすかに息はしていた。


ー魔属性魔法レベル3『消去イレイズ』を強制発動しますー


(魔属性魔法『消去イレイズ』って何?)


身体が楽になるよう、エリオスを仰向けにして手足も伸ばす。

見た感じは眠っているようで、苦しそうではない。


「‥『回復リフレッシュ』。」

とりあえず体力回復の魔法を使ったけれど、反応はない。


「‥『慈愛ヒーリング』。」

これも何もなし。


「‥『蘇生リザシエイション』。」

瀕死からの回復魔法で、ようやくエリオスが目を開けた。


「アリス‥?」


エリオスが彼をのぞきこむわたしの顔に手をのばす。

「そのピアスをどうして‥?」


(どうして?)


「先輩がつけてくれました。」

「自分が貴女につけた?」


エリオスは上体を起こすと、片手で眉間を押さえる。

「貴女と話をしていたら急に目の前が暗くなって‥。」

「あの、大丈夫ですか? どこか痛いとかありませんか?」

「それはありませんが‥。」

エリオスが立ち上がろうとしたので、身体を支えて椅子に座ってもらう。

テーブルに置かれたままの、ピアスが入っていた小箱をエリオスはじっと見つめた。


「なるほど、貴女に渡したようですが、記憶がはっきりしません。」

部屋を見渡して、壁の露になった水晶モニターに目をとめる。

「そう‥貴女にモニターを見せてそれから‥。」

エリオスの横に立ったままのわたしを見上げる。


「貴女にとても大切な話をしていたような気がするのですが。」


ー結婚を前提に、お付き合いしませんか?ー


「ー後をつけられているので身辺に気を付けるようにと、そういうお話しをされました。」

「そうでしたか?」


エリオスはしばらく目を閉じて考えていたが。

「お招きしたのにすみません、思ったより体調が悪いのか‥ちょっと頭がはっきりしません。」

本当に申し訳なさそうにわたしに頭を下げた。


「いいえ、先輩のせいじゃないです。」


(わたしが『魔王の復活』を話そうとしたからー。)


「わたしは学園に戻りますから、エリオス先輩はゆっくりお休みになってください。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ