2年生4月:『鑑定』
『アリスちゃんへ
2年生になったのね、おめでとう!
ママは元気よ。
夏休みに会えたら嬉しいわ。』
ママからの初めての手紙を鞄に入れて、2年A組に登校した。
イマリは1年生の彼と待ち合わせだと先に寮を出てしまっている。
そのうち彼を紹介してくれると嬉しいな。
「さてと、まずはみんなの『鑑定』からだねー。」
2年生最初の授業はレベルの鑑定からだった。
「A組の目安は20。今届いてない人は実習を多めに組んで、3年生までにレベル30を目指すこと。」
これがレベルの相場だとすると、あと1年でレベル50とか60はかなり厳しい。
去年0からスタートだったことを考えると、頑張ったらなんとかなるかな?
「出席番号順に隣の準備室にきてねー。」
隣の教室には小さなテントが設置されて、その中に描かれた魔方陣の中央に椅子を置いてあるから、と。
「テントは傍聴防止魔法付きで秘密厳守、もちろん僕が情報が漏らすこともないから安心して。」
魔術師のチームは4人が基本。
「自分のステータスをよく分析しないとチームを組むとき困っちゃうよ。情報をどう使うか、『鑑定』の後はよく考えて喋ろうねー。」
出席番号順に呼ばれて、だいたい5分から10分くらいすると紙を持って戻ってくる。
それを近くの席どうしで見せあったりしながらチームやポジションを考えていくみたい。
‥わたし、何度かこういうの受けても成功したことがないけど大丈夫かな?
自分の番がきて隣の教室に入る。
「マーカーくん、一応だけど受けてくれる?」
椅子に座るとぽわっと温かくなった。
テントの中は甘い、いい香りがする。
「じゃあ目を閉じて、瞼の向こうに蒼い光が見える?」
真っ暗な頭の中でぼうっとハンス先生の声が響く。
「ーピアス、やめたの?」
「壊れちゃって。」
「壊れた? そんなことあるの?」
「魔装具だったから、攻撃に耐えきれなくて‥。」
「ああ、魔人が出たって‥ちょうど学園にいなくてね、見たかったなぁ。」
「見たいですか?」
「だって強い存在って憧れない?」
「‥‥。」
「アリスは強くなりたくない?」
「‥なりたい、です‥。」
「そっか、じゃあ僕が助けになるよ。」
「アリスの力になるから、僕を信じて?」
「ーはい、ハンス先生。」
パンッとハンス先生が手を叩く音がして、テントの中が明るくなる。
「マーカーくん、終わったよー。」
「は、はいっ。」
「レベルずいぶん上がったねー、凄いよ!」
手渡された紙には『レベル』『HP』『魔法防御力』『治癒魔法』『装備』が書かれていた。
「このHPってどうなんです?」
「レベルからするとちょっと高めだけど、まあそれくらいの人はいるし普通かなー。」
『普通』‥なんて甘美な言葉!
「マーカーくん、レベル25突破おめでとう。」
「ありがとうございます。」
差し出されたハンス先生の手を握る。
「これなら5月からダンジョン実習に行けるよ。そしたらレベルももっと上がるし、楽しみだねー。」
「ほんとですか?!」
「やっぱり魔物討伐が一番効率いいからねー。あと一般治癒もできるから、神殿に実習申請出してみる?」
「‥神殿、ですか‥。」
「気がのらない?」
先月の進級テストを思い出すと、あまり神殿に関わりたくない。
「わたしはダンジョンでレベル上げがしたいです。」
「ん、じゃあそういうカリキュラムを組もうか。じゃあ次のケイン・ミッドガルくんを呼んでくれる?」
「アリス、どうだったの?」
席に戻るとリリカが話しかけてくる。
「うん、ダンジョン実習に行けるって。」
「凄いじゃない! ねえ、どこのダンジョンにする?」
わたしのオススメはね、と鞄から地図を出して広げる。
「まずは軍資金があったほうがいいと思うのよ。換金率のいい魔鋼や素材が採れるところから行きましょうね!」
リリカ、すごく生き生きしてる。
「ふふっ、わたしもリリカが一緒なら頼もしいわ。」
「え? わたしはまだ行けないわよ。」
「ええっ?」
「レベル22だもの。だからアリスに採ってきてほしいのよ。」
「ははっ、さすがミス・ノービスだな!」
左の席から楽しそうにベリアルが笑う。
「俺向きのダンジョンある?」
「ベルへのオススメはね‥。」
「俺も行くぞ。」
ベリアルの後ろからセドリック王子も口を挟んでくる。
「騎士レベルは30だ。」
「凄い、殿下そんなにお強いんですね!」
「え‥俺もしかして抜かれたのか?」
「お前は魔術師だろう。俺と張り合ってどうする。」
「セドリックには負けたくない。」
ベリアルが子供みたいに口を尖らせる。
「ほらベリアル、『鑑定』の順番みたいよ?」
ベリアルの前の席のウィリアムが戻ってきた。
「ああ、なんか急に気が重くなったな‥。」
足取り重く、ベリアルが教室を出ていった。
「殿下とベルは仲がよろしいんですね?」
リリカは『殿下』呼びを崩さない。
『平民が王族を名前で呼べるわけないでしょ』と一喝された。
わたしはなるべく名前を呼ばないで済むように会話している。
「俺とベルは剣の師匠が同じだ。」
「『剣』ですか?」
「ああ、2年ほど前にベルが入ってきた。」
セドリック王子がクックッと思い出し笑いを浮かべる。
「すぐに叩きのめしたらムキになって、面白い男だ。」
「‥俺が王になったら、奴は是非取り立てたいな。」