2年生4月:第2王子
わたしはリリカに引っ張られて殿下の後ろに立った。
『貴族なんだからアリスが相手してよ!』
リリカに肘で促されて、わたしが先に挨拶をすることになる。
「初めまして殿下。アリス・エアル・マーカーと申します。」
「リリカ・ノービスでございます。僭越でございますが、これから殿下に学園を案内させていだきます。」
「よろしく頼む。マーカー子爵令嬢とアーチャー商会社長令嬢でよかったな? 俺のことはどうか気軽に『セドリック』と呼んでほしい。」
「そんな失礼なこと。」
「俺はここに魔法を学びにきた『一生徒』だ。いいな、アリス。」
‥これ、すでに『一生徒』の態度じゃないよね。
「そんなの『一生徒』の態度じゃないよ、殿下。」
フランクな物言いに振り返ると、ベリアルが立っていた。
「ってか、なんで殿下がダリアにいる? あんた学院の生徒だろ。」
「1年間の交換留学だ。学院にもダリアの3年生がきてるはずだぞ。」
「だとして、何で俺に知らせない?」
「ベルを驚かせたかった。教室にいなかったのは計算外だったが。」
真顔で言われて、ベリアルがため息をつく。
「えっとアリス、今はどういう状況?」
「これから殿下に学園内を案内するところよ。」
「わかった、俺が案内するよ。」
ベリアルの提案にリリカの表情がパッと明るくなる。
「男の案内はつまらんし、なんだその『殿下』は。いつもどおり名前で呼べ。」
「わかったよセドリック、俺だけで充分だろ?」
「ベルがそこまで言うなら仕方ないな。」
セドリック王子が鞄を持って立ち上がる。
「アリス、リリカ、明日からよろしく頼む。」
「「はい殿下。」」
彼らが並んで教室を出ていき、わたしたちはようやく肩の力を抜いた。
「ーねえアリス、食堂で甘いもの食べてから帰らない?」
リリカの提案に、わたしは即座に頷いた。
お昼時で、ハンバーグランチを食べてからパフェを追加オーダーした。
「王族なんて初めて会ったわ‥。」
こんなに疲れているリリカは珍しい。
「そんなに緊張したの?」
「あたりまえでしょ! 」
テレビのないこの世界、王族の顔を見る機会はほとんどない。
王城に上がったことのないわたしは、王子たちは当然、国王の顔も知らない。
「ベリアルは王子と知り合いーお友達なのかしら?」
「ランス公爵は長く宰相をお務めだから、王家と繋がりが深いはずよ。」
リリカは政治経済の話題にも強い。
「第1王子はもう王政に関わっているはずよ。第2王子はまだ学生で体育会系のしっかりした方と聞いていたけれど‥。」
セドリック王子は厚みのある、鍛えられた身体をしていた。
「でも剣技学院からどうして魔法学園に留学してくるのかがわからないわ。」
「よくあることではないの?」
「ローズで聞いたことはなかったけど‥ダリアとシリウスは校風が似ているから親交があるのかしら。」
「そのね、リリカ‥。」
『シリウス剣技学院』
「『剣技学院』ってどういうところなの?』
リリカはパフェを食べる手をとめる。
「そこから?」
「お願いします‥。」
「『騎士』を養成する中高一貫の学校よ。王都にたった3校しかなくて、全部男子校。」
『騎士』は男性しかなれないから、と補足してくれる。
「かなり訓練が厳しいらしくて、卒業生の団結力が凄いのよねー。」
「じゃあ殿下は『騎士』になるの?」
「騎士団に入ることはないでしょうけど、『騎士』の資格は取るつもりと思うわよ。」
リリカはパフェのチェリーを口の中で転がしながら呟く。
「ほんとにどうして、ダリアにいらしたのかしら?」