2年生4月:留学生
入学式の手伝いが終わり、私たちは『2年A組』の教室に集まった。
教室がワンフロア上がっただけで、A組の雰囲気は何も変わらない。
講堂で入学式が行われている間、在校生は各教室で新学年初のホームルームを受けることになっていた。
座席は相変わらず出席番号順。
ただキャサリンの退学で全員の番号が繰り上がったので、席がひとつずつずれている。
わたしは後ろから2番目にずれたけど、左の席はベリアル、右の席はリリカのまま。
生徒会長のベリアルは入学式に参加中だ。
2年A組、総勢19名。
欠員1名の枠はそのまま、B組から誰も上がってこなかった。
「はいはいはい、みんな久しぶりー。」
入ってきた担任教師は、ハンス・クラレール先生26歳。
「ひとりもAから脱落しなくてなによりだよー、みんな僕の教え子でよかったね~。」
軽い笑顔と台詞も相変わらずだ。
「2年生はガンガン魔法実習やってくから、みんな頑張ってよねー、とその前にランスくんがいないけど紹介しちゃおう。」
ハンス先生は教室の扉を開き、廊下から誰かを招き入れる。
「ー中へどうぞ。」
カツ、カツ、カツ、とショートブーツの音が響く。
入ってきたのは、背が高くがっしりした身体にダリア魔法学園の制服を着た男子生徒。
文字通り『黄金色』の艶やかな金髪をかきあげ、深い碧色の瞳がわたしたちを見渡した。
「『シリウス剣技学院』高等部2年、セドリック・アドラ・ディ・グラッドだ。1年間よろしく頼む。」
「嘘‥。」
右隣のリリカが小さく息を呑む。
「殿下は学院からの交換留学生として1年間、このクラスで魔法を学ばれますー。」
「クラレール先生、特別扱いでなく、他の生徒と同じように振る舞ってもらえないだろうか。」
「‥‥‥。」
「私はこの学園で魔法を学ぶ身だ。秀でた魔術師の先生に気を遣われるわけにはいかない。」
「ーじゃ、殿下たっての希望ってことで。」
パンっと手をひとつたたいて、ハンス先生はいつもの調子に戻る。
「グラッドくんの席はあの右端の一番後ろね。リリカ・ノービスくん。」
「は、はいっ。」
「今年も君がクラス委員ってことでよろしくー。で、この後グラッドくんに学園を案内してあげて。」
ひいっとリリカの喉が鳴る。
「あの、マーカーさんに手伝ってもらっていいでしょうか? その、身分が‥。」
ちょっとリリカ?!
「それでいーよー、じゃあホームルーム始めよっか。」
『セドリック・アドラ・ディ・グラッド』グラディス王国第2王子。
彼は優雅にベリアルの後ろの席に腰かける。
クラス中が彼を気にして落ち着きがない。
「2年生前期の行事予定はー。」
ハンス先生の説明が頭を通り抜けて、あっという間にホームルームが終了した。
「各自プリントよく読んどいてねー、それじゃまた明日~。」