2年生4月:入学式
4月が一週間過ぎて、学園内の桜にちらほらと若葉が混じってきた頃。
今日はダリア魔法学園高等部の入学式だ。
新入生100名を迎え入れるため、2年A組の生徒は全員、朝から入学式の準備に駆り出されていた。
「全員、A組に残れてよかったわ。」
椅子を並べながらリリカが言うと、イマリがすぐに反応した。
「うん、2年生棟に無事引っ越せてよかったー!」
2年生のクラス発表は、3月のうちに行われた。
寮の1年生棟から2年生棟への引っ越しがあるからだ。
成績によっては自主退学する生徒もいるので、引っ越し前に決められるよう3月の面談で成績が伝えられた。
「まだ全然お部屋が片付かないです~。」
スーザンが椅子を3つまとめて運んでくる。
「そんなに持って大丈夫?」
「お店で鍛えてますから、これくらい余裕ですよ~。」
スーザンの実家は王都指折りの定食屋で、週末はよく帰って手伝っている。
‥料理長と恋人らしいから、それでよく帰ってるんじゃないかな。
イマリも年下の彼が入学してくるし、目に見えてウキウキしている。
「もう1年経ったのよね‥。」
去年、たったひとりで不安だった入学式。
祖父にお願いすれば来てくれたのかもと思うけど、去年のわたしはまだ何にもわからなくて、いっぱいいっぱいだった。
「今年は修学旅行があるもんね~。」
「6月だったかしら。」
「アリス様、みんなと一緒に観光しますよね、ね、ねっ!」
「もー、スーザン、その様付けやめてってば。」
「アリスは貴族なんだからあきらめなさいよ。」
「リリカたちはそんな呼び方しないじゃない。」
「スーザンはこういうのが好きなのよ。付き合ってあげたら?」
みんなとの他愛ない、いつもの会話。
「女子ってほんとにぎやかだな‥。」
「あら、生徒会長、おつかれさま。」
「おつかれさまです~。」
「ここ終わったら受付よろしく頼むね。」
ベリアルは進行を確認しながらあちこちに声をかけていく。
「そろそろ受付が始まる時間ね。」
今日もリリカの仕切りがありがたい。
「本日はおめでとうございます。」
講堂の外に置かれた受付台で、わたしたちは新入生にリボンを渡していく。
「ディック・メイビス・ブレイカーです。」
「はい‥こちらを胸にお願いします。」
「どうも。」
ディックが胸ポケットのあたりにリボンを付け終わってから、もう1枚プリントを渡す。
「新入生挨拶の確認をしたいとのことなので、中にご案内しますね。」
彼は黙ったまま、わたしについて講堂の入り口をくぐる。
「靴のままでどうぞ。あ、ここ、段差があるのでっ、」
気をつけてーと続ける前に自分が段差に引っかかってしまう。
前に転びそうになるのを、ディックが後ろから引き留めてくれた。
「ありがと‥。」
とっさに胸元に回されたディックの腕に、わたしの鼓動が速くなる。
「なんであんたが緊張してんの。」
「緊張してるわけじゃ、」
「じゃなに?」
「えーっと‥、こちらです。」
控え室の扉をノックしてから開けると、ベリアルを筆頭に生徒会メンバーが立ち上がってディックを迎えてくれた。
受け付けに戻ろうとしたわたしにディックが振り返る。
「案内ありがと。」
肩越しに、サラリとした髪から少しだけ見えたディックの横顔は。
『案内ありがと。』
それはディックの生意気な口元が印象的に描かれた、春らしい色合いが美しい出会いのスチル。
「‥ご入学、おめでとうございます。」
ー『ダリア魔法学園』高等部2年目。
さあ、最後の1年が始まる。