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1年生3月:卒業式(3)

何故わざわざこんな人目につかないところに呼び出すのか。

生徒会室でするには話題が相応しくないからか。

予想される展開に内心うんざりしていても、エリオスは礼儀正しい態度を崩さない。


「先輩、ご卒業おめでとうございます。」

相手はかなり緊張しているのか、しばらく沈黙が続く。


「‥ずっと、会長を尊敬していました。」

「先輩のお力添えには、深く感謝しています。」

「会長は誰にでもそうだ。」

エリオスの答えが気に入らないのか、相手が吐き捨てるように呟く。


「私の気持ち、お気付きでしたよね?」


気付いていたら応えないといけないのか?

「ブライド先輩、ではどういう言葉なら満足していただけますか?」


前生徒会副会長、マギ・ブライド。

1年間エリオスに付き従い、誠実にサポートし続けた男子生徒。

エリオスは彼の丁寧な仕事に感謝しているけれど。


「自分には大切な女性がいます。だから先輩の気持ちに応えることはできません。」

「嘘だ! 会長はこれまで誰の告白も受けることはなかった! 私は会長も女性嫌いだと期待して‥。」


なるほど、エリオスは中等部の頃から降るような告白を全て断り、誰とも付き合ったことがなかった。

女嫌いという噂も流れたことがある。


「人は自分の信じたいものを信じる、か。」

これまで誰も心に引っ掛からなかっただけで、女性全てに同じように優しく接していたつもりだ。

「勝手な気持ちを押し付けられるのは不愉快なものです。」

エリオスは声のトーンを下げ、不機嫌さを露にする。


「‥会長が、あんな女に興味を持たなければ、私はこのままの関係で満足できたのに‥!」


アリス・エアル・マーカー子爵令嬢。

初めて見たときから気になった、どことなく不安定な、貴族社会に慣れない雰囲気をまとった、それでも真っ直ぐに前を見つめる少女。

無茶な闘いにたった一人で挑み、友人を助けようと必死に立ち上がろうとする。

エリオスと同じ転生者ということは嬉しいが、それも蛇足だ。


(転生者でなくても、オレはきっと欲しいと思った。)


だいたい口説いている最中の女性を『あんな女』呼ばわりとは。


「だからアリスの悪評を流したのか。」

エリオスはブライドの方に詰め寄る。

アリスがエリオスに熱をあげて押しかけているーそんな噂で、一時期ファンクラブ(非公認)の女子生徒たちがアリスに嫌がらせをしていた。


「夏休み明けに起こったアリスへの嫌がらせ、お前の仕業だったな。」

一部の女子の暴走、ではなかった。

エリオスは精密な情報網で、これをブライドが煽っていたことをつかんでいる。


エリオスの口調が変わったことに気付かず、ブライドは声を張り上げる。

「ーたかが子爵の庶子のくせに貴族面して、会長の周りをうろつくなんて許せません!」

「アリスはオレに泣き言ひとつ言わなかった。」

「卑しい身の程をわきまえただけでしょう。」


「ーくだらねぇ。」


エリオスはウォール公爵家嫡男の仮面を脱ぎ捨てる。

「オレに誰がふさわしいとか、お前が勝手に決めてんじゃねぇよ。」


「ーは?」

豹変したエリオスに、ブライドは間抜けな声を上げた。

「な、なに、どうしたんです会長?!」

貴方はそんなーと言いかけたブライドの額に、冷たい銃口が押し当てられる。

「お前、ちょっと黙れ。」

「は? はぁ?!」

「黙れって。」


腹に強烈な膝蹴りを受け、ブライドがうめき声をあげて地面に転がった。

くの字になって転がるブライドをエリオスはさらに蹴り飛ばす。


「なにを、会長‥。」

「貴族だ平民だ、オレには価値のないことだ。一緒に仕事をしてきた平民のお前に伝わってなかったとは残念だよ。」


エリオスは左胸のホルダーに拳銃を納め、踵を返す。

「もうオレに関わるな。」


「ちっくしょおおおおお!!!!!」


咆哮したブライドの手に、深紅の杖が握られていた。


「『炎矢フレア・アロー』!!!」

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