1年生3月:卒業式(2)
高等部校舎から図書館までは10分ほど。
学園内にはまだたくさんの生徒が残っていて、歩きながら重い話ができる感じじゃない。
ベリアルの話ってなんだろう?
ベリアルはわたしに合わせて、少しゆっくりめに隣を歩いてくれる。
「‥アリスはさ、生徒会に入りたかった?」
これは意外な質問。
ベリアルが生徒会長に決まってからは、何人もの生徒が役員に立候補してベリアルに売り込んでいた。
結局2年生の役員2人が残留して、クラスメイトのレナードだけが新規加入して新生徒会が発足したけれど。
「わたし、生徒会役員をやりたいなんて思ったことありませんよ?」
「ーだよね。」
ベリアルの顔にホッとした表情が浮かぶ。
「生徒会引き継ぎの時、ウォール先輩から君を新生徒会に参加させたいって話があって。」
‥なにそれ、そんなこと頼んだ覚えない。
「ウォール先輩が役員継続する条件みたいになりかけて、」
新生徒会への引き継ぎは1月だったから、もう2ヶ月前の話だ。
「でも俺、アリスに確認せずに断ってしまった。」
新生徒会メンバーは、ベリアルが必要な人を選ぶべきで、わたしが生徒会に必要とは思えない。
結局、前生徒会長のエリオスは副会長としてベリアルのサポートについている。
なんでエリオスはそんなこと言ったのだろう。
「わたしも初耳ですけど、そんなの断るのが当然ですし、ベリアルが気にすることありませんよ。」
わたしの言葉に、ベリアルは逆に目をそらした。
これが本題じゃない?
「他にわたしに聞きたいことが?」
「‥いや、まあその‥。」
歯切れ、悪いな。
ベリアルらしくない。
図書館の前に着いてしまい、わたしは足を止める。
「それでは、わたしはここで。ブレイカーくんに『ご卒業おめでとうございます』とお伝えくださいね。」
「ん、ディックに伝えるよ。また来週な。」
「ねー、ノワール。何だったんだろうね~。」
図書館て本を返してから、さらに先の中等部との間にある森の一角のベンチで、わたしは膝にのせた黒犬のブラッシングをしている。
モフモフ犬のノワールは気持ち良さそうにしている、と思うのだけど、相変わらずの長い毛で目が隠れてしまって表情がわからない。
尻尾がパタン、パタンとリズムよく動いているので機嫌はよさそう。
「ベリアル、ほんとは何を言いたかったんだろう。」
胸がなんとなくモヤモヤっとして、ノワールに癒されにきてしまった。
ノワールはずいぶん大きく重くなったけど、わたしが立ち寄るといつも足にすり寄ってきてくれる。
季節の変わり目だからか、たくさんの毛が抜けた。
「はいノワール、おしまいだよー。」
向い合わせでノワールの頭を撫でると、子犬はわたしの胸元に頭をすり寄せてから、膝からとび下りた。
ん?
ノワールの頭から赤い紐が垂れ下がっている。
制服の襟元に結んでいる赤いリボンタイがほどけて、ノワールの体にくっついてしまった。
「ノワール、ちょっとごめんね。」
手を伸ばしてタイを取ろうとする。
と、ノワールの耳がピンと立ってパッと走り出してしまった。
「ええっ、ノワール待って!」
いつも急に駆けていなくなる子犬だけど、今日は困る。
わたしは慌ててノワールを追いかけた。
ノワールがとびこんだ低木の垣根を回り込んで追いかける。
見失わないけれど、ちょっとした木が邪魔で捕まえられない。
ーモフモフしてるのに、結構速い!
「もう、ちょっと、待ってよぉ。」
体力には自信あるけど、雑木林は走りにくくて自由に走っていくノワールの方が有利だ。
「もう‥、ノワール‥、」
「どうして、ミス・マーカーなんですか!」
息が上がってきたわたしの耳に、そんな声がとびこんできた。
「会長! 貴方ほどの方がどうして‥!」