1年生3月:進級テスト(3)
魔法学園はもちろん魔法を学ぶ場所だけど、各学園それぞれに方針がある。
ダリアの校訓は『対魔』、すなわち『魔物に対抗できる魔術師の育成』を柱としているため、攻撃魔法の講座、講師陣が手厚い。
2年生からはダンジョン実習が組まれるので、それに見合う実力があるか推し測ることが学年末テストの目的だ。
2日間の実技テストは、初日は個人技、2日目はチーム力の試験だ。
初日の結果を元に、最大で4人のチームを組んで召喚魔物の討伐戦をする、と聞いていたのだけど。
「‥名前、無いし。」
朝からアリーナに集合して、貼り出されたチーム表にわたしの名前が無い。
一応、A組からE組まで見たけどどこにもない。
「アリスは誰と一緒?」
わたしはイマリに首をふるふるしてみせる。
「名前が見つからないの。」
「アリス、ここにあるわよー。」
リリカの指したところを見ると、配置図の中に『本部救護班 アリス・エアル・マーカー』と書かれていた。
「あ~、マーカーくん見つけた~!」
ハンス先生がわたしを指差しながら走ってきた。
「早くこっち来て!」
尋ねる隙もなくハンス先生に引っ張られて、アリーナ中央の本部テントに連れていかれた。
アリーナには4つのステージが組まれていて、対抗戦を思い出させるレイアウトだ。
その真ん中の本部テントで、わたしは白衣の養護教諭と並んで座らされる。
「あの、わたしの試験は?」
「マーカーくんが入っちゃうとテストにならないんだよね~。」
は?
「ほら、『聖域』とかもう無敵だし、生徒の実力関係無く討伐できちゃうじゃん?」
ハンス先生の説明は、まあそうかもしれないど。
「一番最後にマーカーくんの個人戦を予定しているから、それのまで救護班の手伝いをしてて。」
「‥はい、わかりました。」
なんだか仲間外れにされたみたいで面白くないような。
そうしてE組から試験が始まった。
召喚された魔獣1体にチームで攻撃をしかける。
チームの標準は、前衛1人、後衛1人、防衛1人、補助1人の4人構成。
ダリアではアタッカーの割合が多いので、アタッカー3人+ディフェンダー1人、となることが多い。
「『魔力上昇』!」
「『炎槍』!」
今回の攻略対象は大型の熊型魔獣『グリズリー』。
厚い毛皮が攻撃を吸収する、獰猛で防御力が高い魔物だ。
制限時間3分のうちに倒そうと、どのチームも積極的に攻撃を展開していた。
時間内に倒しきれないとタイムアップになってしまうが、難易度レベルCの魔物を時間内に倒せるのはB組くらいからだった。
というか、B組の気合いが凄い。
「今年は確実に1人、A組に上がるからね~。」
ハンス先生は手元の資料にチェックを付けている。
「ああ、今の子がB組トップかぁ。まあ悪くはないかな。」
途中でキャサリンが退学になっているから、A組は1人分空きがある。
「A組からB組に落ちることってあるんですか?」
ハンス先生はわたしに振り向くと、笑顔で宣言する。
「実力次第だからね、当然あるでしょ。」
A組になると、全チームがほぼ一撃でグリズリーを退治していく。
ベリアルのチームは息を合わせたアタッカー3人の同時攻撃で、グリズリーが跡形もなく消滅した。
ちなみにアタッカーの攻撃直前に、サポーターがグリズリーの動きを停める魔法をかけている。
「うん、試験の趣旨をよくわかってくれて助かるよ。」
ハンス先生の資料が気になるけど、さすがに覗きこむわけにいかない。
ほとんど怪我人が出なくて、わたしはテントから眺めているだけで、A組まで全チームの試験が終わってしまった。
「よし、じゃあマーカーくんの試験を始めようか。」