1年生2月:林間学校(2)
2月恋愛イベント『林間学校』
スキー実施中のヒロインは、滑走中に飛び出してきたウサギに驚き、コースアウトしてしまう。
斜面を転がり落ち、ケガをして動けなくなった彼女を助けてくれたのは‥?
もちろん、この時点で一番好感度が高いキャラが助けてくれる。
研修に来ているのはベリアルだけなので、ベリアルの場合は彼女に手をさしのべるスチルが、他のキャラクターの場合はヒロインが病院で目を覚ましたとき、彼女を抱きしめるスチルが手に入る。
‥遭難、しなきゃダメかなあ‥。
すっごく気が進まないんだけど。
「あらアリス、まだ食べるの?」
ディナービュッフェでパスタをおかわりしているわたしの後ろを、スイーツプレートを持ったリリカたちが通っていく。
「んー、今日はすごくお腹がすいちゃって。」
というか、明日の遭難に備えて体力温存しようとしてるわけで。
部屋に戻ったらすぐにベッドに転がる。
「ちゃんと着替えて歯磨きしなさいよ。」
「もー、リリカってばお母さんみたい。」
「お母さんって‥。」
リリカも自分のベッドに腰かける。
「ねえアリス、言いにくかったら別にいいんだけど。」
「なに? 改まって。」
「ウォール先輩と付き合い始めたの?」
わたしは起き上がるとリリカに断言する。
「付き合ってないわ。」
「じゃあなぜ、その目立つピアスをしているの?」
実は、エリオスと会った日からこのピアスが外せなくなった。
多分エリオスが何かしたんだと思うけど、いつもは髪で隠して過ごしている。
でもそれをリリカに言って大丈夫かな?
コンコン、と扉がノックされた。
「マーカーくん、いるかな~?」
ハンス先生の声だ。
「はい、なんですか?」
「君にお客さんが来てるから、下の喫茶室に出てこれる?」
リリカを見ると、どうぞとうなずいてくれた。
「はい、すぐ行きます。」
「アリスお嬢様、お待ちしておりました。」
1階に降りると、うちの執事さんが頭を下げて出迎えてくれた。
「あら、お客さまってお祖父様?」
「いいえ、マーサ様が中でお待ちです。」
ママが?
「あの、一応研修中なんで、10時まででお願いします。」
「はい、クラレール先生。この度は無理を聞いていただきありがとうございます。」
「いいですよ、これくらい。僕、ロビーにいますから終わったら声をかけてくださいね。」
「さ、アリスお嬢様。」
営業時間が終わっている喫茶室の端の席に、ママが座っていた。
「アリスちゃん!」
ママはわたしを見ると、立ち上がってぎゅうっと抱きしめた。
ママの手がわたしの頭や背中をさする。
久しぶりの、ママの匂い。
「ママ‥。」
わたしもママの体を抱きしめた。
小さな子供に戻ったみたいにしがみつく。
「よかった、元気になってよかったぁ‥。」
「うん、もう大丈夫だからね。」
ぽんぽんと、頭をたたいて。
「ね、ケーキ食べましょ。モンブラン好きでしょ?」
執事さんがケーキと紅茶をサーブしてくれる。
わたしたちはすぐにケーキを食べてしまって、それからこれまでのことをいろいろ話した。
「学園の劇ってすごいのね。アリスちゃん、とても楽しそうだったわ。」
「新しい学校でちゃんとお友達できた? 他の貴族の子にいじめられたりしてない?」
「子爵邸ではみんなよくしてくれて、ママ前よりずいぶん太ったでしょう?」
「そうそう、ママね、字を教えてもらっているの。アリスちゃんにお手紙書きたくて。」
ずっとママが話しているんだけど、それがとても嬉しい。
この島での最後の夏は、ほんとに骨だけみたいに痩せ細って、しゃべることも難しくて。
病気がひどくなる前のママは、よく働いて、近所のおばさんとよくおしゃべりしてる、明るい人だった。
病気と思っていたのも、実はわたしにかけられた封印が原因で、わたしのせいであんなに苦しませてしまったのに。
ニコニコして見ていたら、ふとママがわたしの頬にふれた。
「ねえ、すごく綺麗になったわ。ひょっとして彼氏が?」
「彼氏とか、そんなことまだないよ。」
「そう? もう16歳だし、恋のひとつくらい。」
「ママはどうだったの? その‥パパと。」
ママからパパのことを聞いたことがない。
『アリスちゃんのパパはね、アリスちゃんが生まれる前に魔物に殺されちゃったの。』
そう言うだけで、どういう人だったとかそんな話は1度もしてくれなかった。
「それは‥今度手紙を書くわ。今日はもう遅いし。」
喫茶室の柱時計が、ボーンと10時を告げた。
「ありがとう、アリスちゃん。貴女が幸せでいてくれるのが、わたしの幸せなの。」
「ねえ、ママは王都のお屋敷に住まないの? そしたらわたし、毎週末帰るよ。」
「ごめんね、ママは王都に入れないの。」
‥入れない?
「アリスお嬢様、クラレール先生とのお約束の時間ですので。」
執事さんに促されて、席を立つ。
ママは『バイバイ』と小さく手を振った。
執事さんがロビーに案内しようとするのを母についていてほしいと断って、一人でハンス先生の所に向かう。
母のことに気をとられてあまり前をよく見ていなかったみたいで、角から出てきた人とぶつかってしまった。
「あ、すみません。」
「申し訳ありません!」
相手はホテルスタッフさんで、勢いよくわたしに頭を下げる。
「お怪我は‥あれ?」
30歳くらいに見えるその男性スタッフは、わたしの顔をじっと見て。
「お前、アズか?」