1年生2月:合格発表【改稿】
2月1日、午後1時。
毎年この日時がダリア魔法学園の合格発表。
正門の前に小さな掲示板が立てられ、そこに載る番号はたった100人だけ。
発表は掲示板のみ、合格者はそのまま事務室へ向かい手続きを済ませる。
ちなみに補欠合格は無い。
「イマリ、お昼食べれないの?」
学食のオムライスが全然減っていない。
「うん、緊張してのどを通らない‥。」
イマリは1つ下の後輩がダリアを受験していて、合格したら付き合うことになっている。
「午後から実技よ。頑張って食べよ?」
「んー、頑張る‥。」
わたしたちはいつもどおり授業で、結果は下校するまでわからない。
「今年の受験生、500人越えたらしいわよ?」
「わわ、リリカさん今言わなくても。」
「対抗戦、決勝トーナメントに残ったんでしょ? きっと大丈夫よ。」
わたしたちの前に座ったリリカとスーザンのトレーは、がっつりなステーキプレート。
「二人ともよくそんなに食べられるわね。」
「魔力使うと、お腹ペコペコになるんです。」
「アリスにそんなこと言ってもムダよ。このこ魔力お化けだから。」
「ねえリリカ、もう少しオブラートに包んでもよくないかしら?」
「嫌よ、面倒だわ。」
‥これはわたしたちが仲良くなったから、と信じよう。
「彼が合格したら、イマリさんとお付き合いするんでしょ。年下の彼氏さん、ステキです~。」
「ええ、スーザンも彼氏ほしいの?」
「彼氏はいますよぉ。」
「「いたの?!」」
わたしとリリカの声が重なる。
「うちのチーフさんと結婚してお店を継ぐ約束です。」
スーザンの実家は王都で人気の大衆食堂だ。
「わたしが魔法をかければ、疲れずに24時間バリバリ働けて安心です。」
‥それじゃブラック企業だからね。
ということは。
「彼氏いないの、わたしだけ?」
リリカは全然のろけないけれど、同じクラスに彼氏がいる。
「彼氏ほしいならウォール先輩と付き合えばいいじゃない。」
「アリス様、結局お付き合いしてないんですかぁ?」
「でもスペック高すぎても面倒よね。」
「リリカさん、女子が面倒がっちゃダメです。それを乗り越えての恋なんですから!」
わいわい恋バナが盛り上がるなか、イマリは無言でオムライスをつついていた。
受験って本人より周りが緊張したりする。
イマリの彼がどうか受かってますように。
午後の実技は魔法属性別のクラス。
わたしはスーザンと一緒の補助魔法クラスで、魔力コントロールの訓練を受ける。
人間に直接効果を与える魔法は繊細な魔力コントロールが必要だからと、とにかく瞑想をさせられている。
あとは瞑想の合間にたまに保健室から呼ばれて、怪我をした生徒の治癒を見せてもらったり。
「マーカーさんのレベルが25になったら治癒を任せられるのだけど。」
‥実演無しでどうやってレベルを上げるの?
そんな訓練メニューをこなして、ようやく放課後。
イマリは一人で掲示板を見たいからと先に帰っていったので、わたしは図書館へ向かった。
本を借り換えた後、ノワールの森に寄って帰ろうと思いながら図書館を出るところで。
「ランス先輩、いないんだ?」
「はい、生徒会に入られたので。」
「高等部の生徒会室ってどこ?」
「ええと‥。」
押さえめな声で、ディックが受付係とやりとりしていた。
ダリア魔法学園中等部3年生、ディック・メイビス・ブレイカー。
2年生4月から登場する設定のひとつ年下の彼とはもういろいろエンカウントしてて。
イベント開始前なのに年末の生誕祭でキスされたことは、どう考えたらいいんだろう‥。
「高等部の案内図無い?」
「ええと、学園パンフレットが奥に‥。」
高等部2年生相手にこの口のききかたはよくないと思う。
懐いているベリアル相手だといい子なんだけど。
「ブレイカーくん。」
話すのは気まずいけど、ちょっと受付係さんが気の毒で、後ろから声をかける。
「ベリアルを探してるなら呼んでこようか?」
「‥‥‥。」
振り返った彼はしばらくの沈黙のあと、深くため息をついた。
「邪魔してごめん。この人が案内してくれるって。」
ディックは受付にそう告げると、わたしの手をとって図書館を出る。
「どっち?」
「あ、えっと、こっち。」
「わかった。」
わたしの指した道をさっさと歩いていく。
わたしを引っ張りながら。
学内の移動だから10分もかからずに高等部校舎に着く。
校舎入口までディックを案内して、壁にかかった配置図で確認する。
「生徒会室は4階の一番端だからね。」
「ああ、助かった。」
ここまででいいかなと帰りかけて思い出す。
「高等部合格、おめでとう。」
‥お祝いを言ったつもりだったんだけど、なぜさらにため息?
「あんたさぁ‥、」
すっとディックが距離を詰めてきたので反射的に後ろに下がると、背中が壁にぶつかった。
そのままトン、とディックが壁に両手をつく。
一瞬、わたしを腕の檻に閉じこめて。
「4月から覚悟しろよ。」
ー耳元で、低く囁く。
すぐに体を離して、ディックは階段を上がっていった。
(今のなに‥!)
ふわふわと寮に帰ったわたしは、彼の合格祝いを待ち構えていたイマリに捕まって、ひとしきり彼の惚気を聞かされたのだった。