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1年生1月:騎士【改稿】

『ダリア』は今から100年くらい前の王国に実在した、史上最強の女性魔術師。

彼女の強力な結界魔法と治癒魔法は魔王軍を恐れる人々の希望となり、いつしか『聖女』と呼ばれるようになった。

前線から身を引いたあとは神殿で孤児たちの保護育成に打ち込んでいたが、神殿の方針に反発して飛び出し、魔法学園教師となる。


その彼女の名前を冠した学園が『ダリア魔法学園』。

魔物の脅威から人々を守る魔術師の育成を掲げる、王都最高レベルの魔法学園だ。


ダリアの死後、大神殿が予言を発表した。


『聖女の慈愛により魔王の戒め解かるる』


ダリアは魔王の味方だったのだと、魔王軍の強大化は聖女の力添えによるものだと、そんな噂が王都に流れた。

いまだに神殿勢力と魔法学園勢力の仲が悪いのは、ダリアを巡るこの因縁のせいと言われている。



(困ってるな‥。)

エリオスは、冷静に観察しながら返事を待つ。

アリスの背筋は、いつもまっすぐ伸びている。

こうして問い詰められて目を伏せても、その姿勢は変わらない。


美しい、と思った。

貴族なら姿勢がよくて当然だけれど、芯に力強さを感じて。

人がごった返す昼休みの学食の中で、だから彼女に目が止まったのだろう。

友達と並んで座った彼女は、ランチトレーを前に指先をきちんと揃えて合掌をして。


『いただきます。』


王国は、食べる前に挨拶をする文化がない。

ただ他の国でもないとは言い切れないし、東の国では食前に祈る習慣があったはずだ。


前世の記憶をもったまま、この世界を生きるのは特に問題なかった。

大貴族の嫡男として生まれ、容姿才能にも恵まれ、さらに元公安の観察力で周りの大人たちを籠絡するのは簡単なこと。


『なんて賢い子供だろう。』

『ウォール公爵家は安泰だ。』

『ぜひ娘を嫁がせたいものだ。』


尽きない賛辞に鼻を膨らませる両親は、絵にかいたような傲慢な貴族であまり好きになれない。

父親は王国の大臣を務めている政界の実力者で、態度が偉そうなのは仕方がないと諦めている。


どうせこの世界は夢の続き。

自分の人生はあの時終わったのだから。

ここは気まぐれな神様がくれたボーナスステージ。


だったら、好きなように樂しもう。


「その、すごく説明しづらいんですけど‥。」

アリスが迷いながら言葉を選ぶ。


「わたしは『聖女』に転生した元女子高生です。」


アリスが自分と同じかもしれないと思ったら、どうにかして確かめたかった。

アリスを見ているうちに、どうしても欲しくなった。

公爵家の嫡男と子爵家の庶子では周りがうるさい。

迷惑をかけないようにと思っても、無防備なアリスを前にするといつの間にか歯止めがきかなくなっていて。


「そう、そして自分は、『貴女の騎士』になりました。」


アリス・エアル・マーカーは『聖女』。

エリオス・J・ウォールは『聖女の騎士』。


この立場は、彼女を手に入れたことになるのだろうか?


ステータスの称号が変わってから半年。

エリオスはネットワークを駆使してかなり調べたのだけど、『聖女の騎士』の伝承が見つからなかった。

元公安のスキルで、エリオスはかなりの情報を押さえている。

それでも『聖女の騎士』については能力も役割も、全てが未知。


「魔人『憤怒アンガー』との戦いの時、体の中に貴女の魔力が流れ込んできました。‥とても力強いものでした。」


聖女レッド紅印キス』、絶体絶命の窮地に解放された技能スキルは、完全回復&10分だけの能力倍増効果。

ただしその後24時間の魔力封鎖付き。


勝てたとはいえ、あの戦いを思い出すとエリオスの気持ちは沈む。


(俺も錆び付いたよな‥。)


修羅場なれしていたつもりだった。

この世界でもダンジョンで実戦を重ねてそれなりに自信を持っていたのだけど、火蜥蜴サラマンダーの駆除で力尽きてしまった。

いざとなったら逃げればいいダンジョンの魔物と違い、逃がす気のない魔人の圧力と守らなければならない生徒たちとで、消耗が半端なかったのだ。


「ただしかなりのリスクがあります。短時間のドーピングの後、二人とも動けなくなるほどの反動がきました。」

「はい、そうでした。」

「あのスキルは諸刃の剣です。そしてあんなスキルがあるということは、自分はなにがなんでも貴女を守るべきなのでしょう。」


アリスの肩がぴくりと揺れた。


「教えてください。貴女を何から守ればいいですか?」


ーエリオスは、いつも優しい。

ゲームのイメージそのものの王子様。

同じ転生者と聞いても、日本人だったエリオスが想像できないくらい。


『あと1年で魔王が復活します。』


‥信じてくれるだろうか。

‥信じてくれるんじゃないかな。

‥亜里朱のことを信じてくれたのなら。


「‥先輩を巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。」


「え?」

「大丈夫です、わたし頑張りますから!」


きっとこの人は、この世界に未練がない。

騎士として、迷わずわたしの前で散ってしまうだろう。


「今日はお話ししてくださって、ありがとうございました。」


「いや、なぜ急にそんなセリフになるのかわかりません。アリス、自分は貴女と共に、」

「失礼します!」


わたしは強引に会話を打ち切ると、逃げるように玄関から飛び出した。


わたしはアリス・エアル・マーカー子爵令嬢。

エリオスはわたしの攻略キャラクター。


彼の好意が、苦しかった。


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