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1年生1月:現世

ここは自分の隠れ家で誰もいないからすきなだけ泣いていいよと言われて。

それなりに号泣してしまったわたしの目元を、ほかほかの蒸しタオルが癒してくれている。

ふーっと深く蒸気を吸い込むと、ほんのりラベンダーの香りがして。


「先輩の気配りがすごくて逆にへこむんですけど。」

「え、タオルが熱い?」

「すごく気持ちいいです‥。」


泣き疲れたわたしをエリオスがあれこれお世話してくれる。

落ち着いてきたら、自分でもなんでこんなに泣いてしまったのかよくわからない。


「すみません、何だか混乱しました。」

「久しぶりに前世のことを思い出した?」

「そうかもしれません。まだ前世の記憶と今の記憶がごちゃごちゃしてて‥。」


わたしは1年半前に記憶の封印が解けたこと、その前後の記憶が曖昧なままダリア魔法学園に入学したことをエリオスに話した。


「ああ、だから入学式であんなに不安そうだったんですね。」

「それまでは魔法も全然使ったことなくて‥。」

「この世界の人は誰でも魔力があるでしょう?」

「わたしは前世の記憶が戻るまで、欠片も魔力がなかったんです。だから小学校の魔法の授業はずっと見学してました。」


ほう、とエリオスが驚きの声を上げる。

「それで対抗戦で優勝だなんて、ずいぶん頑張ったんですね。」


「‥わたし、頑張ったんでしょうか?」


「うちの副会長に勝ったんだから、もっと自分を褒めてあげたら?」

そっと蒸しタオルが外される。

ぬくもりを感じさせる木目の高い天井が目に入る。


「ありがとうございます。すごくスッキリしました。」


わたしの前に温かなハーブティーが出された。

部屋の片隅にキッチンがあって、エリオスが手際よくクッキーも出してくれる。

チョコチップクッキーをひとくちかじると、甘さが程よくて嬉しい。


「楽しそうに食べるよね‥アリスはいくつで死んだの?」

「17歳です。高2の冬休みだったんで。」

「女子高生‥それは楽しい盛りだ‥。」

「なんだか言い方がおじさんじゃないですか?」


エリオスはカップを持つ手をとめ、にっこりと首をかしげる。

「ひどいなぁ。前世でもおじさんってほどの年じゃなかったけど。」


‥ここで極上の爽やか笑顔で押し返してくるのが年の功だと思うんです。


「実はちょこちょこ前世サイン出してましたよね?」

「んー、そうでした?」

おにぎりを夜食に出してくれたり、セクハラに反応したり。

「まさか、わたしに気づいてほしくてセクハラしてたんですか!?」

「は?」

そういえばエリオスは初めの頃からやたらと距離が近かった。


「いつもいつも、すっごくドキドキしたんですから!」


「は‥はははっ‥!」


急にエリオスが笑いだした。

いつもの作り笑顔を壊すような、派手な笑い方で。


「いやいやいや、アリスのそういうところ、ひっどいなぁ。」


「ひどっ? ひどくないです!」

「だってこんな天然なお姫さま、‥いや聖女さまか。」


そこでふっと空気が途切れた。

エリオスの雰囲気が変わる。


「ー守れる気がしないよ。」


これが、彼の招待の本題。


「アリス・エアル・マーカー子爵令嬢。」


エリオス・J・ウォールの視線がわたしを射抜く。


「貴女は、いったい何者ですか?」

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