1年生1月:シナリオ
エリオスからの封筒には、舞台のチケットが入っていた。
王国で人気の劇団『四希』による『オペラ座の亡霊』、1月最後の土曜日、午後1時から。
わたしはまたリリカに劇場のマナーやドレスコードを教えてもらい、ついでに大人っぽく飾ってもらって、劇場に着いたところだけど。
「こちらへどうぞ。」
黒服のスタッフさんに恭しく案内されたのは、2席のわりにゆったりした個室ブース。
赤い豪華な椅子に座ると、膝掛けや飲み物やお菓子を次々に準備してくれる。
「しばらくお待ちくださいませ。」
スタッフが下がって少し経つと、エリオスがスーツ姿で現れた。
「寮にお迎えに行かなくてすみませんでした‥目立ってしまうかと思ったので。」
「ご配慮ありがとうございます。」
学園内からこの服装で二人で歩いていたら、それは目立つこと間違いないだろう。
わたしは立ち上がり、スカートの裾をつまんでエリオスに貴族流の挨拶を返す。
「本日は素敵な舞台にお招きくださり、心より御礼申し上げますわ。」
「喜んでもらえたなら嬉しいですね。さあ、もうすぐ開演ですよ。」
座るよう促しながら、そっとわたしの耳元に触れる。
「ピアス、つけてきてくれたんですね。」
「先輩も、ですよね。」
エリオスのネクタイには、わたしがお返しで贈ったタイピンがとめられていた。
「ええ‥まずは舞台を楽しみましょう。」
オペラ座のスターを目指すヒロインのため、醜い『亡霊』は彼女のライバルやスポンサーを次々に殺していく。
『どうして、どうしてこんな恐ろしいことを‥!』
『貴女は何も知らなかった。全ては醜い私が勝手にしたこと。』
『わたくしが優しい貴方に甘えすぎたからなのですね‥。』
『いいえ、貴女は私のただ一つの希望。貴女のためなら私は!』
亡霊は最期に自分の胸にナイフを突き立てる。
『『全ては私の罪‥。』』
彼の亡骸を抱きしめて、ヒロインは高らかにレクイエムを紡ぐ。
無垢で残酷な、ヒロインの透き通った歌声が。
「‥凄い‥。」
澄んだ歌声に心が持っていかれる。
歌声が心の琴線に触れたのか、ぶわっと涙が出てきた。
「あれ、何で‥。」
ハンドバッグからハンカチを出すより先に、エリオスがわたしの目元にハンカチをあてる。
品のいいメンズコロンの香り。
「姫の涙を受け止めるのは騎士の役目ですから。」
わたしの顎を指でくっと上向かせて。
アップで優しく微笑むエリオスは。
(これ、ボーナススチルだ‥。)
ダリア魔法学園物語は育成シミュレーション型で、1ヶ月単位でストーリーが進む。
メインストーリーのイベントは月に1つずつ。
その他にもミニゲームをクリアすることで、デートシナリオとボーナススチルが解放される。
このデートシナリオは。
エリオスの瞳に映るわたしは、そのまま目を閉じた。