1年生1月:新生徒会
昼休みが終わると、1・2年生は講堂に集められた。
学園長が新生徒会役員の名前を読み上げ、各自に任命書が手渡される。
生徒会長 1年A組 ベリアル・イド・ランス
副会長 2年A組 エリオス・J・ウォール
会計 1年A組 レナード・ダイス・オマール
書記 2年A組 ジミー・ライオネル
「ダリア魔法学園をみなのよりよき学舎とするため、微力ですが力を尽くさせていただきます。」
ベリアルの決意表明に生徒たちから拍手が起きる。
彼が選んだ新役員は、クラスメイトのレナードだった。
レナードは穏やかだけど粘り強い努力家で、ベリアルとまた違う人気がある。
演劇祭での王子様役が可愛かったと、他のクラスにもファンがついたとか。
2年生の2人は、どちらも旧生徒会役員の残留だった。
生徒会長が残り3人の役員を決めるといっても、前役員が残留するのが通例だそうで。
就任式のあとは各委員会の定例会が行われて、終わった委員会から順次解散になった。
冬はあまり緑化委員会の仕事がなくて、植樹の世話より落葉の掃除がメイン活動だ。
「焼き芋食べたいなぁ。」
できあがった枯葉の山を眺めると、ふとそんな気持ちがわく。
ほんとにこの枯葉に火をつけたら、たき火どころじゃ済まなさそうだけど。
「何か歌があったんだけどな‥。」
幼稚園で歌った童謡は、もう思い出せない。
手押し車に枯葉を積んで、イマリと堆肥処理場まで運んだらお仕事終了。
「おつかれさま~。」
イマリと手洗い場で別れて、わたしはひとりで図書館へ向かった。
「ああ、アリス。」
図書館の受付で、ベリアルが片付けをしていた。
「あらベリアル‥まさか図書委員会と生徒会の掛け持ちなんですか?」
入館のため、学生証をベリアルに渡す。
「掛け持ちはさすがに無いよ。図書委員は今日が最後だから後片付けをね。」
そういえばわたしが図書館に来たときは、ほとんどベリアルが受付をしていたような。
「いつもお世話になりました。」
「アリスはしょっちゅう本を借りてるからな、よくお世話したよ。」
「そうですわね、ありがとうございました。」
「今日も勉強?」
「ええ、少し調べものを。」
焼き芋が食べたくてサツマイモの産地や流通経路を調べにきたのは秘密にしておこう。
「‥なにかわたしにお話しでも?」
珍しくベリアルが言い淀んでいるように見えて。
朝のエリオスからの封筒のことだろうか。
「‥いや、いいんだ。ひき止めてごめんな。」
学生証を返すときに、ベリアルのシャツの袖口がジャケットから見えて。
わたしが贈った真紅のカフスボタンが煌めいていた。
学園長は灯りをつけず、真っ暗な部屋にいることを好む。
窓からの月明かりが心を落ち着かせるのだとか。
部下の賛否はそれぞれあるようだが。
「来週からの入試試験、準備は滞りなくすすんでいるな?」
「勿論です。」
「志願者数に変化は。」
「‥少し下がりました。魔人騒動の影響でしょうか。」
「気にするな、想定内だ。他には?」
「アリス・エアル・マーカーを引き渡すよう、大神殿から要請がきています。」
「とりあえず今年度いっぱいは無視する。他に何かあるか。」
これまで淡々と受け答えていた教頭が少しためらう。
「アネモネの教師が2名、本校への異動を希望してきています。」
「それがどうした?」
とりたててこの場で出すような事案とは思えない。
「アネモネ学園長からの書状です。」
学園長はデスクランプを灯した。
ざっと目を通すと、机に手紙を伏せる。
「魔人騒動で一度死に復活した者が、異常なほどミス・マーカーへ傾倒していると。」
あのとき死亡した教師は、二人ともアネモネ魔法学園の所属だった。
「‥レナード・ダイス・オマールは‥。」
今日、生徒会役員に任命した1年生の顔を思い出す。
クラスメイトの彼が、1番最初に彼女が復活させた者でなかったか。
「うちに有益と判断する人材なら受け入れて構わない。教師の人事はいつもどおりだ。」
「わかりました。入学者の確定後、教師の人事案を提出いたします。」
教頭が部屋を出た後、学園長は部屋の隅に視線を送る。
「ファン。」
「はい、ここに。」
「聖女の交遊関係はどうなっている? ‥生誕祭でなにかあったようだが。」
「エリオス・J・ウォールとの交際の噂ですが、事実ではありません。」
「そうか。」
「他に何名か聖女に好意を寄せているようですが、聖女の方にその気はないようです。」
「‥なぜそう判断する?」
「聖女からまったく色気が感じられません。」
「色気?」
「基本無防備で、まるで小学生のようです。」
「まだお子さま、ということか。」
学園長はデスクランプを消す。
「私としてはお前が惚れなければそれでいい。監視を続けろ。」
「はい、失礼します。」
なあファン、気づいているか?
音もなく学園長室から出ていったファンの残像に問いかける。
聖女について話すお前の表情に。
俺が1番わかっているのだと、独占欲が滲んだ声音に。
気づいているか?