1年生1月:夢
「そのピアス、アリスによく似合うわね。」
「そう‥かな。ちゃんとしたアクセサリーって初めてなの。」
魔装具はいくつか身につけているけど、指輪もペンダントも魔鋼の地金だけ、模様もないシンプルなものだ。
ピアスの輝きは、なんだかちょっとむずがゆいような、嬉しいような、ふわふわっとした気持ちになる。
「可愛いアクセつけると楽しくならない?」
リリカはわたしが右腕にはめた『節約の腕輪』をさわる。
内部に呪文が彫られているそうだけど、表面はなんの飾りもないバングルで、金属製のわっかにしか見えない。
「この腕輪はアーチャー商会のヒット商品なの。」
魔法使用時のMP消費を1割減らしてくれて、耐久性もそこそこ、お値段以上の効果があると口コミも上々。
わたしがアーチャー会長から贈られたものはMP消費を2割抑える上位モデルらしい。
「でも『節約の腕輪』って‥心がときめかないでしょ!」
うん、それはそうかも。
わたしももらったときに、ちょっとカッコ悪いなぁと思ったし。
でも魔力20パーセントオフは魅力的で、いつも身につけている。
『復活』の魔法は5,000MPを消費する。
この腕輪があれば、2人まで助けられる。
「魔装具は実用品だけど、もっと可愛いものがほしいの!」
だからね、とリリカは奥から四角のケースを持ってくる。
「こういうのどう?」
そこに並べられているのは、カラーストーンの花やハートがあしらわれたリングやピアス。
「わあ、可愛い‥!」
細いラインリングや、重ね付けになってる3連リング。
ドロップモチーフのペンダントとお揃いのピアス。
シルバーやゴールドの、普通のアクセサリーに見える。
「これ魔装具なの?」
魔鋼はシルバーより少し黒ずんでいるから、こんなにキラキラしない。
「魔鋼に金でコーティングしてるから魔装具に見えないでしょう? 魔石も特殊な染料で染めてるのよ。」
「すごく素敵ね。リリカが作ったの?」
「キャサリンが作って、わたしが売ってるの。」
アクセサリーには小さな札に値段と効用が書いてある。
クローバーモチーフの重ね付けリングは『魔力増幅』効果で、3本セットが金貨1枚。
普通の飾りのないものより3割くらい割高だけど。
「これ可愛い‥。」
金貨1枚‥買えないことはないけど、今日は別の買い物の予定がある。
「可愛いでしょう? キャサリンは魔道具や魔装具開発の才能があってね、それにセンスもすごくいいのよ。」
リリカは嬉しそうにキャサリンのことを話す。
「キャサリンはどうしているの?」
「王都を離れて国境付近の村に居るわ。あと3年くらいかしら、保護観察が終わるまで王都には帰れないの。」
「3年‥寂しいわね。」
「3年なんてすぐよ。戻ってきたら一緒にオーダー魔装具のお店を始めるつもりだから、オープンしたらよろしくね。」
お店を出すって、起業するみたいな?
「すごいわ、リリカは将来のこともう考えてるのね。」
「みんな進路は考えてるわよ。アリスは卒業したらどうするの?」
「卒業したら‥?」
ダリア魔法学園を卒業したら。
魔王が復活するのは、2年生の『ダリア生誕祭』。
次の年が明けたら恋愛シミュレーションからバトルモードに切り替わる。
わたしはそれまでに魔王を倒せるくらいレベルを上げて。
攻略キャラと好感度を上げて魔王討伐パーティーを組んで。
復活した魔王と戦って、そして。
「貴族だと好きなところでは働けないのかしら? それともすぐご結婚とか?」
リリカは無邪気にわたしのピアスをつつく。
「生徒会長とお付き合いしてみたらいいのに。こんな高価なプレゼント、かなりアリスのこと好きだと思うわよ。」
エリオスがわたしを好き?
ダリア生誕祭のラストダンス。
みんなが見ている中でのキス。
あんなにあからさまな好意を。
攻略キャラが好きになってくれたのなら。
それは嬉しいこと、よね?
「お付き合いはまだちょっと、ね。」
「そう‥お互いに貴族だといろいろ難しいのかしら?」
わたしはエリオスにどうしても確かめたいことがあった。
なんとなくの違和感を放ってきたけれど、エリオスとのことはもう噂で済まされない。
「クローバーリング、今日は初売りで30パーセントオフになるけど、どうする?」
「ううん、今日はエリオス先輩にピアスのお返しを買いたいの。よかったら何がいいか一緒に選んでもらえないかしら?」
お返しの相場とか贈り方とかリリカに教えてもらいながら、ハイブランドのメンズ小物コーナーで、ネクタイピンを一緒に選んでもらった。
他にも祖父や執事さんたちに何点か買い物をする。
エリオスへの贈り物は、メッセージカードをつけてお店から届けてもらうことにした。
「いろいろありがとう。また学園でね。」
「ええアリス、あなたたちの進展を期待しているわ。」
リリカに見送られてアーチャー商会を出ると、馬車へ急いだ。