1年生1月:贈り物
アーチャー商会から少し離れたところで馬車を降りる。
今日が『初売り』ということで、王都の商店街は人でごった返していた。
店の軒先には国旗と紅白の幕が飾られて、新年を祝う雰囲気になんとなく浮かれた気分になる。
そういえばよく福袋を買ってた。
ハズレたやつでも友達と盛り上がって、なんであんなに楽しかったんだろう。
お付きのメイドさんには銀貨を渡して、2時間だけフリータイムにしてもらった。
習慣がないので、使用人に付いてこられると落ち着かない。
髪をポニーテールにして町娘っぽいシンプルな服を着てきたので、ひとりで歩いていても違和感はないはず。
アーチャー商会もお客さんで賑わっていた。
2階のアクセサリーコーナーで魔法の指輪や腕輪を売っているので、そちらに上がる。
『買取り』カウンターで女性の店員さんに声をかけた。
「いらっしゃいませ~。」
ハイテンションで答えてくれた店員さんだったけど。
「リリカ?!」
「アリス?!」
リリカは奥の人に声をかけて、カウンターから出てきてくれた。
「なに? 今日はどうしたの?」
「リリカこそどうしたの?」
「どうってバイトに決まってるでしょ。初売りは人手が足りなくなるから、パパにかり出されたの。」
そういえばリリカの父親はアーチャー商会の重役で、その縁でリリカは子供の頃から会長令嬢たるキャサリンのお守りみたいになっていた。
「買取り?」
「売るわけじゃないのだけど、鑑定をお願いしてもいい?」
「いいわよ。こっちの部屋でみるわ。」
リリカの案内で小さな部屋に通され、ソファーに向かい合わせで座る。
テーブルに道具箱と白い布を広げて、リリカは同じく白い手袋をはめた。
「お品物を見せていただけますか?」
急に営業モードになったリリカに、エリオスから贈られたピアスを箱ごと差し出す。
「銀水晶、かしら。珍しいデザイン‥。」
しばらくピアスをルーペで観たり、何かで計ったり、箱の銘を調べたり。
ひととおり終わったのか、ピアスを箱に納めてわたしに差し出す。
「銀水晶による『耐魔』の効果が付与されたピアスね。」
「『耐魔』?」
「状態異常系の攻撃を受けたときに、この銀水晶が異常を吸収して装備者を守ってくれるの。麻痺とか毒殺対策で持つ人が多いわね。」
「これって、価値はどれくらい?」
「地金に純度の高い魔鉱を使って魔力を練り込んであるかなりの一品。致死量の攻撃でも平気だと思うわ。どこかの工房の特注品でしょうから、売るとしたら金貨5枚以上はつけるわね。」
ゲームでは攻略キャラの好感度が高いと、特殊アイテムを貰えることがある。
消費アイテムのことが多いけど装備アイテムが出ることもあり、そしてRPGゲームの定石で、強い装備はボス攻略にマストだ。
プレゼントは好感度の証。
だけど金貨5枚相当のプレゼントって。
「そんなに高いの‥。」
攻略キャラからのプレゼント。
受け取らない、という選択はない。
「お返しってどうしたらいいの?」
「普通はもらった価格の半分が目安だけど‥どういうことなの?」
「エリオスから誕生日のプレゼントでもらったんだけど‥。」
「これを?」
信じられないとリリカが首を振る。
「学生が贈るレベルじゃないわ。結局、アリスと生徒会長は付き合っているの?」
「付き合ってないわよ。」
「それでそのプレゼント? もう付き合ったら?」
「わたしは誰ともまだお付き合いをするつもりはないの。」
ゲームでは最終局面まで誰とも恋人関係にはならない。
魔王とのラストバトルまで、誰が恋人になるかわからないのだ。
「もったいない‥あんなにハイスペックでカッコいい人、付き合ったらいいじゃない。」
「リリカはお付き合いしてて楽しい?」
夏ごろからリリカはクラスメイトのタッド・ジャスティと付き合っている。
「いろいろ発見があって楽しいわ。」
そう答えるリリカの表情は満ち足りたものだった。
「せっかくだからピアスをつけてみせてよ。」
「いいわよ、似合わないし。それにわたしピアスホールあけてないから。」
前世の学校は校則が厳しい体育会系校だったし、この世界でもおしゃれをする暇なかったから、1度もあけたことがない。
正直、耳に針を刺すの怖いし。
「たまにアリスの言ってることがわからないことあるけど。」
リリカは片方のピアスをわたしの耳たぶにあてて、『装着』と唱えた。
「ほら。」
卓上鏡を出して見せてくれる。
キラリと耳に光るピアスは、銀水晶の軟らかな輝きが派手すぎなくてちょうどよかった。
アクセサリーらしい物を身につけるのは初めて。
魔装具で指輪やペンダントをしているけれど、このピアスも魔装具なんだろうけど。
ついもう片方にも手がのびた。
「‥綺麗‥。」