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覚醒前の突飛な物語  作者: F.Y.ホルムスキー
1/1

Act 1

この小説は実際に見た夢をまとめたものです。他の人がどんな夢を見たか知る機会は少ないですが、皆大体同じような夢を見るのでしょうか?それとも、自分の夢だけ飛び抜けて風変わりなのでしょうか?


 私は研究室に篭り、ガスバーナーで蝋を溶かし、模型を作っていた。

 窓の外にはすぐ山がある。木が疎らで禿山とまではいかないがどこか寂しい山だ。すっかり紅葉も終わり斜面にはミイラのような葉が落ちていた。

 私がいる研究所の隣には幼稚園がある。とっくに空が赤く染まっていたが、園児たちの甲高い声が聞こえてきた。

 しかし、それ以外は何もない辺鄙な土地だ。


 私は黙々と作業を続けていたが、突然サイレンが鳴り響いた。

 隣の幼稚園からだ。

 私は研究室の反対側の窓から幼稚園を見下ろした。


 園庭ではパニックになり駆け回る園児を教員が必死に誘導していた。

 私はどんな緊急事態が起こっているのかすぐには把握できなかった。火事になったわけでもないのだ。

 だが次の瞬間、大きな黒い物体が園庭に踊り込み、園児らを蹴散らした。それは巨大なヒグマだった。それも、一頭ではない。群れである。

 彼らは園児などには全く興味を示す様子はなく、園庭を占拠した。

 この群れの長なのだろうかーー体高2メートルほどの一際大きいヒグマがおり、それと向き合う形でヒグマたちは並んでいる。ヒグマは数を増すばかりで園庭は黒く埋め尽くされつつある。

 クマが群れで生活するとは聞いたことがなかったが、これは確かに一種の社会集団であり、何か儀式じみたものを感じた。私はこの様子にすっかり魅入っていた。

 すると、あの巨大なヒグマがぐるりと私の方を睨みつけてきた。その形相は殺気立っており、建物の中にいながら身の危険を感じた。

 そのクマは研究所の方へ真っ直ぐ歩いて来た。そして、その後を他のヒグマが二列に並んで続いた。

 私は急いで反対側の自分の机に戻り、模型製作の続きをした。

 ヒグマは研究所を取り囲んで行進を始めた。窓の外から彼らの視線を感じたが、目を合わせる勇気はなく、縮こまって地味な作業を続けた。

 遂に陽も落ち、クマたちはようやく研究所を取り囲むのをやめ、山の斜面を登っていった。


 月光に照らされ、裸の枝木や山の斜面、クマの背が白く光っていた。私は今まで一度もこの寂しい山を美しいと思ったことなどなかったが、この景色は幻想的で畏敬の念すら感じた。世界は自分が思っているよりもずっと美しいのかもしれない。


 クマは行進を続けた。その列は途絶えることもない。

 晩秋の冷え込みは厳しく、私は毛布を肩に掛けた。そして、いつの間にか眠りに落ちた。



 ふと目を覚ますと、東の空が白んでいた。驚くべきことにまだクマの列は続いている。しかし、昨晩見た屈強そうなクマではなく、子グマとその母親や毛の艶もなく禿げかかった年老いたクマだった。

 一頭の子グマが私の研究室のほうを向いて立ち止まった。前を歩いていた母グマが低く唸った。子グマは歩き始めたがまだ視線はこちらに向けている。母グマは子の背を優しく舐め、しんがりの母子は山の向こうへ消えていった。

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