その人の名は……
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
「どうだ、喰われる気分は?」
「ああ……あ、あああ……」
既に絶叫を上げる力もなく、ただびくびく痙攣するだけの灯に、俺は鼻から大きく息を吐く。
「ま、良かったじゃねえか。これでお前もゾンビになれるかもしれねえし、そしたら俺を喰える時が来るかもしれねえぞ? ま、俺を喰う口残ってたらの話だけど」
途中で灯が漏らしたのだろう。血の匂いに混じる仄かなアンモニア臭に眉を顰める。
やっぱり人の肉は俺には合わないな。前みたいに調理されてるのならともかく、こいつみたいに生のまま喰うっていうのはやっぱりそそられない。
それにしても良い喰いっぷりだ。一人で灯を食い尽くすかのような勢いだ。どんだけ腹減ってたんだよ。
「……つか、生きてたらまだ色々と訊きたいことあったのに、テメエはすぐにがっつき過ぎだ。次からは気を付けろよ」
灯に跨っていた奴は、俺を見上げると、小さく頷いた。
その瞳は、真珠のようで吸い込まれそうだ。
「ん~、さて、と! これで本当に終わりだ。それ喰ったら次の所行くぞ。次は……そうだなぁ、自衛隊の駐屯地とか行ってみるか。まだ機能してるかはわからんが、もし生き残りがいれば、また沢山遊べるぞぉ」
すると、ごくん、と喉を通る音がして、こちらに駆けてくる足音。
どうやら、彼女も次の目的地に興味が湧いたようだ。
俺は口の端を歪めると、隣に向かって嗤いかけた。
「ふん、それじゃ、ついてこい」
「――――うっす、智也先輩!」
前作のリメイク版として執筆した新訳は、これで終了となります。
何かあとがきっぽいことでも書こうかなとも思いましたが、確かそういうのはいけないような気がしたので、活動報告にでも書こうと思います。
とりあえず、読了ありがとうございます! 感想、レビュー等、相変わらず心からお待ちしておりますので、よろしくお願いします。




