八畳間の騒乱 2
短めです。すみません。
矛先を向けられたサイドテールは、予想外のところからの言葉に、瞼を数回瞬かせた。
「え……ど、どういう意味よっ!」
「もうここは以前のような世界じゃない。法も秩序もない弱肉強食の世界よ。ここでは何よりも集団意見が優先される。つまり分かりやすく言えば、集団を乱す者は疎まれるということよ」
「――ッ!」
「神城さん! そんな言い方は……ッ」
灯の言った意味が理解できたのか、サイドテールは顔を強張らせ、岡崎は渋面を作る。
灯はつまりこう言いたいのだ。あまり孤立すると切り捨てられるぞ、と。
サイドテールが周りをキョロキョロ見渡し、自分を見る人たちの表情に気づく。彼女の顔はみるみる蒼白になり、怯えるように膝に顔を埋めた。
「ごめんなさい。けど、こうでも言わなきゃずっと話が進まないと思ったから。それより、早くこれからの指針を決めましょう」
「……確かに、それはもっともです」
灯の淡々とした言葉に、岡崎も不承不承と言った感じで頷く。俺も、灯の歯に布着せない物言いには驚いたが、この現実主義的な考え方は嫌いではない。コイツはあれだ。料理する時とかも分量をレシピ通りにしないと気が済まないタイプだ。
「それじゃあ話を戻しましょう。八代さんは結局、どうしても道野さんたちを捜しに行きたいんですね?」
「正確には有斐さんを、だけどね」
「――お、俺も行きます!」
突然裏返った声で手を挙げたのは岡崎の隣に座った王馬だった。
顔を紅潮させ、挙げた手がぶるぶると震えているのは恐怖のせいか。それでも瞳だけはまっすぐに俺を射抜いていた。
どんなに言い繕っても、外道であることには違いない俺だが、一馬の影響か、こういう気概のある奴は嫌いじゃない。だからこそ、俺もまっすぐ王馬を見つめ返し、ハッキリその事実を口にした。
「――付いてくれば、死ぬよ」
「……ッ! 死にません!」
てっきりそれも覚悟の上だとか言うのかと思ったが、予想の斜め上を行く答えが返ってきた。大した根性だ。今のは純粋に感心した。
しかし、その気概に水を差す者がいた。
「和彦。悪いけどそれは認められない。八代さんが行くっていうなら、俺たちだけでここにいる人たちを護る必要がある。和彦まで抜けるなら、俺一人で護れって言うのか」
「……ッ」
岡崎の言い分もっともだ。やはりコイツは頭が切れる。後々色々勘づかれる前に消す必要があるかもな。
しかし、そこで手を挙げた人物に、今度こそ俺は瞠目した。
「じゃあ、私が付いて行くなら問題はないかしら?」
「灯……!?」
皆が驚く中、灯だけは当たり前のように平然としている。そこに王馬の時のような恐れや気負いはまるでない。
「待ってください。それは戦力云々以前に、八代さんの、その」
「足手まといになる、っていいたいの? そこは大丈夫よ。いざとなれば私は置いて行ってくれて構わないから」
しばし眉間を指で押さえ、俺は訊く。
「待て。そもそも君はどうして、そこまで俺にしてくれる?」
「決まってるじゃない。あなたが命の恩人だからよ」
「……」
確かに、理屈としてはおかしくない。だがなんだ、この引っ掛かる感じは。
俺が灯の真偽を見極めようと口を開きかけた時、外から小さな音が聞こえた。
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