表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅の誓い  作者: 弌祈
第一章
7/17

■□■□七話□■□■

◆◆◆◆ 9 ◆◆◆◆


 真っ暗な部屋の中、私はただ宙を見つめていた。

 あれから、どれだけの時間が過ぎたのだろうか。

 勇者が……、いや、勇者と魔王が死んでから、今度は人間と人間、もしくは亜人が争うようになった。部屋の窓をあけているとどこからか聞こえてくる、(惜しい人をなくした)勇者の死を嘆く声。そのあとに続く声は何時も同じ。(もう少し役に立ってほしかった)(戦争の道具が)という言葉。


 ザルエスが訪ねてきた数日後、姫巫女が訪ねてきた。

 まるで人形のような、豪奢な赤毛の女の子だった。彼女は私に自分の侍女にならないかと言ったが、丁重にお断りした。最後に「あの方にお会いしましたら、姫巫女がお会いしたがっていたとお伝えください」と言われた。

 次に、聖騎士か訪れた。鬣のような金髪の男だった。姫巫女のことを異様に気にしていた。お慕いしているのだろう。

「いけすかないが、たいした男であった」そういって武人らしい笑みを浮かべた。彼からはルフェが如何に強いかを聞かされ、そして姫巫女がいかに素晴らしく、そして可憐かを何度も聞かされた。

 再び、ザルエスが訪ねてきた。里へ来ないか、と。エルフが人を里へ招くことは滅多にない。招かれた人間は、友として迎えられ、何かあったときにはエルフが助けてくれるという。……ルフェも、里へ行けばエルフが匿ってくれたのに。私をどうしても、切り捨てられなかったらしい。私は、気にしなかったのに。

 その話もお断りして、私はいまだ、この部屋にいる。


 その日も、来客があった。

 その来客は真夜中に現れた。窓からこの部屋に侵入し、少し離れた場所から私を見つめている。

 目深にフードをかぶっていて、顔はわからない。


「私ね」


 独り言のように呟いた。


「あの子に出会う前は、本当に嫌な子だったのよ。孤児院の子供たちが親恋しさに泣いているのを、そんなことで泣くなんて、と心の中で思っていたの。私は、物心ついた頃には誰もいなかった……。いなくても普通なんだと思ってたから。今考えると、欠落していたのかしらね、そういう感情が……」


「案の定、敏感な子が一人、私のそんな部分に感付いてね。偽善者だって言われたわ。飛び出していったあの子は、敵をうとうとして。結局しんじゃった」


「でも、あの子に出会って、はじめて執着したのよ。きれいだと。欲しいとさえ思ったわ。この子は私のなんだって。掴んだ手が冷たくて、震えてて、怯えていたのに気がついたとき、とても、とても可哀想に思ったの」


「私が知らないことを、この子は知りすぎてるほどに知ってるんだって、何となく思ったわ。それから、優しくしてあげたいって。心を開いてくれる度に、嬉しかった。……私の欠落した部分を埋めてくれるようで」


「いつの間にか、私は愛していたみたいだわ」



 客人は黙って聞いていた。

 私は可笑しくて、少し笑ってしまう。


「あなたは本当、私には寡黙なのね。勘違いしてしまうわ」

 立ち上がり、手を伸ばす。包帯に包まれた手が私に伸びて、指先が絡まる。


「おかえり」

「ただいま……」

 掠れた、どことなく嗄れた声が響いた。


「来るのが、遅いよ」

「すまない。まっていてくれて、ありがとう」


 どちらともなく歩み寄って、私達は軽く抱き締めあった。

 あぁこれが夢でも構わない。死神が最後に見せるまやかしでも、悪魔が私を惑わす幻でも。


「イルシェ。俺と、来てくれないか」


 どこか緊張したように、男がいう。


「もう、元の生活に戻れないが。幸せに、してあげられないかもしれないけれど、でも」


 私を抱く腕に力がこもる。


「愛してるんだ。この気持ちは一生変わらない。ずっと傍にいて欲しい」


 もう、離れたくない。言葉はたどたどしいけれど、けれど……精一杯の想いが私を抱く腕から感じられた。


 勿論だよ。私は、あなたが連れていってくれるなら、あなたが守ってくれるから、どこへでもついていったのに。あなたは、私に気を使ってばかりで。私と同じ世界にいようとしてくれたのね。でも、もういいの。


「私も、もう、待っていたくない」


 私はルフェにしがみついた。


「連れていって、ルフェ」



 そのあと私が連れられたのは、地上と月の間の世界だった。そこにはルフェに負けないくらいボロボロの魔人と、沢山の魔人と、沢山の人間がいて、二つの種族はなかよく共存している不思議な場所だった。



「君が来てくれて助かったよ。そこの馬鹿がこんなに大人しくなるなんて。もう鬱陶しくて鬱陶しくて」

「うるさい。黙れ」

「ルフェったらもう、駄目よ、そんなに冷たくしては。ほら、横になって。こんなにボロボロなんだから……。でも、無理して迎えに来てくれて嬉しかったよ」

「…………」

「うわぁ……」

「殺すぞ魔王」

「も~!そうよぶのやめてよね」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ