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紅の誓い  作者: 弌祈
第二章
16/17

◆◇◆九話◆◇◆


______次の日、ツエイクと共に私は”研究所”へと来た。外見は白い建物で、位置的にもフェリーザに行ってみるといいと言われた場所だろう。


 ツエイクのあとについて入り口から奥へと進んでいくと段々と薄暗くなってくる。「ここを降りよう」と示された地下への階段……、降りるための段差は何か大きな物が這ったように潰され、まわりの壁や床もところどころひび割れ、どす黒い染みがついていた。


「…………崩れて出られなくなったりしないだろうな」

「大丈夫だって! こうなってから半年立ってるけどこれ以上崩れてないし」


 地下へ降りるのを躊躇わされる様相に思わず呟いたが、ツエイクはそんなことを言って平気そうに地下への通路に踏み込んだ。仕方なしに後に続く。


「この先で、この研究所がつくられた目的がわかるのか?」

「大体もうわかってるだろ? 俺みたいなのを造ってたんだよ」

「………それは、結果だろう。魔王もそうなのではないか?」


 降下が終わり平らな床に足がついた。なんらかの光源があるのか、まわりはうっすらと青い光りで照らされていた。視界の先に続くのは、元は液体か何かで満ちていたのではないかと思われる、巨大なガラスのカプセルのようなもの……。両端は天井と床に、何やら仰々しい仕掛けのようなものが施された箱で支えられているが、カプセルのような作りの硝子は粉々に砕け、残骸だけが鋭利な破片を残して危ない景色を作っていた。これは……、


「……驚いたな。これは、西の大陸で発展している科学というものか?」

「よく知ってるな」

「最近はあまり交易がないが、450年前はそこそこ交流があったのだ」

 西の大陸とは、文化があまりに違いすぎて現代においては交易がなくなったといっても等しい。行き来しようとするのは変わり者か、世捨て人くらいだろう。昔にしても交流があった、とはいってもイエルが国王に就任したとき、社交辞令程度の交流であった。しかしここにある技術は300年前に見せられたものよりずっと進んで見える。何となく見覚えがある程度なので詳しく聞かれても説明できないのだが、ツエイクは「そうなんだ」とだけ言うと「足元気を付けてね」と大きな硝子片を避けて進みだした。


「……ここではさ、魔物とか、精霊とか、人や、動物なんかを使って、俺みたいなのを造ってたんだよ」

 何から話そうか、といった感じにツエイクは口を開いた。さっきの話の続きだ。


「ザルエスがいうように俺達は結果だよ。料理みたいなもんさ、あれを作ろう!と思ってたらなんか違うのが出来たみたいな。こうしたらあぁなるんじゃないかなくらいの簡単な気持ちだったのかもしんないけど、目的は分かんないや。培養槽っていうんだけどさ、そのカプセル。俺がその中にいたとき喧嘩してるの見たときあったな。あぁ、お互いなんとか博士って呼びあってた、俺の親?なんだろうな。たくさんの人間。培養槽の外で、成功だ!って喜ぶ人もいればこれじゃない!って怒ってる人もいたな。こんなこと続けるべきじゃないって言ってた人もいるけど、ここがこうなるまで続けられてたよ」

「…………何故ここは破壊されている?」

「実験体を拐ってきたからさ。精霊とか人とか魔物とか……、無理矢理連れてきては、切っては広げ、繋げては取り替えてさ」

「………………」

「大体は、培養槽にぶちこまれて安定するまでの間に、ショックか薬かなんかで記憶を無くしたり、知能を低下させられたりするんだけど、乗り越えた奴がいてね。目が覚めたときに自分の体、滅茶苦茶に弄られてるのを見て大暴れってこと」

「…………」

「大丈夫?」

 見慣れない器具が並ぶように、西の大陸の技術は私には全く馴染みのないものだ。魔境でキメラという複数の動物の特徴をもつ魔物がいるのは知っているが、この場で行われたような、実験により産み出されたわけではない。命を命と思わない、ただできるからという理由だけで行われた、子供のような邪気のない好奇心のような、摂理に背いたこの行動に、嫌悪がわく。


「なんと、おぞましい……」

 思わず呟くと、ツエイクが苦笑した。

「だよね……。俺も、俺のことそんなに好きくないし」

「?」

「だって、普通に生まれてきたんじゃないんだよ?気持ち悪いでしょ?」

 困ったように言って笑うツエイクに、私の言ったことがひっかかったのだと理解した。そうではない、と言おうとし「…………正直、お前は魔物との合の子だから、信用しにくい」

「だよね」

「だが、出会って一日で信用しにくい

のは、人間に対しても同じだ。それにお前、半分魔物なら何故私を食わない。魔物は他の生き物を襲わずして生存できないだろう」

「それは」

 ツエイクは言い淀む。

「俺は、半分魔物だけど、他の魔物みたいに生き物を襲わなくても生きていけるんだ。だからザルエスのこと、食ったりしないよ」

 ツエイクは私を伺い見る。

「信じられないでしょ?」

「いや、信じよう」

「……なんで?」

「この土地に来てからしばらくするが、生き物の気配は絶えていたと言って良い。十分に食事ができる状態でないから、魔物は餓えており、こぞって襲ってきた。だがお前はそうじゃない。ということは食事をしなくても生きていけるのだろう?」

「もし、騙していたら?」

「騙す必要があるのか?」

「まぁ……」

「もし、騙されていたとしてもその時はその時だ。お前に簡単に食われてはやらん」

「…………ザルエスって、結構脳筋なんだね」

 ツエイクはしみじみと呟いた。そうなら別に、そうでいい。


 ツエイクは確かに、理から外れて産まれてきた存在なのだろうが……、ここに在るということは、ここにいていいということではないのか。あるものを歪んでいるからと壊してしまうのは悪戯にツエイクをつくった者たちと同じのような気がする……。己がまるで、神にでもなったつもりであるような所業だ。ここで研究を続けていた人間は、何を求めていたのだろう。あるがままではいけないのか。人は在るがままでしか生きられないのに……、何故それ以上を求める。

 ツエイクは半分人なら、人として生きてみたら良い。でも、それは私が決めることではない。ツエイクが決めることだ。その末でツエイクが人から認められなくともまずは決めなくてはならない。どうしてもダメなら助けてやればいいのだから。


 しみじみと思いながらツエイクの頭を撫でてやる。驚いた顔をしたツエイクは、ついで照れたような顔をする。

「信用できないっていったくせに」

「しにくいと言ったのだ。私はお前が嫌いなわけではない」

「ほんとう~?」

「嫌いならこうしてないし、本当に信頼できないならとっくにお前を穴だらけにしている」

 きょとんとした顔をしたあとツエイクは「ザルエスらしいね」と笑う。


「______見て」


 ツエイクが指し示す先には、傷ひとつない培養槽。液体で満たされた内部には、人間の体に、鷲の頭と翼、鉤爪を無理矢理くっつけた、歪な生き物が漂っていた。

 人と魔物の合の子か……。培養槽の中にいるが、死んでいるのだろう。生命の気配が感じない。といっても、ツエイクからは感じるというだけで目の前の鷲人もそうであるとは限らない。警戒はしておこう。それにしても本当に不気味だ。


「俺以外の、魔物の合の子はこんなばっかなの」

「そうか……」

「みんなけっこー短命なんだよ。1.2年が寿命じゃないかなぁ」

「お前は?」

「分かんない。一応、培養槽から出て三年は立ってるけど、前兆みたいなのもないし」

「前兆?」

「俺等は寿命とか、そんなので自然と死ぬとき……爆発するんだよ。何でか分かんないけど。いきなり首を跳ねられたり、他殺される場合はその限りじゃないんだけどね。その爆発の前兆として凶暴化したりするんだよね。目が真っ赤になって、相手が誰でも、構わず襲いかかってさ」

 ツエイクはここではないどこかを、過ぎ去ったあの日を見つめるように周りを見渡した。




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