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紅の誓い  作者: 弌祈
第二章
12/17

◆◇◆五話◆◇◆

 北へ向かう道すがら、私は森へ立ち寄る。

 人は立ち寄れぬ森の中心、常世とは少しずれた場所がある。そこには私の同族であるエルフをはじめ、近親種の精霊達が気ままに存在していた。


 ◆◆◆


「フェリーザ、いるか」

「あぁん……?」

 エルフの森の中、一本の背の高い樹に向かって声をかければ、見上げる先にある太い木の枝から見慣れた奴が顔を出す。


「おう、ザルエスか……。んだよお前、人の国に行ってたんじゃないのかよ」


 長い髪をかきあげながらそう言う。線の細い小柄な体に似合わぬ粗野な態度。エルフに似ているが、少し違う。

 フェリーザは元は人間、だが精霊として育てられたチェンジリングだ。彼女と交換されていたエルフは今、森へ戻り、彼女が安らいでいる大木となって森に宿り森を育んでいる。


「うむ」

「帰ってくんの早くねぇ?てっきり十年単位はぶらぶらしてくるかと思ったけどな」

「一旦寄っただけだ」

「ふぅん? 何か取りに来たのか?」

「北へ行くついでだ」

「……何で?」

「魔王が現れたそうだ」

「ほー。一応、魔物との戦闘に備えておくつもりか? お前、使えんのは付与術に弓しかないだろう。囲まれたらどうするんだ? しかも何故魔王、を気にする? なんだってそんなことをする?」

「ルフェが魔王とぶつけられそうだ」

「ルフェ?」

「愛し子だ」

「おぉ、いるとは思ってたけど、会ったのか。すげぇな。森に連れてくればいいだろう。愛し子ならみんな歓迎する」

「ルフェは人として生きることを望んでいる」

「なんでぇ」

「直接話した訳ではないが、何を望むのか言われなくとも分かるくらいには傍にいた」

「別に永住しなくてもいいだろ? ほとぼりが冷めたら出ればいいんだし」

「フェリーザ」

「なんだよ」

「魔王が何か知っているのか?」

「ん?」

「ここから出ないのに何故魔王が魔物を従えているということを知っている? 共生能力のない魔物が徒党を組むなど無理だろう? 話を聞いたとき私は信じられなかった。なのに何故それが普通のことのように話を続けた?」

「…………」

「フェリーザ。何か知ってるなら教えてほしい。皆それを知っているのか?」

「ったく……。ちょっと会わないうちに人間に感化されやがって。お前、人の話聞かねぇ奴だったからうっかりしてたぜ」

「フェリーザ」

「ん~……」

 促すも話すのが嫌なのか、フェリーザは愚図る。

「北に、お前が行く必要ないだろ……?」

 余程嫌なのか同じ言葉を繰り返したフェリーザに、私は毅然と言い返す。

「友が己にできることを今している。私は友を助けると誓った」


「も~……」

 フェリーザはぼやいたあと、上から降りてきた。重さを感じさせない動作で着地すると頭一つ分高い位置にある私を仏頂面で見上げる。


「魔王がなんなのか知ってはいるけど、ぶっちゃけ良くはわかんねぇんだ。知りたくて調べた訳じゃねぇから説明できねぇ。でも……、なんでそれを知ったのか、きっかけになったその場所を教える。そこに行ってみてくれ」

「ありがとう」

「おう……」

  フェリーザは口をもごもごとさせ、ややあってから口を開いた。


  ◆◆◆


『今、北は精霊の寄り付かない絶望の地になっているんだ』


 フェリーザがいっていた通り、いやそれ以上に北の状況は予想外であった。

 季節もあり土地柄、踏み出せぬほどの雪に覆われていてもいいはずなのだが今はすっかりひび割れて潤いをなくした大地が広がっているばかり。かつては人の営みがあっただろうそこは世界に幾多ある魔物の領域となっていた。

 魔物のすむ場所に精霊は寄り付かない。何故なら魔物は肉の体を持ちながらも、体を巡るその青い血にはまるで命の流動が感じられないのだ。そして魔物はそれを補うように回りの命を貪欲に奪う。草木を堀つくし、水を淀ませ、人を、精霊すらも食らい啜り尽くす。

 故に魔物に見いられた土地は、全ての生き物から見放された不毛の地となるのだ。


「むぅ……」

 遠くからこちらに近寄ってくる影を見つけ、矢筒から矢を取りながら弓を構える。《望む》《遠く》《視線》……遠視の付与術を組み立て己に使用する。顕微鏡を覗くように遠くの景色がクリアに、自分の好きな場所にピントを合わせられる。狼型三体か。《追尾し》《貫く》放たれた矢は鋭く空気を裂きながら300m先離れた場所を疾走する狼の一匹の眉間を貫いた。付与術で強化されたミスリルの鏃は頭蓋を砕き貫通するとまるで生きているかのように宙を躍り残る二体の魔物を仕留めた。


《戻れ》念じると矢が戻ってくる。正確には鏃に箆(のと読む。矢の木の棒の部分)の残骸がくっついているだけたが。ミスリルは付与術を使いやすいので今披露した芸当が出来るのだ。

 友であった初代国王からは、「ミスリルを自在に扱えるなら矢である必要があるのか」と言われたことがあるが、例えばミスリルを腕力で投石するとして、そこまで飛距離がでないし、敵とする生き物の肉を貫くにはある程度の速度が必要だ。そのイメージをつけやすくするために弓を使っている。遠距離の武器は扱う本人の資質にもよるが、敵と距離が離れているだけ有利になる。

 弓を教えてくれとフェリーザに請われたとき、一度見せてみたら「猛禽の爪かよ。意識高すぎてついてけねぇわ」と言われたことがあるが、魔物は必見必殺。容赦はいらないのだ。


 死んだ魔物から流れる血の匂いに誘われ魔物が寄ってくる前に私はその場から離れることにした。






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