1話 その出会いは偶然か
男はあの日すべてを失った。家族、友達、愛しき人。彼の大切なものはすべて故郷を焼いた火にのまれた。
「あの日からもう2年か」
故郷へと続く懐かしい道を歩きながら一人つぶやく。何も変わらない景色を目に焼き付けながらひたすら歩いていく。
「この先に村が......」
彼は歩いているうちに懐かしい故郷へたどり着こうとしていた。
「このぶんなら歩くより魔法使った方が早かったか」
少し自分の選択に後悔をしながら村の入口となるもんをくぐる。見た景色はあの時のままだった。
「何も変わってない......。当たり前か」
彼の脳裏にあの時の情景がふと思い起こされた。村全体を焼き尽くす炎。鳴り止まない悲鳴。鳴き声。自分のをかばって火にのまれた母。苦しい思い出の数々。
(今も思う。なんで俺だけ助かったのか。なんでみんな死ななきゃいけなかったのか。)
彼は王国所属の陸軍に助けられてた。助けてくれた人の話によると生きていたのは彼だけだったらしい。
「何も変わらなすぎて心が痛むよ。あ、あったここだ」
彼がいる場所には炎で焼け死んだ村人達のための墓だった。持ってきた花を備えそこを後にする。
次に向かったのは村にあった一つの祠だった。彼は母から祠には神様がいると教えられた。だから向かうのだ。神様に自分の罪を懺悔するために
「もう、後悔はしたくない。もし変われるのならこの気持ちにケリをつけよう」
彼の表情は悲しみに満ちていた。目覚めた時に村の人々の末路を聞かされた。昔は村人達のことを嫌っていた。だけど話を聞いた時何故か悲しいと思ったのだ。何故かはわからない。その時、彼には情が湧いていたのだと分析していた。
「神様。もしあの日俺が一人でも助けられていたのならこんな思いをしなくても良かったのですか?」
彼の目から自然と涙がこぼれ落ちていた。話を聞いた時には一粒の涙も流すことができなかったのに。
「俺はあの日たくさんの大事なものを失いました。今も自分の選択に後悔しています。でももうこの想いにケリをつけます。だから俺を許してくれとは言わないけど俺はこれから自分の運命を信じて生きることにしますか」
すべての気持ちを吐き出した祠をあとにする。遠くから君はもう許されたんだよと聞これた気がした。帰路に向かって一歩、二歩と歩き出した時突然、祠から眩い光が漏れだした。
「っつ、なんだ....眩しい......」
光はどんどん増していき、視界もどんどん白くなっていく。ふと、祠を見ると突然現れたのは一人の少女だった。
「あの子、どこから.....」
彼は突然現れた少女を放っておくことが出来ず連れて帰ることにしたらしい。少女を背負うと浮遊魔法と瞬足魔法を使い帰路について行った。
*
身寄りのない彼は今、王国の海軍の元で平和な日々を過ごしている。倒れていた少女を自分の部屋に連れ帰り別途に寝かせ数時間たった頃......
「うぅ、うん」
「気がついたか」
少女は意識を取り戻した。少女の身に異常がないことを確認すると優しい口調で話しかける。
「ここは王国の海軍本部の俺の部屋だ。君、名前は?」
少女はきょとんとした表情で彼を見つめる。
「...............わかりません。何も覚えていないんです。」
彼は絶句した。目の前にいる少女には記憶がないことに。
「本当に名前も思い出せないの?」
改めて少女の顔を見ると彼はかつて自分を愛してくれた大切な人のことを思い出す。ずっと見ているとどこか懐かしいと感じるのだ。
「だったら俺は君に''名前''を送ろうと思う。」
彼はこの記憶のない少女を自分の大切な人の面影と重ねた。そして、彼女に大切な人の名前を送ろうと思ったのだ。その人物の名前は.....
「マオ。君の名前はマオだ。」
「マ、オ?私の名前はマオ。嬉しい。ありがとう。」
少女は顔満面に笑みを浮かべこちらを見つめる。
「私はあなたの名前を知りたい。あなたの名前は何?」
彼に問いかけるようにマオは話しかけた。この子になら自分の苗字を教えてもいいのだろう。彼はそう思い自分の名を口にした。
「俺?俺の名はセイヤ。月光 星夜。これから宜しくな、マオ」
こうしてすべてを失った男セイヤと記憶喪失の少女マオは出会った。彼らはまだ知らなかった。この出会いが彼らとそれを取り巻く人々の運命を変えたことに____
To be continue.....