記憶、随時買取り中。~αrch~
今後連載予定の作品
記憶、随時買い取り中の短編作です!
~この世で一番の悪があるとするならば、
それは人の心だ。
この世で一番儚く、脆いものは人の記憶だ。
そんな貴方の記憶、買取りさせて頂きます。~
人の記憶を売り買いする店がある。
そんな、都市伝説の様な噂を聞いたことがあるだろうか??
これは、今から27年前
ある青年と奇妙な老人
そして、奇妙な店「記憶屋」で起こったある物語のαρχήを記したものである。
この物語の主人公
若林遼は幼い頃、両親の育児放棄により
貧しい養護施設に預けられ、18歳の誕生日
施設からの卒業という名目の
退所を迫られていた。
貧しい養護施設で育った彼には、
就職先はおろか、住居もろくに決まらない状態で施設を追い出される事になり、
自ら、里親を探そうにも
施設を退所した年齢という事実が重くのしかかる。
里親というのは、大体の事例が、10歳にも満たない年齢で引き取られて行くのが、一般的であり
彼の年齢では、職を見つけ自立が出来る"大人の一歩手前"とみなされてしまう。
そんな、大人や人間。ましてや社会に不信感や絶望をしている彼は
煌めく街のネオンを避け街を彷徨う暗い路地を歩いていると
洋風の骨董屋の様な店が現れた。
「都市伝説の記憶屋って、洋風の骨董屋って、話だよな?」そう言って彼は、店のドアを開けた。
店内へ一歩足を踏み入れると、
そこには、ガラクタが山積みにされた店内に
見た目からして高そうなロッキングチェアに座った
80代とおぼしき白髪老人が、彼をみてニコリと笑った。
「…いらっしゃい。どんな商品をお求めですか?」そう言いながらも、老人は立ち上がろうとせず、
ロッキングチェアを揺らしながら、座っている。
「…買いにきたっていうか、売りに来たんですけど…記憶を。」
彼が消え入りそうな声でそう言うと、老人はムクッと立ち上がって
「…どうやら、君は本気の様だね。他の都市伝説目当ての阿呆どもと、違って。」と彼の側まで寄ってきた。
「昔の私と同じ、社会に絶望している人間の目だね。そんな目をしてここに辿り着いた、イカれた思考の持ち主は、君がはじめてだよ。」
老人のが放つ言い表せない空気なのか、オーラに彼は多少なりと、怖じ気づいていた。
「なにも、そんなに怖じ気づかなくて大丈夫だよ。…君の名前は?」
「…若林遼。」
「一応、歳も聞いておこうか。念のためにね?」また老人は、彼に向かってニコリと笑った。
「今年、18です。」
「18か。…何があったかは、聞かないでおくよ。これから、君の"記憶を覗く"のが面白く無くなるからね。」
「…記憶って、どうやって覗くんですか?」彼は、興味と恐怖の入り雑じった声で老人に聞いた。
「…それは、企業秘密だから教えられないな。…君の様な人間にはね。」
「まぁ。この椅子に座って目を閉じていてくれるかい?」と老人が座っていたロッキングチェアに座るように、促された。
彼がロッキングチェアに座ると
「そう。そのまま、目を閉じて。私が手を翳す(かざす)と少しの間だけ寝てしまうけど、安心して寝るといいよ。」内心安心出来ない。そう思いながら彼は老人に言われるがまま、目を閉じると手を翳された気配を感じると、意識を手放してしまった。
数十分後。
彼が目覚めると老人は、彼の目の前に立っていた。
「君の記憶は、中々いいモノだね。是非買い取らせて貰いたいが、君の希望は何かな?」
「俺は…若林遼じゃない、別の人間に生りたいんです。」
彼がそう言うと、
「…それは、君の過去を全ての記憶を売って、別の人生を歩みたい。って事でいいのかな?」と老人はニヤリと笑った。
「別の人間になるには、それなりの金額が必要なんだが…」と老人が口ごもると
「…それは、覚悟の上です。俺の全財産…って言っても、10万も無いんですけど。それじゃあ、駄目ですか?」彼はそう言って、札の入った銀行封筒を持っていた鞄から出した。
「金は、要らないよ。その代わり、どんな人間に生るかは私に任せてくれないかい??
別の人間生った所で金が無ければ生活、出来ないだろ?」
と老人は言って彼をまたロッキングチェアに座らせた。
そして、
「…また、目を閉じてくれるかな??
次に君が目を覚ました時には、若林遼としての記憶が無い、別の人間に君は生っているんだ。」
そして、老人は続けた
「この世で一番の悪があるとするならば、
それは人の心だ。
この世で一番儚く、脆いものは人の記憶だ。
そんな貴方の記憶、買取りさせて頂きます。」
彼はこの言葉を聞いて確信した。
【…記憶屋は、噂とか、都市伝説でもなく本当だったんだ。】と。
老人は、記憶屋としての自身の記憶
記憶を、売り買いする技術
全てを彼に移植し、何もない 誰でもない老人に生った。
老人は、はじめから彼に記憶を移植するつもりだったのかは、今はもう解らない。
そして、その日記憶屋を訪れた青年
若林遼は、老人から受け継いだモノで
自分が何者かも解らない
記憶屋としての人生を歩む事となる。
その話は、またいつの日にか貴方の目に触れることだろう。
そこの貴方。
記憶屋はいつでも貴方の御来店をお待ちしております。
~この世で一番の悪があるとするならば、
それは人の心だ。
この世で一番儚く、脆いものは人の記憶だ。
そんな貴方の記憶、買取りさせて頂きます。~
記憶、随時買取り中。~αρχή~のαρχή(アルヒ)とは、ギリシャ語ではじまりという意味です。
この物語の27年後の話が本編になる予定です。
本編掲載の際はそちらも読んで頂けると嬉しいです。