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2話 反道徳的授業 ~事後処理編~

 『学級崩壊極まる! 教師暴走の果てに!?』 


 そんな記事が世間を驚かせていた、これを機に教師や生徒のケアに関するデモが一斉に出だし、中には教師がストライキを引き起こすなどの騒ぎになっていた。新聞を読んだ俺は今回の件で死亡者がゼロという事実にひとまず喜んでいた。


 俺に良心があるかと言われれば無くはないが、人に比べて薄いと自他共に認めている、死んだらそれ以上に苦痛を与える事も出来ないし、こんな事をした意味がない。普通に考えれば生きるよりマシという考えがあり得ないという奴があり得ない、死にたいと思わせる位苦痛を与えないと依頼者も満足して死ねないからな、こちらの評価にはならないがそれが俺の1つのプロ意識だ。


 俺が所属する組織が運営するバーで、未来のプロを目指しているジャズバンドマンたちの粗削りでイカレた音楽を聴いていると、今回の助演男優が登場した。


「盛田さん、お疲れ様です」

「おう、花鶏あとり仕事お疲れ。依頼者はどうだった?」

「薬を飲んだ時は少し苦しんでましたけど、全体的に晴れ晴れとしてましたよ──って撫でないで下さい!」


 花鶏は伊達メガネを外し、俺の半分も生きてないくせにしっかりとした報告をするので、悪戯心に頭を撫でた。コイツは可愛がると拗ねて面白いので頭を撫でてワザと拗ねさせてやるのだ、上の奴らだけでなく、俺も注目している暗殺者も、まだまだ子供でいじられキャラの域を脱していない。


「俺もそうやってちっこい時にいじられたから、大人になったら期待しているヤツにやってやれ」

「ったく……まだ認めてくれないんですから、拗ねますよ」

「名字ももらってない上に、まだ期待しているだけで完成されていないヤツを認めたら俺も引退だ、そんなジジイにはまだ50年ははえーよ」


 組織の中での名前は親からもらった名前か、落語や歌舞伎と同じで襲名で名乗る。組織には名前のない奴もいるので、仕事に出れない内は全員番号で呼ばれる。そして仕事に出たら名前の許可が、一流として認められたら名字が許される。その一流の中から襲名でつけられるようにもなるのはほんの一部だ。


 細川の依頼に、まず部屋を防音とスイッチ1つで脱出出来る所を封鎖する工事を工作担当に任せ、通信妨害で念のために外部の助けを封じておいた。そうしないと不審がる生徒がいないとも限らない、ゼロではない危険性をなるべく潰しておくのがウチの組織の鉄則だ。暴力団ですらトップのトップしか知らないし、ハムですら尻尾すら掴ませないのがウチの組織なのだから。


 まあ組織の報酬はあるが、俺の気持ちという事で花鶏の好きなココアを奢ってやることにした、喰えない爺さん婆さんからおむつも取れないガキどもが集まるバーには、離乳食から毒薬まで何でも揃っている。


「おもちゃであそこまで引っかかってくれるのは助かりました、あれで一気に主導権握れましたからね。失敗して実際に他の生徒を刺す場合もあるし、素人は程度が分からないから死んだりしたかも知れないですしね~」


 花鶏がバネのナイフで刺されたフリをして動揺させるのが今回の肝だった、舐められないで支配するには実際に見て実感を持たせるのが効果的だからだ、花鶏の演技とバイト代出して集めた人の血を使えばパッと見あまりバレない、そして妨害装置がオフになって用務員のフリした工作員が、血ノリをふき取り、後遺症の少ない近い場所を刺しておく、そしてナイフをすり替えておけば細川に刺されたのは本当だったと証明出来た上に花鶏のリスクを減らせる。そして近くの非常ベルを鳴らして行方をくらませれば、本当の教師か用務員が見つけて通報するというシナリオだ。


「傷跡も目立たない様にしてくれましたし、盛田さんの人選は信用出来るんで、やりやすいです。またよろしくお願いしますね」

「……本当はこんな仕事無くなった方が平和なんだがな」


 何気なく俺の本音がポロリと出て、花鶏も複雑そうな顔をしたが、やがて笑顔で盛り上げる。


「でも俺、普通だったら臓器売られるか奴隷にされるかでロクな人生歩んでないですからね、誰だって縋れるものには縋りますよ、まあ神様仏さまに縋りはしないですけどね」

「違いない、そんなものに縋られたらあっちだって迷惑だろうよ」


 この組織のメンバーは3種類に分けられる、1つは家族が会員、2つ目は借金のカタで売られて教育されて、最後は会員が気まぐれに連れてきた貧民街スラム出身。ロクな経歴のヤツはいないが、その辺の大学よりも頭が良いヤツがわんさかいる位には教育はしっかりしているし、男女差別もなく職業選択も自由だ、ただし、この組織を公にしようとするものなら、行方不明者リストに名前が載る事になるだろう。


 ちなみに俺と花鶏は借金組だ、同類だと仲良くなりやすいのはあるが、ルールを守れば出身関係なく仲が良く出来るのも、脛に傷を持っているヤツらの1つではある。破れば友という概念は無いのでごみクズになったとしても助けるものなど存在しないが。


 だからこの合法的ではないが、そこらの黒い会社よりも健全な組織に裏切りはほぼない。あったとしても知らない内に消えるだけだ。


「後俺達はどうすれば良いんです?」

「後の処理は嬢様に任せれば良い、こんな悲惨な目にあっても、大抵は『そんな事があった』程度にしか覚えていないものだ。上手く処理すればしばらくは掘り起こされないし、嬢様は根回しや交渉術が組織でも指折りだからな」


 花鶏に伝えると電話が鳴った、相手はその嬢様だ。


「お仕事お疲れさま、花鶏は大丈夫ですか?」

「はい、なんなら本人に代わりましょうか?」


 人の情報は又聞きせずに自分で聞くのが1番というのを徹底されているので、俺は花鶏に電話を代わってやった。


「──はい、いえいえ! ありがとうございます、これからも頑張りますんで──はい、じゃあ代わります」


 花鶏は嬉しそうに電話を返すと、恋する乙女みたいにうっとりとした顔をしていた。……またファンが出来たな。


「嬢様、首尾はどうでしょうか」

「もう結婚したのに『嬢様』は失礼じゃないかしら?」

「いいえ、いつまでも俺にとっては『嬢様』です」


 呆れられてため息を吐かれたが、本音を言ったまでだ。今回は割愛するが、嬢様には命を捨てても良いと本気で思える程、唯一忠誠を誓っている相手だ。まあ3歳年上に嬢様も失礼と言われれば否定しないが。


「更に失礼な事を考えたのではなくて?」

「……それよりも、話を聞かせて頂きたいです」


 話を変えた俺の追及を諦め、首尾を聞かせてくれた。ふー危ない危ない。


「まず、細川は精神を追い詰められての犯行として、メディアが警鐘を鳴らす形になっていますわ、怒りの矛先を細川ではなくて国や学校に向けさせて、自分たちの教育方法を考えましょうという形に予定通りにして」

「花鶏の話は出ていますか?」

「いいえ、児童のカウンセリングでは、細川との最後の会話を聞いたものはいないみたいですし、そこは心配しなくてもよろしいですわ」


 海に沈められる位の失態は犯してはいない様なので一応安堵した、少しでもバレそうなヘマをして普通に帰って来たヤツなんていない、だからこの仕事を長年していて長生き出来たヤツなんか、長い歴史で数える程しかいない様だ。


「嬢様……自分や坊ちゃんのために足を洗ったらどうです? もう貴方はここの付き合いをしてはいけない立場ではないでしょうか」

「……確かに、リスク的には無視出来ないものがありますけれど、危なくなったら失踪するだけです。虎之介さんも1ヶ月無人島でナイフ一本で自給自足して脱出出来る位には、サバイバル能力はありますから」


 た、頼もしいお方なんだな……相手もさる令息の方と聞いたが、かなりのサバイバーの様だ。俺は頭脳労働系だから、そんな真似は出来ない。……悔しいな。


 そんな俺の敗北感は置いておいて、仕事の用件を済ませた俺は電話を切り。ココアを美味しそうに飲んでいる花鶏に、飲みきったら冗談で金を請求してやろうと待ち構えた。

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