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太平洋の突風  作者: 鶴岡
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二式戦爆艇・突風

 1942年7月。アメリカの戦意は地に落ちようとしていた。

 太平洋戦争の序盤に行われた潜水艦の艦載砲による米本土砲撃や、ロサンゼルスの戦い(実際には未確認飛行物体による戦闘騒ぎ)など、日本軍のアメリカ本土都市部に対する攻撃を防げない状況を打破するための切欠にとドゥーリットル空襲を実行したが、結果は主目標である東京の爆撃が失敗という有様となってしまったからだ。

 それに追い討ちを掛けるように、日本軍がドゥーリットル空襲の仕返しに行ったサンフランシスコ空襲では報道管制が意味を成さない程の甚大な被害を負ってしまったのだ。


 連邦議会においては同盟国へのレンドリースを縮小して国内向けに振り分けるべきだ、西海岸の軍需工場をネバダ以東に疎開させるべきだ、などど言う要は「現在の戦争体制のままでは負けるのではないか」という主張が頻発している有様である。

 さらにはオーストラリアから「以後、アメリカ本土、またはオーストラリア本土が先日のような大規模空襲に曝された場合、オーストラリアとしては連合国から脱退し日本との単独講和をせざるをえない」という通告までされてしまったのだ。


 だが日本でも大きな問題を抱えていた。


 サンフランシスコ空襲の際に零式水偵が撮影した港湾地区の写真には巡洋艦や駆逐艦、さらには護衛空母などと思われる大量の建造中艦艇が写されていたのだ。しかも空襲に用いたのは艦艇には非力な一式戦艇の20mm機銃と30kg爆弾のみであり、これら建造中艦艇はほとんど無傷である。

 そしてサンフランシスコ一都市にこれだけの建造中艦艇がいるとなれば、いったいアメリカ全体でどれだけの建造中艦艇がいるのか、それは想像を絶する数であろうと考えられた。

 もしそれらが完成してしまえば、日米の海軍力はあっという間に逆転どころか倍を超えた差がついてしまう可能性さえあるのだ。そうなってしまえば日本に勝ち目は無いであろう。


 よって、年内にも第二次サンフランシスコ空襲作戦、及びサンディエゴ空襲作戦を決行しようという計画が生まれた。

 要は早期にアメリカ海軍の主要拠点と造船所を潰滅させて、アメリカの継戦能力を削ごうという作戦である。


 だが、このための作戦参加機が存在しなかった。

 空母機動部隊を米西海岸に差し向けるのはリスクが大き過ぎるとして却下されたために艦載爆撃機は使えない。そもそも空母機動部隊はアメリカの空母機動部隊を牽制するために南洋に置き続ける他無かったのだ。

 そしてサンフランシスコ空襲を達成させた一式戦艇はあくまで戦闘機。爆弾搭載量は機銃を降ろしても30kg爆弾4発がやっとであり、艦船には非力である。


 それに、もし作戦参加機が決定したとしても、機数を揃えられるかも問題となった。

 そういうのも、先の空襲ではアッツ島~サンフランシスコ間の長距離渡洋のため、自力飛行の可能な小破機でさえ長距離飛行に支障有りとして水没処分とした結果、作戦に参加した一式戦艇78機の内の約1/3に当たる23機を喪失しているのだ。それも敵機に撃墜されたのはたった3機だというのにだ。

 今後、アメリカ本土の防衛体制は大きく拡充されるだろうというのに、飛び石空襲作戦の度にこのような大量の喪失機を出しては戦争遂行そのものが破綻する恐れがあったのだ。


 これらを鑑みて、海軍は次期米本土空襲のために以下のような航空機が少なくとも100機ずつ必要だと判断した。


・一式戦艇と同等の性能を持ちつつ、より生産性のある水上制空戦闘機。

・250kg爆弾×1以上の搭載能力を持つ水上爆撃機。


 年内にこれを各100機生産など無理である。

 誰もがそう考えながらも、一縷の望みをかけて各航空機メーカーにこれが可能か打診された。


 するとどうだろうか、なんと3社も可能だと返答したのだ。

 その3社とは中島飛行機、愛知航空機、そして東京飛行機であり、その返答内容は以下の通りである。


中島飛行機からは、「以前に十五試水戦開発の雲行きが怪しくなった際に打診され、試作までした零戦の水上戦闘機型をそのまま流用することによって、高性能な水上制空戦闘機の量産が可能」


愛知飛行機からは、「以前より海軍からの要請で研究されていた潜水艦搭載の特殊攻撃機を、潜水艦搭載の為の特殊装備をオミットすることにより、250kg爆弾×3の搭載能力を持つ水上爆撃機の早期生産が可能」


東京飛行機からは、「既にマーリンエンジン搭載の一式戦艇二二型は既に250kg×2発の搭載が可能であり、また川崎航空機ではハ9-II乙の高出力型であるハ9-IIIの完成が近いため、これを搭載した一式戦艇においても二二型と同等な搭載能力のある、いわば水上戦闘爆撃飛行艇の生産が可能」


 これを聞いた海軍関係者は歓喜した。なんたる偶然かと。

 これらはすぐに実行に移された。


 試作機が既に完成していた中島飛行機の零戦の水上戦闘機型は、飛行試験により性能が確認されるとすぐに中島飛行機A6M3-N二式水上戦闘機強風として制式採用。8月には既存の零戦からの改造も合わせて量産が開始された。


 愛知飛行機では、搭載予定であったアツタ水冷エンジンの生産数が圧倒的に不足することが判明し、代替エンジンとして金星51型を選定。これに伴う胴体の再設計に苦労しながらも試作機が10月に完成。飛行試験の結果、エンジン出力が予定よりも低くなったこともあり爆弾搭載量は250kg爆弾×2となったものの、まずまずの結果となり愛知飛行機M6A1二式特殊爆撃機晴嵐として制式採用。こちらも量産が開始された。


 東京飛行機では、川崎航空機でハ9-IIIが完成するのを待ちながらも、一式戦艇に爆撃装備を追加した機体を着々と量産。隅田川には首なし機が大量に並ぶことになった。そして10月、川崎航空機からハ9-IIIの納入が始まったことにより続々と完成機が誕生。飛行試験も難なく済ませ、東京飛行機N1T3-M二式特殊戦闘爆撃飛行艇突風として制式採用された。


 こうして着々と第二次米本土空襲の準備は進められたのだ。

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