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太平洋の突風  作者: 鶴岡
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一式戦艇・ドゥーリットル

 その後も一式戦艇の戦いは続き、巴戦に優れる零戦と、一撃離脱に優れる一式戦艇とで緩急を付けて敵機を翻弄する空戦戦法が編み出され、さらに爆撃により滑走路が破壊されてもなお迎撃戦闘が可能な一式戦艇は重用され、島嶼への滑走路建設が完了した後も配備が継続されることとなった。

 また、24機のみ限定生産されたマーリンエンジン搭載の一式戦艇二二型は特に大活躍した。なにしろ640km/hという圧倒的優速であるから、これに追随できる英米戦闘機は重戦のP-38とF4Uのみであり、優速であっても鈍重な重戦などは一式戦艇二二型の敵では無かった。

 連合国パイロットには、「ZeroとRex(一式戦艇)のペアに出会ったらすぐ逃げろ。巴戦はZeroに負け、一撃離脱はRexに負けるからだ」などという訓示まで発せられる始末である。


 1942年4月18日。勇猛果敢なる皇軍が南方で躍進を続けていた日の早朝に帝都に急報が伝えられた。


「発、特設監視艇第二十三日東丸。空母2隻を含む機動部隊発見」


 帝都東京の東方約1300kmの海上にいきなり米国空母が現れたのだ。

 これに対し陸海軍は日本各地の部隊に防衛と哨戒を命じ、東京市荒川区の東京飛行機でも急遽、出荷待ちであった一式戦艇二一式2機と二二式1機を隅田川に浮かべ、テストパイロットらによって出撃体制をとる事となった。


 午前10時になってアメリカ陸軍爆撃機B-25複数が水戸上空を進入し、帝都方面へ飛び去ったという情報が知らされると、東京飛行機では騒然となった。

 水戸~帝都の直線上にちょうど東京飛行機があるためだ。

 これを受けて東京飛行機の一式戦艇3機は即座に離陸。陸軍から「敵機の高度は高い」との通達があったが、空母2隻からの少数規模の攻撃隊であるなら、軍施設への精密爆撃が目的だろうから帝都付近で高度を下げるだろうとの予測から高度3000mでの低空待機をすることとなった。


 そして午前11時過ぎ、B-25が1機水戸方面から侵入してくるのを発見。高度は2800mであった。

 一式戦艇3機は高度を3200mまで上昇の後、B-25の頭を押さえるように針路を取る。そして距離700mを切ったところで緩降下に入り機体を加速させる。

 ここで日本軍機随一の優速を誇るマーリンエンジン搭載の一式戦艇二二型が先行し、650km/h超でB-25の斜め上方から斉射、4条の火線は見事にB-25に命中し、続けざまに後続の二一型2機も火線を浴びせていく。

 一式戦艇3機による射撃は十分有効だったらしく、ボンッと爆ぜた音と共にB-25の右翼側のエンジンが炎上し始めた。その火の手はじわじわと翼を伝わり、胴体からは慌てたように搭乗員らが脱出していく、4人目が脱出したのが見えた瞬間B-25が大爆発を起こした。天晴れ、見事撃墜である。


 だが早くも2機目のB-25が接近してきていた。その高度は3500mほどだろうか、そして一式戦艇は2500mの辺り。もう高高度からの射撃は不可能だ。そこで今度は下方から突き上げるように射撃するようだ。

 またしても一式戦艇二二型がその優速をもって先行して下方から火線を浴びせると、胴体の下腹、ちょうど爆弾倉があるあたりに着弾して瞬間、そのB-25が轟音と共に火球に包まれた。20mm弾が爆弾に命中して誘爆してしまったのであろう。


 そうして最終的に東京飛行機上空に合計5機のB-25が進入し、一式戦艇3機が3機を撃墜、1機のエンジンに損傷を与え黒煙を吐かせることに成功したが、そこで遭えなく全ての機銃弾を撃ち尽くしてしまった。

 為すすべなく2機のB-25を見送り、一式戦艇は隅田川に着水した。


 だが、彼らの働きは無駄にならなかった。

 翌日の新聞やラジオの報道によれば日本に来襲したB-25は計15機であり、帝都東京、名古屋、神戸の3都市に来襲。名古屋と神戸ではあまり効果的な迎撃が出来なかったのを言葉少なく報じ、他の過半は「荒川の一式戦闘飛行艇 帝都の空を見事制す」「一式戦闘飛行艇がミ爆撃機3機撃墜 1機を陸海軍と共同撃墜」と大見出しで一式戦艇の活躍を報じた。


 後々に伝え聞いた話によれば、黒煙を吐き続けながら飛ぶB-25は市井の視線を集め、多くの通報が寄せられたことによって陸海軍はその動向を逐次把握できた結果、厚木の海軍航空隊の九六式艦攻や、東京瓦斯電横浜工場防空隊の九七式戦などの旧式機しか配備されていなかったのにも関わらず効果的な迎撃戦闘を可能とし、B-25の2機撃墜を達成したのであった。

 これによりB-25爆撃機隊15機の内、帝都に向かった5機全ての撃墜に成功したのだ。


 以降、英米による空襲への備えが本格化するとともに、平野部の少ない本土では陸上機の大量運用が難しいとして河川や沿岸での運用が可能な水上戦闘機に、それも一式戦艇に局地戦闘機としての白羽の矢が立ったのはまた別の話。

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