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太平洋の突風  作者: 鶴岡
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一式戦艇・太平洋の平和

 1944年5月。

 昨年までの戦争、政府が言うには第二次世界大戦の混乱が未だ残る世情の中、太平洋に新しい風が吹こうとしていた。


 日米間の講和に大きな働きをした嫌戦同盟が、先の日米シアトル講和会議により独立を果たした東南アジア諸国の参加に合わせて環太平洋条約機構、略してPRTOと名を変えたのだ。


 そして今日、第一回目となるPRTO加盟国らによる会議がタイ王国の首都バンコクにて開催され、機構の基本方針が以下のようにまとまった。


・PRTO及びPRTO加盟国は欧州の諸紛争に介入しない。

・PRTO非加盟国及び組織からPRTO及びPRTO加盟国への軍事的介入は、PRTOの全ての加盟国の協調によりこれを阻止する。

・PRTO加盟国間での武力行使を認めず、之を犯す国には然るべき処置をする。


 極論、戦前からアメリカで主流であったモンロー主義を、太平洋沿岸諸国全体で取り入れているようなものだ。

 そして会議の締め括りは、PRTOの初代総長に就任した山本五十六による次の宣言だ。


「この環太平洋条約機構《PRTO》の目的は、複雑怪奇なる政情の欧州に頼らず、日本や米国を始めとする太平洋諸国による協和によって、太平洋地域の恒久的な平和と発展を望むものである」


 さらにはこの宣言に合わせ、会議の開催都市のバンコクの空を12機の戦闘機が見事な編隊を成しての式典飛行が開催された。

 PRTO加盟国の内、戦闘機部隊を保有する諸国による式典飛行である。

 編隊の先頭を務めるのは会議のホスト国でもあるタイの一式戦が2機、その後ろに続くように日本の一式戦艇と一式戦、アメリカのP-40とF4F、オーストラリアのCA-12、満州の一式戦、カナダのスピットファイアの順にそれぞれ一国当たり2機ずつが続いている。

 誰も彼も、日本とアメリカでさえ比較的旧式な機種からなる陣容であるが、これはタイ王立空軍と満州国空軍の一式戦と速度を合わせるためだろう。


 その中でも、唯一の双発かつ水上機でもある一式戦艇は人目を引いた。

 普通、双発機も水上機も単発の陸上機と比較して性能に劣る、特に旋回性能においては格別に劣るというのが常識である。

 それなのに一式戦艇が他の単発陸上戦闘機らと翼を並べ、揺らぎも遅れも無く追随して飛行できているのは機体の性能の良さか、パイロットの腕の良さであろうか。


 余談であるが、この式典飛行を見守る各国関係者の中で唯一、苦い顔をしていたのがカナダである。

 なにせカナダ空軍だけ、PRTO域外で設計された戦闘機であるからだった。

 イギリス連邦構成国であるのだからイギリス製戦闘機なのはしょうがない。という言い訳も、同じくイギリス連邦構成国であるオーストラリアが自国開発、自国生産したCA-12を持ち込んだために利かなくなってしまったのである。


 そして会議の閉幕後、カナダの空軍関係者らはアメリカから戦闘機の輸入契約を取り付けてから帰国の途に着いたという。

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