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太平洋の突風  作者: 鶴岡
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三式襲撃艇・終戦

 1944年1月1日、元日。

 日本中が勝利に沸き立っていた。


 各々の新聞の一面にはインパール市街で擱座したマチルダ2型歩兵戦車の前で万歳をしている陸軍兵士らの写真が踊り、またある紙面では三式襲撃艇が37mm機関砲でモスキートを粉砕する瞬間を捉えた写真が掲載されていた。

 そしてその隅には逃げ腰英艦隊、先のインパール作戦で一応の脅威であったはずがアフリカ東海岸にまで撤退していたイギリス海軍東洋艦隊を酷評する記事が載せられている。


 勝った勝った、完勝だ。あとは独伊と協調してイギリス本国を降伏させるのみだ。という空気が日本中に溢れていた。


 だが次の日、その急報はやってきた。


『ヒットラー総統死す』


『国防軍中尉自爆か』


『ヒットラー爆殺に及んだクーデター首謀者らが臨時独逸連邦政府樹立を宣言』


『臨時独逸政府、伊と共に英蘇と講和交渉に突入』


 なんという事だろうか。

 欧州の盟友ドイツの総統ヒットラーが暗殺されてしまったのだ。


 在独大使から伝えられた話によれば、去年のクリスマスに開かれたドイツ国防軍新式制服の御披露目会にて反ヒットラー派の国防軍中尉が自爆。

 それによって御披露目会に参加していたヒットラー総統と政府高官ら多数が殺害されてしまったのだ。


 そしてこの自爆事件に呼応して国防軍の反ナチズム・和平派グループがベルリンの官庁街を制圧。


 これを以て昨日ようやく、クーデター政府が一連のヒットラー暗殺から始まるクーデターを公表。自らの政府を臨時ドイツ連邦と名乗ったのだ。

 後に第二次ドイツ革命と呼ばれるようになる一大クーデターである。


 それどころか彼らクーデター政府は戦争相手国であるイギリスとソビエトに対して一方的な停戦を申し出て、これに同調したイタリアとフィンランドも攻勢の中止と前線の後退を実施。

 そして幾らばかりかの小規模な戦闘と混乱の後、欧州の全ての戦線で12月31日からの停戦が成立したのだ。


 結局の所、どこの国もギリギリの国情だったのだ。


 イギリスはドイツによる本土空襲によりロンドン近郊の軍需工場は潰滅。インド以東の植民地も軒並み日本に占領された。

 やっと完成した航空用高性能エンジンも必要な高オクタン価ガソリンはアメリカからのレンドリース頼みだったために供給無し。


 ソ連は首都モスクワの20km手前までドイツ軍が迫り首都陥落の寸前。

 アメリカに次ぐ生産力を誇っていた工場群も、消耗品の精密工具をアメリカからのレンドリース頼みにしていたため歩留り率が著しく悪化。


 ドイツは東部戦線で3度目の冬を迎えモスクワまでの補給路が凍結。またも将兵が極寒地獄に苦しんでいた。

 片や西部戦線では英仏海峡を越えようというのに、アジアから逃げ落ちた東洋艦隊も含むイギリス海軍に対抗出来る海軍戦力は未だ整備が進んでいなかった。


 イタリアはそもそも戦争への準備がまったく足りておらず、ドイツからお零れで貰った占領地の統治にさえ苦汁する始末であった。


 いや、戦争への準備が足りていなかったのはイタリアだけでは無かったのだ。

 欧州戦争終戦から僅か20年と少しの年月しか経たずに、此度の大戦が勃発したのだ。

 先の大戦で国力を消耗させた欧州のどの国にも、二度目の大戦に勝利するための国力が無かったのだ。


 1944年1月5日。

 大日本帝国が連合国との停戦に合意した。

 国際的な停戦機運の高まりに従おうという、天皇陛下の御聖断によるものである。

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