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太平洋の突風  作者: 鶴岡
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三式襲撃艇・事故

 作戦開始から26日目、陸軍地上部隊はようやくパトカイ山脈越えを果たした。

 イギリス軍は山中で戦車を各個撃破されるのを恐れたらしく、これまでの道中で遭遇することは無かった。だがその分、これ以降の道程には集中運用されたイギリス戦車が立ち塞がるはずだ。


 そしてパトカイ山脈越えが遅延したのは、イギリス空軍の新型双発襲撃機のモスキートによる空襲が原因だった。

 なんとモスキートは我が方の三式襲撃艇と同等の空戦性能を持ちながらも三式襲撃艇では2発しか積めない250kg爆弾を4発も吊るし、さらには20mm機関砲を4門と7.7mm機関銃を4挺を搭載する重武装である。

 これが連日の如く来襲するせいで制空部隊にも地上部隊にも多くの損害が生じているのだ。

 もちろん制空部隊でも手を拱いていた訳でもなく、一式戦や二式戦の後継機である三式戦闘機飛燕を投入したのだが、それだけで空の趨勢が変わるという訳でもなかった。


 そんな中、陸軍地上部隊を直掩するために離水しようとした三式襲撃艇が突如として安定を失いスピン。そして湖面の上で何度も横転した果てに大破するという事故が起きた。

 インド攻略作戦の決戦機とも見られていた新鋭機での波風の無い好条件時の離水で起きたこの事故を陸軍は重く見て、即座に三式襲撃艇の運用停止の決定が下された。

 そして陸軍航空審査部と川崎航空機、そして東京飛行機に事故合同調査委員会の立ち上げが命じられ、事故原因の子細なる報告を火急的速やかに行えとの命令が下された。


 モスキートに対抗可能な数少ない機種の1つが三式襲撃艇なのだ。

 事故によって無駄に喪失することも脅威であるが、飛ばせないという事はイギリス空軍に空襲を許す事に繋がる。

 事故原因の解明と解決が一刻も早く求められるのだ。


 これに応じてまず事故機の操縦士、全身骨折という重症を負いながらも奇跡的に一命を取り留めた彼に聞き取り調査が行われた。

 彼によれば、普段通り三式襲撃艇に乗り込んで湖水上に設けられた離水開始位置を示す浮標への滑走までは何も問題が無かった。

 だが離水を開始しようとスロットルを押し開くと妙に右エンジンの調子が良い。なので左右エンジンのスロットル開度を調節しながら慎重に機体を加速させていたのだが、あと少しで離水速度というところで右エンジンの推力が急激に増大。慌ててスロットルを絞ってラダーを目一杯踏み込んだのだが間に合わず、機体は右エンジンに引っ張られるようにスピン。そして気付いたらビルマのラングーンまで後送されて入院していたとのことだった。


 この事から事故原因はハ40の推力平衡の異常が原因だと考えられたのだが、ハ40を製造する川崎航空機から派遣された調査委員は、片方のエンジンの不調により推力平衡が崩れることは有り得てもその逆、片方のエンジンの好調が推力平衡を崩すほどの影響をもたらすことは有り得ない。との見解であり、陸軍航空審査部と東京飛行機も同じ見解であった。


 早くも調査が行き詰まったかに見えたが、川崎航空機から派遣された調査委員が解明の糸口を見つけた。ハ40の過給器の補充数が、飛行戦隊の主計課と整備班がそれぞれ付けていた帳簿で異なっているのだ。

 詳しく調べて見れば、主計課の帳簿に記録された数と川崎航空機から送られた数は輸送途中で喪失した数を含めてピタリと合致していたのだが、整備班の帳簿ではどう言う訳か23器も増えていたのだ。

 そしてその23器には「ロ式過給器」なる名称が付けられていた。


 これには調査委員らも頭を抱えた。

 事故機の整備兵らを捕まえ問い詰めてみれば予想通り「ロ式過給器」は「ロールス・ロイス式過給器あるいは鹵獲過給器」の略称であり、それを事故機に使用したと吐いた。

 さらに突き詰めれば、事故機のエンジン2機には共にロ式過給器が取り付けれられており、左エンジンの過給器はランカスターの、右エンジンの過給器はスピットファイヤの残骸から鹵獲した物だという事が判明した。

 しかもこれらロ式過給器の方が川崎製過給器よりも耐久性に優れるからと事故前から恒常的に使っていたと言うではないか。


 それでは事故も起こるはずだと調査委員らは呆れた。

 ハ9-III開発の際にコピーしたマーリンエンジンの過給器をそのままハ40に流用したのが仇となったのだ。


 だが、これで事故原因はハッキリした。

 イギリス空軍はランカスター用とスピットファイヤ用に異なる仕様の過給器を供給しており、これらを鹵獲して双発機である三式襲撃艇に混用したために推力平衡が崩れ事故に至ったのだ。

 また、これまで事故に至らなかったのはランカスター用過給器しか鹵獲出来なかったためであること。ランカスター用過給器と川崎製過給器の性能が近似していたためだということも判明した。


 そうであるなら解決手段は至極単純、ロ式過給器を使わなければ良い。

 といっても高品質なロ式過給器を捨て置くのも惜しいし、使用を禁じても現場はこっそり使うだろうから、ランカスター用過給器及び川崎製過給器とスピットファイヤ用過給器の混用を禁止する。という事でこの事件は一応の解決を見たのであった。

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