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太平洋の突風  作者: 鶴岡
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武蔵・シアトル

 1942年12月25日。


 アメリカ合衆国は降伏した。

 正確には、「アメリカ合衆国国民の民主主義と自由と安全の保障」を条件とした条件付降伏であったが、枢軸国と中立国の大概の報道機関はそうは書かなかった。


 日本にとっても、アメリカという大国を統治下において搾取するなど不可能と考えていたため、条件付降伏も無条件降伏も変わらないようなものだった。


 そして年も明けて1943年1月10日。

 アメリカ西海岸のカナダ国境に近い港湾都市シアトルに、大和型戦艦を始めとした日本海軍連合艦隊が到着した。

 この日からカナダを仲介国として日米間の講和会議が開かれるのだ。


 だが、講和会議が始まってすぐに一悶着が起きた。

 アメリカ代表団の内、陸軍側の代表が強気にこう言ったのだ。


「今回我々が降伏したの度重なる空襲に世論が圧し負けたからだ。つまりアメリカが負けたのは空での戦いのみであり、我々陸軍は未だ健在である。支那ごときに苦渋する貴様らなど押し潰す事は造作も無いのだぞ」


 これにはアメリカ海軍すら慌てた。なにしろ陸軍を輸送する船など満足に残っていないからだ。

 そして、日本側は淡々とこう回答した。


「そうですか、それは恐ろしい。ところで話も変わりますが、アメリカの自動車と戦車の工場はほとんど五大湖周辺に集まっているそうですね。カナダ国境にも面していますし、機会があれば近いうちに飛行機で行ってみますね」


 要は、この講和会議が破談になればカナダ経由で五大湖の工場群を空襲すると脅し返したのだ。

 これに顔を真っ赤にした米陸軍代表であったが、その重要性を正しく理解した他の米代表の面々によって会議場から摘み出された。

 ただでさえ北アフリカ戦線でドイツ戦車に圧倒されていたのに、戦車が作れなくなっては勝ち目が無いのだ。


 これ以降、講和会議では特に悶着が起こることも無く、順調に進んだ。

 一つ騒ぎがあったとすれば、賠償金を決める時のことだ。


「―――次に、賠償金についてですが、日本側としては6000億ドルを要求します」


 講和会議場がシンと静まり返った。

 我に返ったアメリカ側が慌てて通訳に賠償金額の確認をとる。何か資料を確認している様子も見られる。

 そして、アメリカ側の返答がこうだ。


「6000億ドルで、良いのですか?6兆ドルとの間違いではありませんか?」


 何しろ、当時のアメリカの国家予算が350億ドル、国内総生産が1.6兆ドルであり、来年度以降はさらに増大する見込みがあるのだ。

 6000億ドル程度、15年もあれば無理無く完済できてしまう。本当にそんな端金で良いのかと確認したのだ。


 だが日本側の回答は変わらなかった。

 日本側が戦争で受けた損害が少なかったというのもあるが、最も要因として大きかったのは国力の差だろう。

 国家予算も国内総生産もアメリカの1/10程度だったのだ。

 それなのにアメリカ的物量を賠償金という形でぶつけられては国内経済が崩壊する恐れがあったのだ。


 こうして講和条件が決定した。大まかな内容は以下の通りである


・アメリカ合衆国が有する西経170線以西の太平洋の諸島の領有権を日本に委譲する。

・ハワイ諸島に関しては住民投票により、独立か日米のどちらかに帰属するか決定する。

・アメリカが枢軸国に課していた全ての禁輸措置の撤廃。

・アメリカが枢軸国の許可無しに戦略兵器を新規開発、または新たに生産することを禁止する。

・日本はアメリカが現在建造中のアイオワ級戦艦、エセックス級正規空母、及び補助艦艇の建造継続を認める。

・アメリカは日本に対して賠償金6000億ドルを支払う。これの支払い方法は現金に限らない。

・日本とアメリカは来年末までに相互協力安全保障条約を締結する。

・日本とアメリカは来年末までに嫌戦同盟に加盟する。


 そして全ての会議が終わり、日本海軍連合艦隊の旗艦武蔵艦上での調印式が終了すると、アメリカ側代表団は負けたのか何だか分からない様な顔をして去っていくのだった。


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