二式戦爆艇・夜襲
夜間飛行には危険が付きまとう。
単座機の場合、操縦しながら機体の位置を確認しなければならないが、暗い中でそれを続けるのは難しい。
だから、これまでの飛び石渡洋空襲でも夜間飛行はなるべく控えていた。
だが2度目となる今回、アメリカも相応の対策をしてきた。
今日のサンディエゴで迎撃に上がってきた戦闘機は前回の4倍以上だった。こちらが前回と同じ戦力であったなら全滅していてもおかしくなかった。
そしてこれからの第二次サンフランシスコ空襲だ。
サンフランシスコ沖で待機している潜水艦からは膨大な数、サンディエゴ以上の米軍機が哨戒飛行をしているとの報告が上がっている。
そんな中に突っ込めば多大な損害を負うだろう。何か策を練る必要があった。
そして次の日、12月9日。
夜間の哨戒飛行こそ双発機による常識的な規模だったが、日の出と共にまたしても膨大な機数で哨戒飛行を始めたという報告が上がった。
これに航空機整備士が疑問を呈した。
「いったい、そんな数の航空機をいつどこで整備しているんだ?
たとえ近隣基地や空港と融通を図っても、それだけ大規模の航空機を運用して整備が間に合うのか?そもそも運用能力があるのか?
それと、それだけ昼間に大規模な哨戒飛行が可能ならば、夜間の哨戒飛行も相応規模で行うものじゃないか?」
否、出来ないのだろう。
きっとこちらに大編隊で夜間飛行をする能力が無いと考え、だから昼間に全力で哨戒飛行をしている。
その整備に追われるあまり、夜間は常識的規模のみをやっと哨戒任務に展開させているのだろう。
だとすれば、夜間攻撃あるのみだった。
だが制空戦闘の可能なのは一式戦艇と二式特戦爆艇突風、そして二式水戦強風の3機種、全て単座機であり夜間飛行は酷だ。確実に何割かは位置を見失って遭難するだろう。
そんなことは避けなければならない。
そして、一つの決断が下された。
「12月9日2300時、第二次サンフランシスコ空襲の第一波攻撃を開始する。これに際し全機は非常時を除き灯火を全て点灯させて作戦にあたれ」
敵地での夜間飛行において、ありえない命令だった。
だがこちらは300機超を擁する大編隊である。そうしなければ空中衝突は避けられず、灯火よりもさらに目立つ恐れがあった。
それに遭難する恐れは確実に減る。これで滑走路を叩けば第二波以降の攻撃は敵機に曝されること無く白昼堂々と実行できるはずだ。
そうして日没とともにサンフランシスコ沖200kmまで進出。
哨戒にあたる強風と零式水偵の援護の下、薄暗い月明かりを頼りに出撃準備を整える。
12月9日23時。
それまで薄暗かった海上に、多数の赤緑白の光が灯った。
それらが次々と離水していく。
先導機として誘導に当たる零式水偵17機が合図として灯火を点滅させ、その他の各機が手近な零式水偵の後ろに一列になって続いていく。
これにより編成がまちまちであろうが急造の連合飛行小隊が17隊編成された。これ以後も零式水偵は後続が見失わないように灯火の点滅を継続させるのだ。
そしてアメリカ軍哨戒機に少しでも見つかり辛いように海面を這うように低空を飛ぶ。
そんな緊張の続く飛行を40分間続け、再び彼らはサンフランシスコの空に舞い戻ったのだ。
零式水偵が灯火の点滅を止め、高度制限の解除と飛行小隊の解散を知らせ、そして高度を上げながら次々と照明弾を投下していく。
サンフランシスコが白昼の如く照らされる。
その中で滑走路を離陸中だったP-40を目敏く見つけた誰かが機銃掃射を仕掛けて離陸を阻止した。
それに続くように誘導路や駐機場に泊められていた航空機、そして滑走路に爆弾が投下されていく。
粗方爆撃したところで、その間に高度を確保していた零式水偵が再度照明弾を投下する。
運良く攻撃を逃れていたアメリカ軍機までもが曝され、そして残骸の成り果てていく。
こうしてアメリカ軍航空基地への機銃掃射と爆撃を済ませた第一波攻撃隊は、また灯火を点滅させる零式水偵を頼りに海上補給基地へと針路をとり悠々とサンフランシスコを後にするのだった。
夜明け。
暫しの休息で第一波攻撃の疲れを取った水上機搭乗員らがそれぞれの愛機を駆って離水、サンフランシスコへと進撃する。第二波攻撃である。
深夜の内に航空戦力を殲滅されてしまったアメリカ軍は、それでも6月の空襲の時の何倍もの数が配備されている対空砲で必死に応戦するが焼け石。早々に機銃掃射の的となり沈黙していった。
さらに6月の空襲の時には無かった250kg爆弾がハンターズ・ポイント海軍造船所に落とされていき、建造中の艦艇がスクラップになっていく。
第三波攻撃も、第四波攻撃も、それ以降も攻撃は続いた。
サンディエゴでの反省から、炎上して黒煙を撒き散らす物資や燃料への攻撃を後回しにしているのだ。
そして第六波攻撃。これが最後となった。
黒煙に包まれるサンフランシスコを背に、日本軍機は日本へと帰投した。




