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第9話 闇のモヤモヤ吹き飛んだ!

 小田さん家のゆんと遊んでからもう5日が経った。

 何事も無く、凄く平和。葛藤が起こってるのは俺の心の中だけ。

 『告れ君』と『告るな君』が戦ってる。今の所優勢なのは『告るな君』。だから俺は告白しない。こじ付けがましいけど本当にそうなんだ。

 未だ心のモヤモヤは取れない。何がどうなってモヤモヤが付いたのか分からないけど、とにかく取れない。歯と歯の間に挟まったササミ肉みたいに取れない。

 そんなある日、俺は1人の女子に呼び出された。朝学校に来てみたら机の中に手紙が入ってたんだ。

 場所は体育館内の『器具倉庫』。放課後に来て、との事だった。

 なんでこんな所なんだろう、って思ったけど、見つかりにくいって言えば見つかりにくい。

 部活でも無ければこんな所にわざわざ入ってくる人なんて居ない。

 俺が待ってたら、倉庫のドアが開いた。女1人と男1人。呼び出された理由は分かる。

「ごめんね、待たせた?」

「別に……」

「……あたしね、晴樹の事が好きなの」

 ちなみに俺は学校内のイケイケギャルっぽい人達には「晴樹」と呼ばれてる。

 普通の子達は「榎本くん」とか「エノ」とか「榎本」とか呼んでくるけど。

「晴樹はあたしの事どう思ってる?」

「…………」

「……ねぇ」

「ゴメン!」

「……え? ……ダメ…?」

「俺今好きな人が居る。だから……ゴメン」

 俺が下向いて謝ると、その子は俺の顔を覗きこんだ。

「……「小田さん」?」

「え!?」

 焦って顔を上げると笑ってた。「なんで知ってるの」って聞いたら、「仲良さそうじゃん」って言った。ついでに「晴樹分かり易いよー」とも言われた。

 その子は玉砕覚悟で告白してくれたらしい。「頑張りな」って背中を押された。

 この瞬間、俺の中で『告るな君』を倒した者が居た。紛れも無く『告れ君』だ。

「……ありがとう……!!」

 俺はその子にお礼を言った。相手は「何の事?」って顔をしてたけど、俺にはちゃんと勇気がわいてきていた。闇のモヤモヤも取れた!

 久しぶりに心に光が当たったんだ。ありがとう、イケイケギャル!!!

 俺は走って3組に行った。でももう誰の姿も無かった。次は下駄箱。結構たくさん生徒は居たけど、彼女の姿は無い。

 上履きのまま運動場に出た。そのまま真ん中を突っ切って校門へ。他の生徒達が興味本位で見てきたけど、もう関係ない。

 中には「(何だか分かんないけど)頑張れー!」と叫んでくれる奴も居た。校門を出て左右を見渡す。向こうの方にそれらしき人物が―――――居るような居ないような……。

 違っててもいい。とにかく走った。その人が角を曲がった時、やっと追いついた。肩を掴むとその人は驚いた顔でこっちを見た。

 ……違う。

「すいません間違えました」

 そう言ってまた走る。一応見つからなかった時の最終目的地は小田さん宅。この間送ってって良かった。

 小田さんの家目指して走る、走る、走る。足がもつれて転びそうになったり、口や喉がカラカラに乾いたりしたけど、走った。思った時に言わないともう言えない。

 俺は一度ジャングルジムでチャンスを逃してしまったから、今度こそは失敗しない。逃さない。

 今度こそ―――言う!

 あの公園を抜けて、とうとう小田さんの家の近くまでやってきた。だけどそれらしき人物は未だ見つからず。

 家に帰ってるのかな。

 門の前に立った。白い柱に黒いインターホンが付いてる。

 ……押さないと……。押さないと出てこない。出てこなきゃ言えない。

 だけどボタンのすぐ前で俺の指は止まってしまう。何て言ったって女の子の家だ。男が来たら両親は驚くに決まってる。

 ……どうしよう……。

 あともう少し。

 あとほんの一握りでいいんだ。勇気が欲しい……!

 届け……。動けよ、俺の指!!

「あっれー!? 榎本くん?」

 ピーンポーン(正解音&インターホン)。




 …………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!





 おおおおおお押しっ……押しっ……押しちゃった…………ッッ!!!

 後ろに居たのは……奈美さんだった。

「……な、ななな奈美さん……」

「え、何? どしたの? あたしなんかマズイことしちゃっ…」

「ありがとう……!」

 なのか? うん、まぁいいや。押せちゃったんだから仕方ない。

 不思議そうな顔の奈美さんの前で、1人納得してるとドアが開いた。あのゆんとのギャップが激しい真っ白なドアが。

 中から出てきたのは、中年の女性だった。多分小田さんのお母さん……。

 なんか目が似てる。

「……あら……。どなたかしら?」

「あのっ! えっと……小田さんの…」

「彩乃のお友達……?」

「あ、はい……。あの、小田さんいらっしゃいますか……?」

「ごめんなさいね、まだ帰ってきてないのよ」

「…………あ。そう、ですか」

「あのー、良かったらお茶でも……」

 小田さんのお母さんは中に入れようとしてくれたけど、そんな大胆な事が出来るはずがない。

「けけけけけ結構です! すいません気を使わせてしまって!! あのっ…………し、失礼します!!」

 俺は走ってその場を抜けた。

 あーもー!! なんでここまで来てっ……!!

 しばらく走ったところで体力も限界。倒れ込んだ。下はお世辞でも綺麗と言える所じゃないけど、もうなんでもいいや。もうダメ。もう走れない。

 上履きが削れて足が痛い……。せっかく『告れ君』が勝ってくれたのに。きっと明日になったらまた『告るな君』が優勢になるだろうな……。

 きっとこのまま小田さんに告白出来ないまま高校生活終わるんだ。

 この状態がエンドレスなんだ。勇気をくれ……。


 誰か……勇気を俺にください…………。


「榎本くーん。大丈夫?」

 気が付くと奈美さんも自転車で追ってきてたみたいだ。俺の顔覗きこんでる。

「……大、丈夫……」

「ね、やっぱ彩乃の事好きなの?」

 ……もう誤魔化す事はない。俺は小田さんが好きだ。誰にも隠す事なんてない。

「……好きだよ」

 俺は秋の空を見上げながらそう答えた。もう言ってから恥ずかしいなんて、そんな思いは無い。だって本当の気持ちなんだ。

 そこで奈美さんがフッと笑ったのが分かった。

「そっかぁ……」

「ねぇ奈美さん」

「うん?」

「小田さんは……俺の事嫌いじゃないかな」

 少しの間沈黙が流れた。なんかちょっと緊張する……。夕焼けに照らされた山の方でカラスの鳴き声がして、奈美さんが口を開いた。

「あたしには分からないなぁ……」

 ……やっぱそうだよな……。奈美さんと小田さんは別人なんだから。

「でも」

 奈美さんは山の方を見て言った。「嫌いではないと思うよ」って。そう言うと立ち上がって、「あたしが見た限りではね」って言った。

 今は凄くありがたい言葉。やっぱりまだ俺の中では『告れ君』が『告るな君』の上に伸し掛かったままだ。言わなきゃ。

 上履きが削れても喉がカラカラになっても足がもつれて転んでも。

 言わなきゃ…………!

「奈美さんありがとう!!」

 起き上がってそう言うと、奈美さんは笑顔で頷いてくれた。

 そしてまた俺は走った。

 小田さんが見つからない限り地の果てまで行く覚悟で。


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