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第6話 ザ!おばさんカップル

 あの犬―――ゆんの事で、俺と小田さんが話す機会が多くなった。

 ゆんが小田さんに貰われてから1ヵ月が経った。

「ゆんね、ドンドン大きくなってくの」

「今どれくらい?」

「うーんと……これくらい」

 小田さんは自分の膝より少し上くらいに手をやった。

「もうそんな!? 犬の成長って早いの?」

「少なくとも人間よりは早いよ。1年で18才になっちゃうの」

「すごいね」

 犬も小田さんも。よく犬の歳なんて覚えれるなぁと思うよ。

 俺なんて家族の誕生日覚えるだけで精一杯なのに。あ、今ももう忘れかけてる。特に姉貴。

 まず何月だったっけ……?

「あの子、産まれて2、3ヵ月は経ってたみたい」

 そんな経ってたんだ。じゃあ母さん達に「外にやりなさい」って言われてた事とかも分かってたりすんのかな。

「じゃあもう3、4ヵ月? 人間で言うと……何才?」

「4、5才くらいかな」

「もう人間の言葉理解出来たりするの?」

 だって公園で、あんなに尻尾ブンブン振ってたし。でももしそうなんだったら母さん達の言ったことは尚更可哀相だよなぁ。

「理解かは分からないけど、しつけは6ヵ月くらいからなんだって」

「ふーん。なんで6ヵ月?」

「本で読んだだけだから詳しい事は分からないんだけど……」

「ん、そっか」

 6ヵ月か。人間にすると何才だろ……?

 ……考えたところで何も分かんないや。犬の歳の取り方もイマイチ分かんないし。

 かと言って何度も小田さんに質問するのもどうかと思うし。

「あ、もう教室だから…じゃあ」

「うん。バイバイ」

 教室に入ろうとした時……またクボかよー。

「随分仲良さそうじゃないの」

 どこのおばさんだよ、お前。しかもその手。上下に振ってるから更におばさんっぽさ倍増。

「剛史ー」

「あ、奈美ちゃん」

 俺はもうどうでも良くなったみたいだ。奈美さんの方に駆け寄っていった。何か話してる。奈美さんは何度か「え!」とか「うそ?」とか言ってた。

 まさか俺の事話してるんじゃないだろうな。

 だって怪しすぎ。奈美さん何度も俺の方見るし。

 ……でもまぁいくらクボでも人の事ペラペラ喋るはずが―――

「え、なに、榎本くん付き合ってるのー?」

 奈美さんにそう言われて、俺はクボの胸元を引っ掴んだ。

「クボお前どんな説明したんだよっ!!」

「え? 榎本くんと彩乃ちゃんが仲良く喋って登校してて、もうすぐキスしそうだったよーって」

「……」

 ……クボだもんな。まともな説明するワケないよな。

「付き合ってるの? ねぇねぇ付き合ってるの?」

 おばさん第2号。『ザ! おばさんカップル』。

 おばさんになろうがおじさんになろうが勝手なんだけどさ、でもとにかく、お願いだから2人して迫らないでくれ。なんか怖い。

 あ、幸いもうすぐ朝のホームルームが始まる!


 キーンコーンカーンコーン……


 鳴った!! さぁ奈美さん、自分のクラスに帰ってください。

「あー。鳴っちゃったー。また聞かしてねぇ」

 そう言って奈美さんは手をヒラヒラさせて、帰っていった。とりあえずは助かった……。だけど問題はクボだ。

 また授業中に俺の方を向いて聞いてきた。やっぱり前を向け、と言っても意味無し。

 でも俺、付き合ってねぇよ、とは言えない。言いたくないって方が正解のかな。


 授業も終わり、放課後、俺は部活に行く準備をしていた。もうすぐ大会だから気合入れないとなぁ。練習は大変だけど。マイバスケットボールを持って、体育館に向かおうとした時、3組の方から小田さんが走ってきていた。

「小田さん?」

「え…あっ!」

 俺には今気付いたみたいだ。そんな一生懸命走って何してんだろ?

「どうしたの?」

「あ、あの、あのね……?」

 息を切らしながら途切れ途切れに話した。なんでも家族が目を離してる隙にゆんが脱走したらしい。しかもその向かった先は―――

「学校!?」

 小田さんは叫ぶ俺に向かってただひたすら首を縦に振った。先生とか生徒とかに見つかったらヤバイじゃん!

「俺も手伝うから…えっと……じゃあ小田さんあっち捜して!」

「う、うん」

 俺と小田さんは逆の方向に向かって走った。ボールが教室内で寂しく転がってたけど、今はもうそんなの関係ない。

 階段を駆け上がって2階を捜したけど……居ない…。

 ―――お?

 向こうから何か聞こえる。美術室の方だ。カチャカチャカチャ……って……。

 あ。あの顔が黒いのは……ゆん!?

 走ってくる走ってくる―――あ、滑った。最後はスライディングっぽくなって俺のそばに寄ってきた……と思ったら素通りした。しかもスッゴイわざとっぽい。

 美術室と反対側にある教室、音楽室の扉にぶつかりそうになった時、ギリギリで止まった。

「ゆんー! 何脱走してるんだよ」

 俺は後ろからゆんを抱きかかえるようにして捕獲した。滅茶苦茶なくらい嫌がってるけど、絶対離さないぞ。

「榎本くーーーん」

 さっきゆんが走ってきた方から小田さんも走ってきた。あ、滑った。

 俺の目の前でズッテンと転んだ。

「だ、大丈夫……?」

 俺が手を差し出すと、顔を赤らめてそれを掴んだ。

「はい、ゆん」

「ありがとう。…ゆん〜〜! 脱走しちゃダメでしょ! 車にでもひかれたらどうするの!?」

 小田さんはゆんに向かってそう叫んだ。ゆんは元々申し訳なさそうな顔してるけど、その顔がもっとヘタレくんになった。

 …でも安心した。やっぱり小田さんはゆんを可愛がってくれてるんだ。

 2人で笑ってると、他の生徒達が話す声が聞こえてきた。

「ヤベッ!」

 隠れるところを探したけど、どこも無い。仕方なくダメ元で音楽室のドアに手を掛けると、狙ってたんじゃないかってくらい運良く鍵が開いてた。

「小田さん、早く!」

「あ、うん」

 嫌がるゆんを無理矢理連れて、俺達は音楽室の中に入った。入っちゃえばとりあえず安心。

 だけどずっとゆんを抱いていた小田さんの制服は毛むくじゃらだった。

「ゆん、毛が抜けやすいの?」

「そうなの! だからこの子が座った後のソファなんて座れない状態」

「え、じゃあどうしてるの?」

「もう飼うところを玄関先に移したの。靴は毛だらけだけど、家の中じゃないだけまだいいから……」

 そうなのか。脱走するだけじゃないんだ、迷惑さは。あれ? しかもゆん……。

「ねぇ、ゆん、なんか歯出てない?」

「あ、そうそう! なんか成長するに連れて下の歯が出てきちゃって…………榎本くん?」

 しまった! 笑っちゃった。だって凄いマヌケ顔だし、反っ歯だし、笑いを止めようと思っても止まらない!! それにゆん、自分の事を笑われてるって気付いてないのかな。(うつむ)いてる俺の頭の匂い嗅いでる。フンフンフンフン鼻息が聞こえて、時々硬いものが当たる。

 それの予想は大体つく。それは、下の歯。

「あー苦しかった。でも最初見た時は歯なんて無かったよね」

「最初は唇だけちょっと出てたの。だけどこの間フッと見たら白いものが見えてて……」

「それがこの歯だったんだ?」

 また笑いそうになった俺が聞くと、小田さんも笑って「うん」と言った。

 そろそろ声が聞こえなくなったので、外を確認してから急いで出た。小田さんはゆんを抱いて帰っていった。最後に「ありがとう」と言って。

「さてと。俺も帰……」

 部活忘れてた!!! 顧問に怒られる! またクボに笑われる!! 早く行かないと!!

 俺は教室に戻ってボールを持つと、急いで体育館に向かった。

 30分の遅刻は大きくて、やっぱり怒られた。

 そしてクボに笑われた。


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