第46話 『かっちゃん』
どうやらコイツは平穏な時間を送らせてくれないらしい。
この声を聞くと、なんだか胸騒ぎがする。
【ひーどーいー! どーゆーつもりよぅ! 女の子をこんな寒空の下で待たせるなんて。しかも来ないしぃー。ふくれちゃうぞ! ぷくぅ〜】
「俺行くって言ってないじゃん」
【あー! そんな風な口効いちゃっていいのぉ?】
「今俺ん家に居るし。手ぇ出そうったって無駄だよ」
すると、受話器の向こうから笑う声がしてきた。
【分かったぁ。今彼女さんとエッチの最中だったんだぁ! お楽しみ邪魔しちゃってごめんねぇ】
…………。
……不謹慎だぞ、俺!
こんな時に顔を赤らめるな!!
「…あんた一体何なんだ? 頼むからもう電話してこないでくれ」
【えぇ? なんで? 晴ポンどうしたの?】
「どうしたもこうしたもないよ…。自分の行為が迷惑だって分かんないのか?」
【だぁってぇー。かっちゃんに言われちゃったんだからしょーがな……あ、言っちゃった……。あはは。ごめんキャッチー!】
とか言って、電話の向こうの女は、わざとらしく電話を切った。
なんなんだ。目的は俺と彩との仲を切り裂くこと…?
かっちゃんって誰だ。
色んなハテナがモヤモヤに変わって、ムカムカしてきた。
――や、ダメだ。
それこそ奴の思い通りってもんだ。
ここで俺が怒ったら彩は不安になる。心配する。
だけど俺は関係ないよの一点張りになる。
そうなったらどうだ。
その先は見えてる。
別 離。
嫌だ!
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
無理無理無理無理!!
やっぱりここは下手に刺激しないで済ませるしかないな……。
彩にはなんとしてでも隠し通さなきゃ!
とにかく最初は『かっちゃん』が誰なのかを突き止めないと。
そいつが黒幕。
女使ってまで俺と彩の仲を引き裂きたいって奴は誰だ…?
――なんか心当たりがあるぞ。
そうだよ! 考えたらすぐ分かるじゃん!
あいつだ。絶対あいつだ。
俺は決心した。
必ず学校で問い詰めてやる。
人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ! ってやつだ。
でもとりあえず一端部屋に戻ろう。
部屋のドアを開けると、彩が床にぺたんと座って待っていた。
「あれ…。ソファとか使っていいのに」
「あぁー…でも…その家の人が居ないのに勝手に座っちゃうのってどうなのかなーって…。あ、でもね大丈夫だよ! 私こっちの方がいいって言うか……何て言うのかな…。あ! ところで! あの、電話!」
「あぁ、うん」
言葉にはしなかったけど、彩の顔見て分かった。
誰からだったのか凄い気になってる顔だ。
「大丈夫だよ。ただの中学ん時の同級生!」
「…そう、なんだ」
それからは、二人で何をするでもなく、床に転がって天井を見てた。
何か話したくなったら話してた。
こんなんで、彩は退屈じゃないのかなって思ってたら、彩は
「こういう時間もたまにはあるといいね」って言ってたから、ちょっと安心した。
隣に彩が居るってだけで心臓がバックンバックン言うのに、寝転がってるともなると、もうはち切れそうだった。
俺はその時改めて確信した。
俺には彩が必要だ。
失いたくない。
彩といる時間を、彩がいる空間を、彩自身を。
失いたくない。
「……誰にも…壊させるもんか」
「え?」
「彩! 俺何者にも邪魔させないから!」
「…え? あの…うん、でも……何? どういう…」
「っしゃあ!! 俄然やる気になってきたあ!」
後になって思えば、彩はこの時、一人で勝手に暴走する俺を見て、変なやつって思っただろうな。
いや、言い方はもうちょっと優しいと思うけどね?
変わってるなあとか、晴樹くんどうしたんだろうとか。
だけどとにかく、やる気が出たから叫ばなきゃって思った。
決戦は月曜日だな。
待ってろよ黒幕!!