第44話 電話
季節は
「春になりそうで、でもまだ春になりきれない冬」。
人と同じように、季節だって簡単には変わってくれない。
たくさんの時間が必要。
中村一寿も、変わるのに時間が必要だ。
だけど俺は生憎、その変化を待って仲直りしてやれるほど、穏和な性格でもなけりゃ器のデカイ男でもない。
「孤独」で罪を悔い改めろってやつだ。
彩も大分元気になったけど、やっぱり思い出すのか、時々急に不安そうな顔をする。
でもね大丈夫だよ、彩。
彩には俺も奈美さんもクボも付いてるじゃん。
もちろんお父さんやお母さんも。
それに比べて中村は独り。
そりゃあガタイのいいボディーガードは付いてるかもしれない。
でもさ、それは金で繋ぎ止められてる関係だから、いつか必ず終わりがくる。
それに俺決めたから。
もう絶対中村を彩には近付かせないし、なんかしようとしたらただじゃ済まさないから。
俺が絶対彩の事護るんだ。決めたんだ。
もっと早く決めれてたら良かったのに。
――なんかさ、これって、相手が彩だからそう思えたんだよな。
だって奈美さんだったら、一人で蹴散らしそうだもん。
逆に護られそう……。
とにかく! 彩は安心したまえ。
……とかってかっこよく言えたらなぁって、最近よく思う。
彩に伝えたい。
不安になる必要なんて、もうどこにも無いんだよって。
安心してていいんだよって。
だけど伝え方が分かんないって言うか、わざわざ言うような事でもないのかなって言うか…。
よく分かんないけど、とにかく要は言うのが照れるってわけだ。
だからまだ彩にはナイショ。
いつか俺にもっと度胸がついたら、ゆっくり聞いてほしいな。
俺も頑張って言うからさ。
――って考えてた時だった。
急に電話が鳴った。思わず飛び上がって受話器を取る。
「はい榎本です」
【お! 大久保ってモンですけど晴樹プー居ますかぁ? あははー! なーんちゃっ…】
受話器を置いた。
イタズラ電話として受け止めよう。
そうしたらまた掛かってきた。
「おいクボ! 怒るぞ!」
【……クボ?】
聞こえてきたのは女の声だった。
しまった。
「…あ、間違えました。今のなしで」
【? はぁい。…あ、榎本晴樹くんって居ますか?】
「俺ですけど?」
【あ、そうなんだー。えっとぉ、率直に言いますね。あたしと付き合ってください】
…………はい?
俺は何度も目をパチパチさせた。
一体なんなんだ? どういうことだ?
俺向こうの素性一切知らないし。向こうがなんで俺の名前知ってんのかも分かんないし。
【おーい。大丈夫ぅ?】
「…わけ分かんないんですけど。なんで急に?」
【急じゃないよぉ。あたし晴ポンの事ずぅっと見てたもん】
晴ポンって…。
【あ、付き合ってって言っても、そんな大それたことじゃないの。ただ一緒に遊んでくれればいいの】
「あのー……すいませんけど俺好きな子いるんで」
【えぇ! ……あ、分かったぁ。小田って子でしょ? 大丈夫! とりあえず晴ポンの学校まで来て。じゃあねぇ】
そう言うと、一方的に電話を切られた。
やだね。絶対行くもんか。
電話の前でふくれてると、また掛かってきた。
【言い忘れてたぁ。晴ポン来てくれないと、彼女さんどうなっちゃうか分かんないよぉ? だから来てね】
……どうやら行かざるを得ないみたいだ。