第41話 彩ちゃん元気なあれ
更新かなり遅れてしまって本当にすいませんでした! これからまた少しずつですが書いていくので、どうぞよろしくお願いします。
あの非現実的な体験をした次の日、彩は学校へ来なかった。多分、中村一寿に会いたくないからだ。
あんな目に合わせた奴に会いたいなんて思う人は世界中探しても居ないと思う。
下手な事したらボディーガードの奴等に何かされるかも、と言う恐怖と、もう帰れないかも知れない、と言う恐怖。
うごめく恐怖の中、どうしたらいいか分からなかった。
中村一寿の家に行った事は無かったから家がどの位置に在るのか分からないし。
だけど中村一寿は、何事も無かったかのような顔で平然とやってきた。
それどころか、「なんで逃げたんだ」と俺を責めてきた。
結構慣れた手つきだったから、以前もやった事があるんだろうか。それでなんで捕まらないんだろうか。
いくら考えたところで俺に分かるはずがない。
ちょっとでも彩のショックを和らげるために、俺は彩の家にお見舞いに行った。
「……あ、晴樹くん」
扉を開けた彩は、俺の顔を見てフッとため息を漏らした。
「大丈夫か?」
「うん……。ごめんね、今日行けなくて」
「いやいや、いいよ」
「あ。上がって」
彩は体を横にずらして、俺が入れるくらいのスペースを開けた。
「お邪魔します」
リビングは、以前コタツが置いてあったところにテーブルが置いてあるだけで、後は全く変わっていなかった。
なんだか懐かしい。
「彩」
「うん?」
「昨日の事……お父さんやお母さんには話した?」
しばらく俺の顔を見ていた彩は、やがてゆっくりを首を横に振った。
やっぱりそうだよな。
「……俺も」
話せない。話せるはずが無いんだ。
親に心配掛けさせたくない。かと言ってまだまだガキで何も出来ない俺達は、ただ口を閉ざすしか無い。
彩の場合女の子だから、両親は余計に心配するだろう。
だからこそ、言えないんだ。
「中村、来てたよ」
「……」
彩は何も言わなかった。
そのまま時間だけが過ぎていく。
「はやく」
20分くらいした時、彩が突然口を開いた。
「はやく……卒業したいね……」
そうだ。
卒業すれば中村一寿に会うことも無くなるだろう。
「……そうだね」
俺は彩を元気付けるために来たのに。
逆に元気を無くさせたかも知れない。
だけど何を話せば彼女は元気になるのか、分からない。今の状態では何を言っても変わらない気がする。
ただ俺には、傍に居てやる事しか――。
その時、インターホンが鳴った。それに気付いて彩が玄関へ向かう。
聞きなれた声がした。
「お邪魔しまーす! あ、榎本くんも居たんだー?」
「……あぁ……。奈美さん……に、クボ」
「なんだ、なんだ。俺はオマケか?」
2人とも。凄い高いよ、テンション。
クボは遠慮無しにテーブルの横に腰を下ろすと、自分の家のような振る舞いで奈美さんと彩を座らせた。
「何しに来たんだよ」
クボの隣に居る俺は、小声で言った。
「なーに言ってんだ! 心配して来てやったんじゃねーか。彩乃ちゃん学校来ないし、お前はさっさと帰っちゃうし……。なんかあると思うだろ?」
恩着せがましいな、チクショウ。
でも……2人が来てくれて良かったかも知れない。だってあのままだったら、俺だけだったら、彩を元気付ける事が出来なかったと思う。
今はこの2人のハイテンションさに感謝だな。
「おい榎本! お茶!」
「あ?」
「喉渇いたんだよ。お茶!」
「なんで俺に言うんだよっ」
「元気なさそうな女の子に言えるわけ無いだろ!」
女には優しいんだな、お前は……。
まぁ、そんなもんか。
「あ、いいよ。私やるから」
彩は立ち上がると、キッチンへと向かった。
「ホラ見ろ。お前がすぐに行かないから……」
「あのなぁっ!」
――仕方ない。抑えろ、俺。
人生、こんな些細な事で怒ってたらもったいないぞ。
怒る暇があるなら手伝いに行こう。そうだ、手伝いに行こう。
「彩、俺持ってくよ」
コップの乗ったお盆を持ち上げ、テーブルまで持っていった。
「あ。ありがとう」
笑顔が見れた。それは単純に嬉しかった、けど。いつもの笑顔とは、やっぱりどこか違う。
無理して笑ってるわけじゃないけど、本気で笑ってるわけでもないような。
やっぱそりゃ、な。こんなすぐに笑えるわけがない。
それでも頑張って笑おうとしてる彩を見て、胸が痛んだ。なんで彩がこんなに無理して、なんで中村一寿は平々凡々と学校に来てるんだ。
――絶対おかしい。絶対間違ってる。
何も悪い事してない彩ばっかり損じゃん!
とにかく今は彩の元気を取り戻す!
そのためには俺が頑張るんだ。
彼女の一人幸せに出来ないで何が彼氏だってんだ!
この日から、俺の
「彩元気にさせるぞ作戦」が実行された。
計画なんてもんは一切なかったけど。