第39話 黒い影
遅れました。。
ホントに申し訳ありません。
……こんなんでホントに完結まで辿り着けるんだろうか……。
えーと、とにかく、遅れてすいませんでした!!
「なんだよ、放せって!」
影に来て、中村一寿はようやく服を放した。
「彩置いてきちゃったじゃん」
「彩乃は僕のだ」
俺が戻ろうとすると、中村一寿はそう言った。低い声で、俺を睨みながら。
「彩は誰の物でもないけど」
「僕は1年の時からずっと彩乃を見てた」
ストーカーかよ、ってツッコミたくなったけど、今はやめといた。
「お前よりもっと前から彩乃を見てたんだ!」
「だから何だよ」
「彩乃と別れろ」
急にまた何言い出すかと思ったら。
別れろ? やだね。誰がお前のために別れてなんてやるもんか。彩を物みたいに言う奴の頼みなんて絶対聞かないね。
物みたいに言わない奴の頼みでも聞かないけど。
「お前の考え方は根本的に間違ってんだよ」
俺が言うと、中村一寿は顔を真っ赤にして怒り出した。
「なんだと! ちょっと彼女が出来たからってすぐ調子に乗りやがって!」
「彩は物じゃない。俺の物でもお前の物でも、勿論他の誰の物でもないんだ」
「何を偉そうに……!」
「もうお前のバーベキューセットを使おうとは思わないよ。とにかく早く帰ってくれ」
コイツには何を言っても無駄だからな。こんなセリフ前にも言ったけど、もう一回同じセリフが言えちゃうくらいの強烈な「何を言っても無駄」な奴なんだ。
歩き出した俺の後ろで、中村一寿が何やらギャーギャー叫んでる。
叫べ叫べ。思う存分叫べ。俺は耳栓するから。
「あ、晴樹くん。大丈夫だった……?」
「何が?」
「あの、中村くんに……何かされてないかなって……」
「あぁ。大丈夫。全然大丈夫。逆にアイツの喉が心配なくらい」
「へ?」
案の定彩は不思議そうな顔をしたけど、まぁいっか。
とにかく今はクボを走らせないと。バーベキューセットを取りに行かせないと。
その後、クボは家まで全速力で走ってバーベキューセットを取ってきた。
そして4人で楽しくワイワイ食べた。
うん、これだよ、これ。
やっぱライバルと一緒に食べたって美味しくないし。
でも、バーベキューも終わって帰ろうとした時、木の陰から覗いてる中村一寿を見つけた。
しつこい。しつこ過ぎるぞお前。
俺は反射的に彩の前に立って、中村一寿を睨んだ。アイツはニヤリと笑うと、俺と彩の方にトコトコ近付いてきた。
もう奈美さんとクボは帰ってる。
辺りも暗くなって、公園には3人しか居なくなってた。
バーベキューやってた時にはうるさい程だった子供達の遊ぶ声も、今じゃ全く聞こえやしない。
「楽しそうだったね」
……って、ずっと見てたのか? コイツ。
相当な暇人だなぁ。
「お前さっきはカッコつけて逃げてったけどさ」
いや、カッコなんてつけてないけど。
俺が心の中でつっこんでるとも知らずに、中村一寿は続ける。
「彩乃は僕のだからな!!」
「……だからさ、」
「あぁっと! もうお前の戯言は聞かないぞ!」
ダメだこりゃ。
話になんないや。って言うか話聞こうとしないんだから話になるはずが無い。
「彩、行こ」
後ろでパチン、と音がした気がしたけど、これ以上付き合ってられないから無視して公園を出ようとした。
でも黒スーツの男達がそうさせてくれなかった。
出ようとした俺と彩の目の前に、黒スーツの男が5人程立ちはだかった。
「……!?」
「捕まえて」
中村一寿が言った。口元は微かに笑ってた。
その一言で、5人の男達は素早く動き出した。あっという間に俺達の後ろに回りこんで、俺と彩の腕を掴んだ。
そしてわけが分からないまま、デカくて黒い車に押し込まれた。
さっき公園の外見た時にはこんな車無かったのに。どう言う早業だ。
黒い布で足と腕を縛られてるから逃げようにも逃げられない。
なんでこんな連行みたいな事されなきゃならないんだ? 俺達は何も罪犯してないんだけどな。
ドラマでしか見た事がないベンツの外見に負けじと、中も凄かった。後ろの席と前の席は壁で区切られてるし、壁にはワインとかまで置いてある。
ちょっと待てよ。
中村一寿は高校生だろ。
でもどうやらコイツには『常識』と言うものが通用しないみたいだ。
俺達の乗ってる後部座席に中村一寿も乗り込んで、壁に掛かってる電話を取った。
受話器に向かって彼は「出して」と一言だけ言って、また壁に戻した。
その後すぐに車が動き出して、そこでようやく俺はあの電話が前の席、運転席に繋がってるんだと理解した。
車の中は驚くほど静かだった。BGMも何も掛かってないし、会話も無い。時々振動がくるだけで、あとは何も無い。
静かすぎて辛い。なんか高価そうなワインを眺めてると、隣に居る彩が話し掛けてきた。
「私達、どこに連れて行かれるんだろうね……?」
当たり前だけど、声は緊張してた。俺の声も自然と緊張してしまう。
「や。分かんない……」
話すくらい大丈夫と思っても、やっぱり小声になる。まるで俺達がいけない事をしてるみたいで、少し気分が悪かった。
窓際に座ってる彩の隣に俺が居て、その隣には中村一寿が居る。
俺の体は、彩の方の半分は全然リラックスしてるのに、中村一寿の方の半分は緊張して固まってる。
突然、俺の体半分を緊張させてる中村一寿が口を開いた。
「大丈夫、殺しゃしないよ」
その言葉に、俺の体は更に緊張した。
そして心の中でつっこんだ。
『当たり前だろッ!!!』