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第38話 バーベキューセット

 広場に戻ると、奈美さんとクボは膨れてた。同じように頬を膨らませて、同じように腕を組んでた。

「……どした……?」

 声を掛けると、クボは自分の横を指差した。

「なんだよ。横がなに?」

「ちゃんと見ろよ! バーベキューのセットが無いだろぉ!?」

 あれ、ホントだ。確かに無い。バーベキューのセットだけがゴッソリ無くなってる。

「なんで? なんで無いの?」

 彩は奈美さんを揺すった。

「ジュース買ってこようと思ったのよ! だからあっちの自販機に行って……帰ってきたら無くなってたの!」

 あちゃあ。大分苛立ってますね。でもバーベキューのセットだけ持ってく人間って――?

「誰よ! 誰が持ってくのよ!! 大体、セットだけ持ってったってなんのメリットもありゃしないじゃないの! 食べ物が無きゃ意味ないでしょ!?」

 ――なんか、話の重点がズレてる気がするぞ。

 でもそんな間抜けなドロボウなんて居るはずないし……って言うか、誰か足りないぞ?

 あの俺が生理的にどうしても受け入れられない最低最悪のアイツ!

 里砂との一件が俺と里砂のシナリオだとか、嘘八百並べやがったアイツ!!

 中む…

「中村くん!?」

 彩が言った。

「……なーるほど。うんうん。俺もアイツじゃないかな〜っと推理してたんだよねぇ」

 クボが言った。

「今気付いたって顔してんのはどこの誰よ」

 奈美さんが言った。

「アイツしか居ない!!」

 俺が言った。後ろでは炎がメラメラ燃えてる――ように見せ掛けてる。合成で。

 俺は3人の前に立って、こう言った。

「よし、こうなったら中村一寿を捜し出そう! 名づけて、『中村一寿捜し出そう!〜スパイ大作戦〜』だ!」

「アイツめ! 勝手に持ち出すなんてけしからん奴だ」

「元々アンタが持ってきてればよかった話でしょ! なんで毎回毎回大事なものばっっっっかり忘れるのよ! こちとら食べ物だけ持ってたって意味無い…」

「ねぇ、そんな事言ってる場合じゃないよ!」

 …………ダメだ。誰も俺の作戦名なんて聞いちゃいない。結構カッコイイ名前だと思ったんだけどなぁ。みんなの心にはそれほど響かない名前だったんだなぁ。

 スパイ……なんだけどなぁ。スパイになる機会なんてそうそう無いと思うんだけどなぁ。

「これじゃあ肉が焼けないじゃんかよぉ!」

「だーかーらアンタが持ってきてればこんな事には…」

「ねぇってば! 早く捜そうよ!」

 埒が明かない、ってのはこの事かな……?

 でもだったら尚更、こんな所で言い合いしてる場合じゃないよな。

「彩、行こう! 奈美さんとクボは公園内捜して!」

 俺は彩の手を引っ張ると、芝生の方へ向かった。バーベキューのセット持ちながらなんだからそんなにすぐに遠くへ行けるハズは無い。

 それにこの公園は珍しく出入り口が一個しかない。この芝生を越えた向こうにある出入り口だけだ。

 不便だ、って愚痴ってた小中学生共が垣根の部分を引きちぎって出入り口を増やしたから他にもあるっちゃああるけど、でも大きなバーベキューセットを持ちながら出れる所は本来の出入り口しか無いハズだ!

 そして公園内は奈美さんとクボの2人に任せた。抜かりは無いぜ!

「……あ、晴樹くん、あれ!」

 公園を出たすぐの所で、彩が前方を指差した。大きな荷物持ってえっちらほっちら歩いてる人が居る。

 距離はそこまで離れてない。

「よっし!」

 俺はターゲット目指して走り出した。ターゲットは『大きな荷物持ってえっちらほっちら歩いてる人』!

 距離はどんどん縮まっていく。

「待てッ!!」

 肩を掴むと、その人はこっちを驚いた顔で見た。

「……ひょわわ〜」

 その人は、すっとんきょうな顔で言った。その後に腰を抜かした。人違いでした。すみません。そう謝ってから、後ろを向いて指でバツマークを作って彩に見せる。

「どこだ……どこ行きやがった中村一寿ぃ!」

「もうちょっと捜してみよう? あ、あっちに行ったかも知れないよ」

「そうだなぁ。……中村一寿の家がどこに在るのか分かってればいいのにな」

「…………あ、私知ってる!」

「……なんでッ!?」

 彩曰く、高校1年生の時に同じクラスになった事があるらしく、その時から中村一寿は彩に恋してたみたいだ。

 それで夏休み、アイツは彩を自分の家に招いた。豪邸だったみたいで、中に入るやいなや、中村一寿はすぐに家の自慢話を始めた。

 屋内プールがある、庭には2羽鶏が居る、庭には噴水もある、ベンツを持った執事が居る……。まるでリアルな「はなわ君」だったみたいだ。

 彩を通して聞いただけでも、自慢話も甚だしい。

 彩はそこで不快な思いをしたからか、ただ単に行った事あるから覚えてるだけなのか知らないけど、とにかく道を覚えてた。

 それを辿って行けば、中村一寿と出くわすハズ!

 あんなに大きなバーベキューセットを持ってんだ。速く移動できるワケが無い。

「あ、居た!」

 突然彩が声を上げた。前には大きな文字で『家族で楽しむ!バーベキューセット』と書かれたデッカイ箱を持った者が歩いてた。

「今度こそ間違いなさそうだな」

「きっとそうだよ!」

「ぃよっしゃぁ! 待てコラ中村一寿ぃぃぃ!!!」

 俺は調子に乗ってしまった。

 完璧に乗ってしまった。だからこんな真昼間っから大声を出せたんだ。今思えば赤面物だ。

「捕まえたぞ!」

 でもとにかく捕まえれたんだからよしとしよう。終わりよければ全てよし、だ。

 腕を掴むと、ソイツは振り向いた。かなり焦った顔で。

「え、榎本晴樹……!」

「勝手に付いてきて勝手に持って帰るのか!?」

「これは僕のだ。僕が帰りたい時に持って帰って何が悪いんだ!」

 ……あれ。確かにそうだな。

 って言うか、なんでこんなに一生懸命になってコイツを捜してたんだ? 別に帰ってくれるならそのまま帰ってもらった方がいいじゃないか。

 あ、そうか。バーベキューセットが無いと奈美さんが怒っちゃうから。

 でもだったら元々持ってくるハズだったクボが家までひとっ走りして持ってこればいい話だよな。

 そうだよな。無駄に体力使うよりもそうしよう。そうすれば体力が減るのはクボだけって事になるから、自業自得。

 うん、そうだ。そうしよう。

「彩、戻ろう」

「…………は?」

「中村一寿の言う通りだもんな。そりゃそーだ。クボに持ってこさせよう。ゴメンな中村一寿。帰っていいよ。じゃーな」

「ちょっ……ねぇ晴樹くん?」

 そうさ。クボが持ってこなかったからおかしくなったんだ。中村一寿が帰ってくれるんならそれに越した事は無いし。4人でワイワイいつも通り楽しくやれるんだからわざわざ引き止める必要なんて無いんだよな。

「ちょっと待てぇい!」

「んあ?」

「僕を置いて彩乃とラブラブしようってのか!」

「……だってお前帰るんだろ?」

 なんだコイツ。急にムキになってるぞ?

「いいや帰らないぞ!」

「はぁ?」

「我が宿敵榎本晴樹!! 自分ばっかりカッコよくなろうとしやがって! 僕は諦めないぞ!」

 なーに言ってんだ?

 宿敵ねぇ。って言ってもつい去年顔合わせたばっかだけど。

「榎本晴樹! ちょっと来い!」

「やだ」

 ……お。見える。見えるぞ。中村一寿のデコにムカつきマークが。

「…………いいから来いよっ!」

 中村一寿はズカズカ歩いてくると、俺の服を引っ掴んで生垣の影へと連れてった。

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