第37話 必要な人
遅れてごめんなさい!
やっとアップ出来ました!
なんかこれからもこんな不定期な投稿が続きそうですが…………とにかくすみませんでした!
バーベキューをやってる広場へ戻る途中、彩を見かけた。
誰かと話してる。ここからじゃ丁度木に隠れてて見えないや。クボかな? 奈美さんかな?
いけないと分かってても盗み聞きしてしまう俺ってやな奴……。
「アイツのどこがいいの」
――この声は、クボでも奈美さんでも無いな。第一奈美さんがこんな男の声だったらそれはそれで問題っちゅーか気色悪いっちゅーか。
って事は、あと該当するのはアイツしか居ないじゃないか。
「なぁ、榎本晴樹のどこがいいの、ってば」
やっぱり。俺の事をいちいちフルネームで呼ぶ奴はアイツしか居ない。
「アイツ浮気したんだろ? あんたの事放ってさ」
「……放ってない!」
「だけど彩乃が見てるところでキスした。見せ付けたかったんじゃないのかなぁ?」
中村一寿の奴、いつの間に「彩乃」なんて呼ぶようになったんだ!?
しかもちょっと待てよ。なんでアイツが俺と里砂の事を知ってるんだ?
浮気騒動でもそうだ。俺はアイツには話してない。話すはずが無い。なのに知ってた。彩が見てた時、近くには誰も居なかったし、誰も通らなかった。
学校のフェンスからは死角になってるはずだから見えるわけが無い!
なんでだ? どうしてだ? 今まで気にも留めてなかったけど、アイツ一体何者だ?
ただ単に彩を狙ってるだけとは違う気がする。
「晴樹くんはちゃんと里砂さんに言ってくれた!」
「言った? 何を?」
「……もう来るな、って……」
「へーえ。それがあの女と榎本晴樹とのシナリオだったとかってのは考えなかったんだ?」
「…………え?」
あの野郎何言ってんだ!!
「中村一寿ッ!!」
もう我慢の限界だ。勝手な事ばっかり言いやがって! 堪忍袋の緒が切れたぞ!
突然の出現に中村一寿は少しビビッてた。だけどすぐに冷静な顔を装って、腕組みした。
「……盗み聞きとは関心しないなぁ」
「お前こそ変な入れ知恵すんなよ!」
「あぁほら、図星だからこんなにムキになって怒っちゃってるんだよ」
中村一寿は笑いながら彩に言った。彩は困った顔をしてる。
ホントにコイツ、彩が好きなのか? 好きなら困らせるような事言わないだろ。
「榎本晴樹ってさ、ホントは彩乃の事好きじゃないのかもよ?」
そっと耳打ち。完璧なキザ男のやる事に、俺の血管はブッチンと音を立てた。
中村一寿の胸倉を掴んで、拳を作った。
「晴樹くん!!」
殴ってやりたい。コイツの顔を、ボコボコになるまで殴ってやりたい。
「俺が彩を好きじゃない? だったら1年間も一緒に居ねぇよ!」
芝生の上に倒した。少し拳を前に出せば殴る事が出来る。それでも中村一寿はニヤニヤ笑うばっかりだ。
「僕には分からないなぁ、好きなのに浮気する理由」
浮気――。
確かに俺は彩と付き合ってるにも関わらず里砂とキスした。でもその後に色々と2人で話し合って、決めて、きちんと仲直りしたんだ。
「お前に口出しされる事じゃない!」
里砂とだってもう会わない。会わないって決めた。また強引に迫ってこようが、今度は殴り飛ばしてでも里砂を近づけないようにする!
何があっても彩を優先する!
俺はちゃんとそうやって決めたんだ。それを今更コイツに言われる筋合いは無い。
「彩の事困惑させて何が楽しいんだ」
「困惑? 僕はそんな事させた覚えないけど?」
「変な事言って困らせただろ!? 惑わせただろ!?」
「僕は自分の考えに事実を織り込ませて言っただけさ。浮気するなんて、榎本晴樹は彩乃の事を好きじゃないんじゃないのかな、と思ったから言ったまでだよ」
この野郎。余裕も調子もブッこきやがって。
「晴樹くんやめて? ね?」
彩が駆け寄ってきた。俺の腕を掴んで、必死に下ろそうとする。
「彩乃は騙されてるんじゃないの? コイツ、こんな顔して本当は凄い女ったらしだったりして」
中村一寿がそう言うと、彩の手の力が緩んだ。彩の顔を見ると、彼女は中村一寿を睨んでた。迫力なんて無いけど、でも一生懸命に睨んでた。
「……晴樹くんはそんなんじゃないよ」
「だって実際見ただろ? 元カノとキスしたの」
「中村くんは……晴樹くんの事何も知らないじゃない! 何も知らないのに勝手な事言わないで!!」
彩が怒った。
そしてかすかに、目が潤んでた。
驚いたけど少し嬉しい。男の俺がこんなんでどーすんだって思うけど、でもやっぱ嬉しい。
中村一寿はキョトンとした顔で彩を見てるだけ。
そんな中村一寿を置いて、彩は「行こ」とだけ言って俺の腕を引っ張ってった。
しばらく歩いてから彩が急に止まった。
「彩……?」
「……足……」
「え?」
彩は、ストンと下に座った。
「ちょっ……彩大丈夫か?」
「足……足がね……ガクガクしちゃって……」
言う通り、足がガクガクブルブル震えてた。ついでに声も震えてた。多分、ああやって言うのにも凄い勇気が要ったんだ。
「…………彩、ありがと、な? ……う、うれ、うれし……う…」
「同じになっちゃう」
「うれ…………え? 「同じ」?」
「殴っちゃったら……犬塚、さん? の時と同じになっちゃうから……そうなっちゃったら、晴樹くんも嫌でしょう?」
だから、懸命に止めようとしてくれたのか? だから、こんなに足が震えるまで言ってくれたのか?
「彩…」
「大丈夫!」
彩はニッコリと笑った。
「私、晴樹くんの事疑ってないよ。中村くんの言った事、信じてないよ」
……彩は、どうしてこうも嬉しい事を言ってくれるんだ。俺の心理が分かっちゃってるのか? いやもう心理なんてどうでもいい。今分かるのは、「俺には彩が必要だ」って事だけ。
ただそれだけ。
「……戻ろっか」
「おうっ!」
立ち上がると、彩が俺の手を握った。前にもこんな事があったぞ。
えーっと、そうだ、あれは学校からの帰り道。初めて手ぇ握った日。
初めてでも2回目でも、やっぱり嬉しさは変わらない。3回でも4回でも、5回でも6回でも何回でも来いってんだ!
その回数だけ、俺は幸せになれるんだからさ。