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第31話 浮気

 今日は久々に学校が楽しかった。担任の声は右耳から入って左耳から抜けていく。

 何故なら俺の全神経はある人に向けられまくってるからだ。ある人、ってのは言わなくても分かると思うけどさ。

「彩、帰ろ」

「うん」

 2人仲良く下駄箱へGO! そして校門へGO!!

 でも校門を出た時、楽しさは一気に吹き飛んだ。

 アイツが居たからだ。

「あ、晴ぅー」

 思いっきり猫なで声で「待ってました」と言わんばかりにイソイソ近づいてくるのは、里砂だった。

 校門前で待ち伏せとはまたセコイ事を……。

「もーぅ。マックやめたんだね。居ないからビックリしちゃったぁ」

「しつこ過ぎ」

「あ、今日はね、康ちゃん居ないの。晴とゆっくり話したいなぁと思って」

「里砂」

「ん?」

「性懲りも無く……また浮気?」

 そう言うと、里砂は押し黙った。下を向いて口尖らせて。

 付き合った当初はこんな奴だとは思わなかった。きっとまた犬塚が出掛けてる間に俺んトコ来たんだ……。

 有り得ねぇなマジで。こんな最低女と付き合ってたなんて……。

「行こ」

 俺は彩を連れて横を通り過ぎた。

「晴待って!!」

 でも里砂が呼び止めた。それでも歩こうとすると、後ろから走ってきて俺の袖を掴んだ。

「放せよ!」

「お願い!! もう一度だけチャンスをください!!」

 里砂は顔を伏せた。通り過ぎてく生徒達がジロジロ見てくる。

 元々チャンスなんて与えようとしてなかったし、これ以上一緒に話してても何もいい事ないだろうから、俺は里砂の手を振り解いて歩き出した。

 そこからはもう追ってくることは無かった。

 ただひたすら歩く。

 しばらく歩いたところで、隣に彩が居ない事に気が付いた。

 そしたら後ろに一生懸命付いてくる彩が居た。

「あ、ゴメン」

 知らない間に早歩きになっちゃってたんだ……。

「ううん。でも……もうちょっとスピード落としてくれると……」

「うん。ゴメン」

 もう空はオレンジに染まってた。1羽のカラスがクワーッと鳴く。

 夕日が眩しくてつい目を細めた。

「……ゴメン」

「うん。もういいよ?」

「ホントにゴメン。……嫌だった、だろ?」

「何が?」

「里砂の事……」

 彩はフッと笑った。

「大丈夫だよ。晴樹くんが……里砂さんの方に行ったりしちゃったら嫌だけど……」

 つまりそれは……浮気してないから平気、って事か。

 当たり前だよ。俺は浮気なんて絶っっ対にしないぞ。



 ――と誓った次の日、アイツはまた来た。

 3年になって彩は選挙管理委員に選ばれてしまった。うちのクラスは立候補者が居ないとくじ引きで決めると言うアバウトなクラスだった。

 遅くなるから先に帰ってていいよ、との事だった。いいのかなぁと思いながらも校門を出てしまった俺。

 出た先に居てしまった里砂。

「やっほ」

 里砂は軽く手を挙げた。

 無視して歩こうとしたけど―――腕を掴まれた。

「いつの間にかこんなにシッカリしちゃって」

「うるっせぇな、放せよ!」

 昨日みたいに振り解こうとしたけど、そんな俺の行動に里砂も免疫になったみたいだ。

 是が非でも放そうとしない。

 でも女だから蹴り倒すわけにもいかない。どうしよう……。

 道行く生徒達はやっぱり昨日みたく遠慮無く見てくる。

「いい加減にしろよ」

「だって晴が付き合うって言ってくれないもん」

「一度浮気した女と誰が付き合うか」

「あの子がそんなに大事?」

 平然とそんな事を聞いてくる里砂に、急に物凄い怒りを覚えた。

「当たり前だろっ!!!」

 あぁもう……。俺怒鳴る事が多くなってる気がする。里砂が現れてから確実に。

 その声に、更に多くの生徒達が振り向いた。

 もー! なんで赤の他人共にこんな醜態曝(さら)さなきゃなんないんだよ!

 注目の的になるのを耐えかねて、俺は里砂を連れて木の影に隠れた。

「俺は里砂とヨリ戻すつもりは無い。分かったらさっさと帰ってくれ」

「やだ」

「いいから帰れよ!! 犬塚とラブラブしときゃいいだろ!」

「だから康ちゃんは本命じゃないの。あたしの本命は、晴なの」

 じゃあなんで犬塚と浮気したんだ。本命なら俺とずっと一緒に居れば良かっただろ。離れるような事したの自分じゃんか。

 その調子で犬塚とも浮気したのか……? それが決めゼリフか……?

「ふざけん…」

 突然、里砂は横をチラリと見た。なんだろと思って見ようとしたら、急に里砂の手が首に回ってきた。グイッと引っ張られて―――最悪の事態だ。

 口さんと口さんがこっつんこ♪なんて歌ってる場合じゃない。でもホントにご対面してしまった。

「……なに、すんだよっ!!!」

 慌てて引き剥がしたけどもう事後。大変だ……!

「あたしの中ではぁ、キスしたら浮気!」

「……は……?」

「あら? やぁっだ見られちゃったぁ!?」

 横を向いて言った。見ると、彩が立っていた。

 さっき里砂を連れてこっちに来た時は一生懸命で気が付かなかったけど、無意識のうちにいつも帰る道―――彩の家への帰り道に連れてきてしまったみたいだ……。

「…………彩……」

「あの……予定より早く終わって…………」

 彼女の声はいつも以上に弱々しくて……足も少し震えてる。

 俺の前に居る里砂が笑ったように見えた。

 さっき横をチラリと見たのは、彩を見たんだ。彩が居るって事知ってて里砂は……。

「里砂!」

 怒りを込めて怒鳴った。でも里砂は怯む様子も無く、俺を見てニッコリ笑った。

「晴も浮気しちゃったね」

「お前何言ってん…」

 里砂は自分の体を俺に押し付けてきた。後ろが壁になってるから逃げられない。

 それでも手でガードを作ってそれ以上の接近を拒む。

 俺は手に力を入れて付き放した。でも何を言ったらいいか分からない。彩に見られたショックと里砂とキスしてしまったショックで頭の中が真っ白だった。

 何も言えないままで居ると、前を彩が走って通ってった。

「彩……!?」

 ヤバイ。追い掛けないと。

 だけど追い掛けようとすると里砂が腕を掴んでくる。

「ねぇ、今更無駄じゃない?」

「ふざけんな! …放せよッ!!!」

 思い切り力を込めて振り払った。女の里砂の力では男の俺に敵うはずもなく、抵抗出来ないまま、手は腕から剥がれた。

 ドサッと音がしたけど、里砂の方を振り向こうとは思わなかった。俺が見なくちゃいけないのは後ろの里砂では無くて、前を走る小さな背中だったから。

「彩! 彩待って!」

 しばらく走ってから腕を捕まえた。走っているところを捕まえたから、彩は前のめりになって倒れてしまった。腕を掴んでた俺も一緒になって倒れる。

「ごめ……あの……彩、ゴメン!」

 すぐに立ち上がって頭を下げた。

 彩の白い膝が見える。そこから少し血が滲み出てた。

「彩、血…」

 手を伸ばすと、彩は俺の手を払った。

 向こうも反射的に払ってしまったみたいで、驚いた顔をしてた。

 でも驚きの顔は一気に泣きじゃくる顔になって、雨が降りそうな暗い静かな空に泣き声は響いた。

「ゴメン……」

 『雨が降りそうな』では無くて『雨が降ってきた空』になった。

 ポツポツと音がして、黒いコンクリートがもっと黒く染まってく。

 また何を言ったらいいのか分からなくなった。俺は里砂に浮気されてムカついてたのに、彩から見たら俺は里砂と同じ事をしてしまってるんだ。

 彩の泣き声は雨の音に掻き消されていった。

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