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第30話 クラス分け

 次の日、予想通り来た。金大丈夫なのかよ、って思うけど、それでも里砂は来た。

 今日もまた犬塚と。いつもと違ったのは、今日は持ち帰りって事。

 その日俺は厨房で、レジはフジさん。それから彩もレジ。里砂は彩をキッと睨んだ気がした。

「フジさん」

「あ?」

「俺渡してきます」

「……あ、これ? 大丈夫か?」

「はい」

 袋に入ったチーズバーガーセットを持って、俺は里砂と犬塚に近づいた。

 犬塚はもう気付いてたみたいで、俺を見ても無表情だった。あのマンションで見た時の顔と同じ、無愛想な顔。

「お待たせしました」

「どーも」

 里砂は、俺の手から奪い取るようにして袋を受け取った。里砂が逃げるようにして出る。犬塚も戸惑いながらも後をついて行こうとしてた。でもそれより先に、俺が里砂を追い掛けてた。

 俺は店を出て里砂の肩を掴んだ。

「……ちょっと……何?」

 はたと気が付いた。「来るな」って言ったって里砂は客だ。客に向かって「来るな」なんて言う店員がどこに居るんだ?

「……毎日毎日……何しに来てんだ……」

 考えた末、そう言った。でも里砂は「はぁ?」って顔をするだけ。

「何って……ハンバーガー買いに」

 そりゃそうだ。愚問だった。ここはファーストフード店だ。ハンバーガー買いに来るのは何も変な話じゃない。

「でも……それが本当の目的じゃないだろ。俺には犬塚との仲を見せ付けてるようにしか思えない」

「えぇ? どうして? あ、もしかして晴ったら焼きもちぃ?」

「ふざけんな。そう言う人からかうような言い方やめろ。それから……彩睨むのもやめろ。何も関係ないだろ」

「彩? あぁー。彩って言うんだ? へぇー。……ねぇ、もう彼女とは寝た?」

「ふざけんなっつってんだろ!」

 俺の声は結構遠くまで響いた。でもこんなド田舎だから、通行人は居ない。野良猫がビックリするくらいだった。

 野良猫には悪い事してしまった。寿命が縮まってなけりゃいいけど。

 でも里砂も相当驚いてた。俺が里砂に対してこんな大音量で物言うなんて無かったから。

「……頼むからもう来ないでくれ」

「………………晴のバカ」

 ―――はい?

 何故、俺がバカ呼ばわり? さてはコイツ、「里砂」じゃなくて「姉貴2号」だな?

「晴のバぁーカッ! 何度だって来てやるからねっ!」

 里砂はベーッと舌を出した。

 なんなんだよ全く。俺は呆れながら店内に戻る。

 彩が犬塚に捕まってた。

「ちょっ……何してん…」

「お、やっと戻ってきたじゃん。じゃあね」

「おい犬塚っ!!」

「晴樹くん……!」

 彩があった事を話した。犬塚とはちょっとした事しか喋ってなくて、勿論何もされてない。でもあの犬塚だぞ。信じられない。

 もしかしたらそうやって言えって言われてるのかも……。

「大丈夫だよ晴樹くん。あの……ごめんね?」

「……なんで彩が謝んの」

「……疑われちゃうような事、しちゃって……でもホントに何も無かったから……」

「彩お願いだ。犬塚にはもう二度と近づかないでくれ」

 俺がそう言うと、彩はゆっくり、深く頷いた。



 バイトが終わって帰り道、俺の頭の中では里砂のあの言葉がグルグル回ってた。

 『もう彼女とは寝たの?』

 寝てねぇよ。悪いかよ。…………第一俺は体目当てじゃないぞチクショウ!! 俺は犬塚とは違うんだっ!!

「春休みももうあと5日しかないね」

 彩が隣で手帳を見ながら言った。そうかぁ。あと5日かぁ。早いもんだねぇ。

 5日経ったらマックにバイトに行く事もなくなる。フジさんに会うこともなくなる。

 里砂に会うことも、なくなる。今まで通り彩と平和にやっていける。


 そう思っていた、日曜の夜―――。






 そして春休みが終わった。

 マックでのバイトも終わった。

 お給料もらって、少しは財布が膨らんだかなぁ、と思う……。実際そんなに変わってないけど。

 でもお給料の他に、フジさんからも「餞別だ」ってもらった。フジさん……家の姉貴や兄貴より全然いい人!!

 俺もあんな24歳になりたいな。

 願えば叶う! 24歳になるまで願い続けよう。



 でも俺は家に帰ってから、願う暇なく―――寝た。



 さて。今日から新学年。3年生になった。3年になった日の朝、学校に行ったら急に彩が駆け寄ってきた。

 そんで俺の目の前まで来て「晴樹くんっ!!!」と凄い顔で叫んだ。

「……どした……?」

「あのね、あの……クラス!!」

「うん。新しいクラスだよね」

「それがね! 同じなの!!!」

 『同じ』。その言葉からは6パターン想像できる。

 パターン1。奈美さんとクボが同じクラス。

 パターン2。奈美さんと彩が同じクラス。

 パターン3。彩とクボが同じクラス。

 パターン4。奈美さんと俺が同じクラス。

 パターン5。俺とクボが同じクラス。

 パターン6。俺と彩が同じクラス。

 でもパターン1の場合俺に言ってくるかなぁ? こんなに焦って。

 パターン2の場合彩は嬉しいかも知れない。その嬉しさを俺に知ってほしくて……いや、だったら奈美さんと一緒に来るはず。

 パターン3の場合はクボに言っても不思議じゃないだろ? 俺に言う事ないじゃん。

 パターン4の場合、彩じゃなくて奈美さんが来ないとおかしい。でないと彩は奈美さんのパシリに使われてるだけってなっちゃうじゃないか!

 パターン5の場合は、クボが来るだろうな。「榎本く〜ん! 運命だね!」とかバカな事叫んで。

 っつーことは……??

「晴樹くんと私が同じクラスになったの!!!」

 俺の心の声を読み取ったのかと思うくらい丁度いいタイミングで、彩はまた叫んだ。

「…………まじ?」

「まじ!!」

「まじで!!?」

「うん、まじで!!!」

 2人でニッコーーーーッと笑った。登校してくる他の生徒達が引くくらい笑った。声を出さずに顔だけで笑ってんだから引かれるのも分かる。

 その後2人で走ってクラス分けの紙を見にいった。いや、走ったって言うより、踊ったって感じ。

 紙の前に行くと、奈美さんとクボが他の生徒達に紛れて居た。奈美さんの隣でクボは膝を落としてる。相当落ち込んでるみたいだ。

「奈美さん、クボ、おはよ」

「あ、おはよう。彩乃から聞いた?」

「うん。聞いた! ……で、コイツどーしたの?」

 俺がクボを指差すと、奈美さんはヘラッと笑った。

「1人違うクラスになったから落ち込んでんのよ」

 確かにクボは3組、俺と彩は2組。あ、奈美さんも2組だ。

 って事は3人だけ同じクラスってわけ。あぁー、そりゃちと悲しいな。

「あ、でもさクボ。お前杉浦と同じクラスじゃん」

「…………榎本はいいよな……彼女と同じクラスだもんな…………俺なんて…………俺なんてぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 クボは叫んだ。中庭に居る野口英世の銅像が逃げ出すくらい大きな声で叫んだ。だけど野口英世は逃げることはなかった。ただひたすら黄熱病の薬と一緒に空を見てるだけだった。

「やあ。榎本晴樹」

 俺と彩がクボを落ち着かせようと頑張ってる後ろから、嫌な声が聞こえてきた。

 このわざわざフルネームで呼んでくる奴。それは1人しか居ない。

 中村一寿……!

 ……俺もフルネームで呼んじゃってるけどさ。

「今年も同じクラスだね。よろしく」

 後ろで仁王立ちしてる中村一寿はニヤリと笑った。

 狙われてる……迷える子羊の彩が、お母さんヤギに化ける狼の中村一寿に狙われてる!

 早く俺が猟師になって助けてやらなくちゃ!!

 ―――物語がごっちゃになってる? 気にしない気にしない。

「彩、行こ」

「え……」

 彩の腕を引っ張って中村一寿の横を通り過ぎる。舌打ちが聞こえた。

 ちくしょー。とことんムカツク奴だ!

 でも今日から彩と同じクラスで授業を受ける。そう考えただけでジャンプしたくなった。

 だけどなんか、嫌な予感も混じってるように思えるのは何故だ……?

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