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第28話 退部届

「面接!?」

 俺は姉貴にバイトの事を聞いてみた。面倒くさそうだったけど、教えてくれた。

 その中に「面接」と言う単語があって、正直驚いた。バイトするにも面接なんて必要だとは思ってなかったし。

 だって履歴書に写真貼ったし、それに……。

「何、あんた面接知らなかったの? …………もー。話になんない」

 プンスカ怒りながらも、姉貴は説明してくれた。

「あんた高校入る時も面接ってやったでしょ?」

「うん、やった」

「まぁそんな感じでやっときゃいいのよ。向こうから勝手に質問してくるから、それに答える。ただそれだけ。あ、でもね、何故ココを選びましたか、とか聞かれるからさ、そうなったらそこのいいトコばっか挙げときゃいーの。分かった?」

「はい! 分かりました!!」

「で、面接はいつ?」

「いや、まだ履歴書送ってないんだ」

 頭グリグリ攻撃がきた。

 脳味噌がえぐられる痛さだ。

「いでででででっ!!!」

「履歴書送らないうちから何言ってんの!! 少しは頭働かせなさい! すぐ送ってくる! ホラ早く!!!」

「はいっ!!」

 俺はまた頭グリグリ攻撃が来ないうちに部屋を出た。

 ……あれ? でも……。

「姉貴、履歴書ってどうやって送んの?」

 消しゴムが飛んできた。俺のデコに当たって廊下に転がる。

「いってぇ!!」

「よく見なさいよ! 封筒入ってるでしょ!!?」

 それから何度か姉貴に怒られながらも、なんとか投函出来た。そう言えば、今考えればパソコンで書き方とか投函の仕方とか調べれば良かったなぁ。

 まぁ、過ぎちゃったんだからしょうがない。次からは自力で調べる事を心掛けると言う事で。

 履歴書を投函したのが夜で、そこから風呂に入ったりなんやかんややってたら、寝たのが1時になってしまった。

 その日、夢の中でも姉貴に100回は怒られた。

 夢を見るのが怖くなって夜中の2時には目が覚めた。




「おはよう!」

「お、あ、うん……おはよう……」

「……凄い(くま)だね」

「まぁ、ね。…………ははっ……」

 朝、彩は俺の顔見て驚いた。そりゃそうだ。

 夜中1時に寝て、夢でうなされて、夜中2時に目が覚めて、そっから寝転がる事も許されなかったんだ。夢の続きを見ちゃいそうで怖くてさ。

 だから目はショボショボ。隈は黒々。頬はコケコケ。

 教室に入ると、クボも驚いた。

「榎本! スゲェ隈だぞお前!」

「うるせぇな、分かってるよ……」

「おーい榎本!」

 朝から疲れきって、今すぐにでも机に顔くっ付けて寝たい俺の後ろから、命知らずが声を掛けてきた。

 命知らず。それは杉浦と言う名前の、この間彼女と別れた男だ。

 でも隣には女。

「ん? なんだその顔? 隈は凄いし目は俺の彼女に向いちゃってるし」

「…………別れたんじゃなかったのか」

「俺なら新しい彼女作るのに1日も掛からないんだよ」

 自信満々だった。

 実際1週間は経ってたけど、一応杉浦のプライドの為に口にはしなかった。

「で、その隈はなんだ? そんな事してると女の子が寄ってこないぞ?」

「大丈夫だ。俺はお前みたいな女ったらしじゃないから」

 そう言って席に着くと、杉浦の叫び声と女の怒り声が聞こえてきた。今の俺になら丁度いい、子守唄に聞こえてきちゃうような絶妙なコラボだった。

「眠いなぁ…………」

 俺は欠伸(あくび)混じりに言った。そしたらクボが寄ってきて、「お前今日強いな」って言った。

 何がどう強いのかよく分かんないけど、とりあえず「さんきゅー」って言っといた。



 眠い眠い俺に追い討ちを掛けるように、2時限目は体育だった。もうこれは俺への拷問としか思えない。

 でもなんとか眠気を追っ払った。

「バイト!?」

 今は女子がバレーボールをやってる。今日は雨だから体育館。

 その間、何もしないでただ座ってるだけじゃあ眠くて眠くて寝ちゃいそうだったから、クボにバイトの話をした。

「うん、バイト」

「いーなー! 俺も奈美ちゃんとバイトでラブラブしたーい!」

「すりゃいいじゃんかよ」

「あの奈美がしてくれると思うか?」

 思わない。

 早押しクイズ世界大会優勝者に勝てるくらいの早さで答えられる。

 絶対に思えない。

 俺は素直に首を横に振った。そしたらクボにチョップされた。

「なんだよ! 何すんだよ!!」

「そう思っても俺の前で言うな!!」

 先に言ったのは自分のくせに。

 クボはこう言う所が子供っぽい、って言うか……。でもそれだけ奈美さんの事が大好きで、大事にしたいと思ってるのかな。

「おーい男子! お前らこっちでバスケだ!」

 体育館の端の方で山本が呼んでる。山本は体育の教師で、スパルタ。しかもスパルタなのは男子にだけ。女子には優しく優しく接する。

 そこがまたムカツクし、どうも「先生」って思えないから生徒の間では呼び捨て。

 あ、そう言えば退部届出さないと。




 体育が終わって着替えた俺は、すぐに職員室に向かった。

 バスケ部の顧問に退部届を提出する。顧問は俺の顔をチラチラ見ながら「惜しいなぁ」って言った。

「惜しい?」

「あぁ。お前バスケ上手いしな、多分来年3年が卒業したら部長はお前になると思うぞ?」

「いや別に部長になりたいとかそう言うんじゃ無いし……」

「なぁ榎本、もうちょっとだけ続けてみないか?」

「すいません。俺バイトしたいんで」

 顧問はすぐに折れた。寂しそうに「そうか」って言って、退部届をジャージのポケットに入れた。

 職員室を出ると、クボが居た。

「あれ? クボ」

「おう」

「……なぁ、俺さ、バスケ部やめるから」

 クボにそう言うと、驚いた顔になった。

「なんで!?」

「少しでも多くの時間をバイトに費やしたいから」

 クボも顧問と同じように、寂しそうな顔をした。でも顧問と違ってたのは、俺を殴った事。勿論本気ではないだろうけど、それなりに痛い。

「バカヤロー! 入部当時約束したくせにっ!!」

「は? 約束?」

「2人で頑張ろうなって言ったじゃねぇか! 榎本ブーめ!!」

 言うだけ言って、クボは1人で走っていった。

 よく分からんぞ。っつかなんの青春ドラマだこれは? 俺は高木ブーの榎本バージョンか?

 第一…………俺はクボと約束なんざしてないんだけど。しかも俺等が知り合ったのって今年なんだけど。入部したの去年なんだけど。

 何勘違いしちゃってるんだ?

 それにその勘違いに乗って何罪の無い人間を殴っちゃってるんだ?

 そもそもアイツは職員室に何しに来ちゃったんだ?? 今、俺の頭の中にはこんな構図が出来ていた。

 彩→彼女、俺→俺、奈美さん→友達、クボ→意味不明。



 まだ少し痛む頬を押さえながら教室に戻ると、クボがばつの悪そうな顔をしていた。

 俺がクボを見ると、アイツは顔をピュッと逸らす。だから俺も無視する。

 俺が席に座ると、クボはこっちを見てくる。だから俺も見る。だけどまた顔を逸らす。

 教室で俺とクボはそんな事を繰り返してた。授業中もクボは俺をチラチラ見てくる。


 放課後、クボが俺に近づいてきた。

「ごめん!」

 カチコチになったクボは、ぎこちなく言った。

「ごめん榎本!」

「……一体誰と勘違いしてたんだ?」

「あ、鮎川(あゆかわ)……」

 鮎川。1年の時、クボが仲良かったって言う友達。俺はその人の事詳しくは知らないし親しくも無いけど、クボからある程度は聞いてる。

 2年になって、もう全然話してないらしい。その人の友達から聞くに、俺とクボが親しくしてるから少し嫉妬してるみたいだ。

 別に嫉妬なんてしないでも話し掛けてこればいいのに。

 そしてその「鮎川サン」は、今バスケ部の副部長。でも人を差別するから、バスケ部の部員達からはあまり好かれてない。多分、だから顧問は来年は俺が部長、って言ったんだと思う。だけど、もしそうなったら嫉妬してる上に憎まれそうだから、やっぱり俺は退部してよかったんじゃないかな。

「ご、ごめんな、榎本……」

 必死に謝ってきたから仲直りして、帰りの「じゃあな」もやった。

 今日は彩、大事な用があるから先に帰るらしい。大事な用ってなんだろ?

 考えながら帰ると、姉貴がドシドシやってきた。

「晴樹、電話あったわよ」

「は? どこから?」

「マックから」

「え! マジ!!? なんだって!?」

「知んないわよ。電話番号メモっといたから自分で電話しな」

 姉貴に言われて、俺は荷物も下ろさないまま電話へGO!

 電話してみると、面接に来てくださいとの事だった。やった。日にちは金曜。今日が火曜だから……あと3日しかない。

 大変だ大変だ! 緊張してきちゃったぞ!!

 電話を切って、俺は飛び跳ねた。でも「うるさい!」って姉貴に殴られた。

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