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第26話 ダンシング葉っぱ

 今日は学校だ。

 でも問題がある。

 彩にどーゆー顔で会えばいいんだぁぁぁ!!!!

 普通に挨拶出来れば苦労しないさ! 出来ればいいさ! 出来ればね!!

 だけど俺の場合、絶対ドモッちゃうんだよ! ああああ彩、おはよよよーとかさ!

 だって、泣いてるとこを見られたんだ。彼女に! 常に強くありたかったのに、でも泣いてるとこを見られちゃったんだ!

 どうすりゃいいんだよ俺!




 ―――って考えてる間に着いてしまった。

 俺は学校に着いてしまった。

 休みたい気持ちでいっぱいだったけど、でも来てしまった。

 こうなったら顔を合わさずに今日を終わらせるしか無い! まず最初の関門、下駄箱。

 サッと靴脱いでスッと入れて、ヒョイッと上履き取ってスッと履いた。

 よし、大丈夫。見られてない。このまま教室に入っちまえばこっちのもんだ!!

「おはよう、晴樹くん」

「あぁ、おは………………」

 俺は止まった。

 そして走った。

 全速力だった。

 教室に逃げ込んだ。そしたらクボが寄ってきた。

「おっはよー榎本くん! ……どうしたんだよ、朝から息荒くして」

「いや…………何も……。ただちょっと鬼ごっこを……」

「榎本。お前そんなに幼稚だったか?」

「違う!! 子供がやるような鬼ごっこじゃない!!! 俺の生命を掛けた鬼ごっこだったんだ!」

「おー、なんだ? 通り魔にでも追われたか?」

 そこへ杉浦も乱入。まぁそう言う事にしておこう。

「うん、まぁ、な」

「えースゲェ!! 立派な武勇伝じゃねぇか」

 武勇伝、って言うのか?

 それは俺にオリエンタルラジオの真似をしろって言ってんのか?

「あれ? 彩乃ちゃんじゃん」

「え!?」

 しまった。とっさに隠れてしまった。でも彩には見つかってないみたいだ。

 男2人には見つかっちゃったけど……。

「榎本。通り魔、ってのは彩乃ちゃんの事か?」

「榎本。どう言う事だ? こんな面白い事……大事な事を俺達に言わないなんて」

 杉浦。俺とお前はいつからそんな親友みたいになってたんだ?

 っつーか言えるか、そんな事!

「な、何もねぇよ! ただちょっとビックリしてさ……その……反射的にって言うか……なんて言うか……」

「お前嘘下手」

 す、杉浦に言われると何故かムカツク。それはクボも同じだけど。

「言え。俺とお前は友達じゃないか。俺はなんでも聞いてやる!」

 杉浦は、俺の肩を掴んで言った。

 じきに「さぁ、走れメロス」とか言いそうだ。

「杉浦……」

「なんだ?」

「お前、彼女どうした?」

 俺がそう言うと、杉浦は俺に頭突きしてきた。

 頭を抱えてうずくまってる俺を置いて、杉浦は「別れたんだチクショォォォォ!」って叫んで走ってった。

 人に頭突き喰らわせといて……。

 そして、今度はクボが来た。

「榎本。何があった?」

「だから何もねぇよ」

「何も無い、って顔してないぞ」

「…………」



 気が付くと、俺はクボに何もかも話してた。

 クボはうんうんって頷いて、全部話し終わるまで静かに聞いてくれた。

 彩に里砂の事を話したのも、なんでも聞くって言ってくれた事も、俺が泣いちまった事も、全て話した。

「……なるほどな」

「どう思う……? って言うか、俺どうしたらいいんだ?」

「知らん」

「ヒデェよ! 俺ちゃんと話したじゃねーか!! お前もちゃんと考えてアドバイスよこせよチクショー!!!」

「普通にしとくのが1番なんじゃないか? 変に逃げようとしたりすると事がこじれるぞ」

 まぁ。そうだけどさ。

 それは分かってるけど、でも、彩と目を合わせられないんだ。

 今になってようやく、情けないとか恥ずかしいとかの感情が溢れだしてきたんだ。

「よし。榎本、少し待ってろ」

「あ?」

「待ってろ。絶対ココに居ろよ!? いいな!!?」

 何しようとしてんだろ、クボの奴。

 言われた通り、俺はココでずっと待ってた。10分くらい後、やっとクボが戻ってきた。

「クボ、何してたんだよ。遅いぞ」

「ホレ!」

 クボの後ろからは、彩が出てきた。

「!!!!! あ、あ、ああああああ彩っ!!!?」

「お、おはよう。晴樹くん」

「おおおおおはおは……お……――?」

 彩の後ろでクボが手を振ってた。そんで振り終わると、校舎内に戻っていった。

「く、クボが……強引に……とか?」

「う、うん。その、急に」

「くっそー。あの野郎…」

「あ、いいの! 丁度、私も晴樹くんと話したかったから……」

「…………そか……」

「うん……」

 俺と彩の間を、まだ少し冷たい風が通っていった。寒い……。

 地面に落ちてる葉っぱもカサカサと音を立てる。それが丁度BGMのようになってた。

「あのね」

 彩が口を開いた。

「……あのね、私……な、何かしちゃった、かなぁ……?」

「え?」

「だって……晴樹くん、さっきから私の目見ようとしないし、下駄箱で「おはよう」って言った時も走っていっちゃったし……」

「あ、いや、あれは……」

「私、自分では何もしてないつもりだったんだけど、無意識のうちに晴樹くん傷付けるような事しちゃったのかなぁ? って考えてたの。でも何も思いつかなくて、それで…」

「違う!! 彩が悪いんじゃなくて……って言うか俺が全て悪いんだ。なんて言ったらいいのか……分かんないんだけど…………と、とにかく、ごめん!!」

 俺は頭を下げた。

 やっとまた、葉っぱのBGMが聴こえてきた。時間が凄いゆっくりに感じられた。

 俺が頭を上げるまでの時間が、たったの10秒ほどなのが10分くらいに感じられた。

「ただ俺が彩に顔合わせにくかっただけなんだ」

「……どうして……?」

「…………だって……その……な、泣いてるとこ見られたし……」

「全然気にしてないよ? それにそんな事言ったら私だって晴樹くんに見られてるよ」

「女が泣くのはいいんだ。だけど男が泣くのって、なんかさ……」

「同じ人間なのに?」

 彩はそう言って「えへへへ」って笑った。

 それでその後に、「変なの!」と付け足した。そうしたら何故か俺も笑えてきた。

 外は寒いはずなのに、俺の中はこれまでに無いくらい暖かくなってた。さっきまでの不安な気持ちや恥ずかしい気持ちが嘘みたいだった。

 ただ吹かれてただけの葉っぱが、踊ってるように思えた。

 そうか、男だって泣いてもいいんだ。

 彩はその事でからかったり、おちょくったり、突き放したりしないでいてくれるんだから。

「ありがとう、彩」

「ううん。私だって晴樹くんにはお世話になってるもの」

「そうかな」

「そうだよ」

「……そっか!」

 嬉しすぎて、また泣きそうだった。ふざけんなよ俺の涙腺!!

 でも今回はなんとか戻す事が出来た。

 ふぅ、と息を吐き出すと、急に彩が抱き付いてきた。

「……あ、あああ彩……?」

「あのね晴樹くん」

「……ん?」

 彩も照れてるようで、決して顔を見せずに言った。

「私、晴樹くんが大好きだよ」

「…………俺だって……」

 俺だって彩の事が大好きだ。

 大好きって言うだけなのに照れたりするとことか、凄い優しいとことか、人を傷付けないとことか。

 ただ、俺も照れちゃって口に出来ないだけだけど、さ。

 彩は顔を上げた。その頬はほんのりピンクに染まって見えた。

 なんかその姿が可愛すぎて、愛しくて、俺は彩にキスをした。その後ろでクボと奈美さんが見てる事にも気付かず、2回もキスをした。

 2人が見てる事に気付いたのは、クボが壁に立て掛けてあった(ほうき)を倒したからだった。

「あっ」

 クボの声がした。

「あ! コラバカ何してん…」

 奈美さんの声がした。ついでにゴンっと頭を殴られる音も聞こえた。

 壁に隠れて、2人がわざとらしく笑ってた。

「あ、あ、あ、あっれー! 偶然だねぇ榎本ぉ!!」

「あっらホント! 彩も居るじゃない! 何してるの? 2人ともこんな所で……」

 俺等は顔が真っ赤になって、それに答えるどころじゃなかった。

 葉っぱは地面に寂しく落ちた。風は4人の間を寂しく通った。

 もう葉っぱは踊ってなかった。

 チクショウ……。

 今度はクボと奈美さんがラブラブしてるとこを盗み見してやるっ!!!

「榎本……? どーし…」

「クボのバッカヤロォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」

 俺は叫んだ。

 思いっきり叫んで、声は校舎内にまで響いた。教室で騒いでた野次馬共が出てきて、中庭に居る俺達を上から覗き込んできた。

 だけど今の俺は人目なんて気にしてられなかった。脱兎のごとく逃げ出したクボを追って、運動場まで出た。また上履きが黒くなっちゃった。

 野次馬共は「レースだレースだ」って喜んでた。クボが豪快にコケたところを狙ってジャンプした。でもクボは素早く起きて、俺が伸し掛かってくる前に退いた。 

 俺は見事運動場の砂に向かって飛び込み、スライディングした。

「ダメだな榎本っ! 素早さは俺の方が上なんだーい!」

 クボが息を切らしながら言った。素直にムカついた。

 だからまた走った。

 授業が始まっても走る事を止めなかった俺達は、放課後、先生のカミナリを喰らった。

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