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第24話 小学5年生

 その後、レモンティーを全部飲んでから彩の家を出た。

 俺達は今、あの公園に居る。

「どうだった……?」

「うん。いいご両親だね! 彩を大切にしてるんだなぁって分かるよ」

「そうかな……」

 彩はそう言って、照れたように頭を掻いた。

 でもその動きはすぐに止まった。さっきまでの笑顔はどこかに行って、真剣な顔になる。

「晴樹くん」

「ん?」

「私ね、その……男の子と、あんまり喋らない、でしょ……?」

「んー。まぁ、そうなのかな」

「……私ね、いじめられてたの」

 彩の唐突な告白に、思わず俺は聞き返した。

「いじめ……?」

 彩は無言で頷く。今まで親にしか話して無かった事だけど、俺には知っておいてほしい、との事だ。

 だから俺は静かに聞く事にした。

「いじめが始まったのは小学5年生くらいの時で…………私、その時好きな子が居たの。クラスに。女子の間で絶えず噂になってる人気者で。それでね、ある日、頑張ってその子に告白、したの。手紙を書いて、下駄箱に入れて……」

 彩はそこで一度息を吸うと、また話を続けた。

「その日の夜凄くドキドキして眠れないくらいだった。それで朝学校に行って、そうしたら、手紙をあげた子と仲が良かった3人組に呼ばれたの。階段の横の少しスペースの空いてる所に。なんだろうって思ってたら、その中の1人がポケットから手紙を出して大声で読み始めたの。勿論通ってく子達はみんな笑うし、凄く悔しくて恥ずかしくて……。やめてって叫んだら、急に上から水を掛けられたの。「お前みたいなネクラ好きになるわけねぇだろ」って言って、その子達はそのまま教室に帰ってっちゃったんだけど……結局ね、その手紙は、本人に読んでもらえないままだったの。仲が良かった子達が勝手に読んで勝手に判断して……」

 彩にそんな事があったなんて知らなかったから、俺はただただ驚くだけだった。

 驚いた顔の俺を見て、彩はなんだか悲しそうに笑った。

「私ね、この性格直したいって思ったの。そうすれば好きになってもらえるって思って……。周りのクラスメイトの子達の真似をしてみたりもしたの。だけど小学生も「キモイ」とか言ってて、でも私はどうしても言えなくて、やっぱりこの性格のまま高校生まで来ちゃったの。こんな暗い子好きになってくれる人なんて居ないだろうなぁって思ってた。それで…………晴樹くんが私の好きなところをお父さんの前で堂々と言ってくれて、凄く嬉しかった」

 彩の話はそこで終わりらしく、フゥと息を吐くと俺を見た。

「彩、俺…」

「ありがとう、晴樹くん」

 彩は笑った。ニッコリと、いつものように優しく笑った。

 でも俺は、その笑顔を見て、何故か悲しくなった。泣きたいのは彩の方なはずなのに、俺も泣きたくなった。人の話を聞いてこんなに悲しくなったのは初めてだった。

 そこに俺が居たら助けてやれたのに、って、どうしようもない事に悔やんだ。

 どうにも出来ない事なのに。もう過去の話なのに。

 俺が今何か思ったところで、何も出来ないのに―――。


「誰になんと言われようと、彩はそのままでいいから。そのままの彩が、俺は大好きだから」

 小さな肩を引き寄せて、彩を抱き締めた。力一杯抱き締めた。

 耳元ですすり泣く声が聞こえる。俺は右横にある頭を撫でた。

 髪からいい香りがする。

「彩」

「…………はい……」

 震えた声で返事をした。いつもより小さな声だった。

「好きになってくれて、ありがとう」

 そう言うと、彩は少し首を横に振った。

「好きじゃないの?」

 また横に振った。沢山振りたくった。

「晴樹くんもだよ…………」

「何が?」

「好きになってくれて……ありがとう、って……私も晴樹くんに言いたい言葉…………」

「へへっ。そっか!」

 じゃあおあいこだ。いや、おあいこって言い方は変だけど…………まぁ、いっか。




 それからしばらくの間、その公園に居た。

 今は夕方、6時。

「私、晴樹くんのお父さんとお母さんにも会ってみたいなぁ」

「えぇっ!?」

「え? 何?」

「俺ん家なんか何も面白くないし何も無いただの家だし、なんの変哲も無いただのオジサンとオバサンが居るだけで…」

「お母さん、どんな人?」

 俺の言葉を遮って、彩は聞いてきた。

 仕方ないから答える。

「賑やかしいよ。テンションが上がってくると声の音量も上がるし……あ、昨日なんてEXILEのコンサート行ってきたんだよ! でさ、帰ってきたら凄いテンション高くなってんだ。俺の部屋がこうあって、その隣に母さんの部屋があってさ、もう「へ〜い」とか「ひょ〜い」とかうるっさいんだよ! 同じ部屋じゃなくてまだ良かった」

 話し終わると、彩はニコニコ笑って俺を見た。

「晴樹くんは……お母さんが大好きなんだね」

 爆弾投下。

 俺が母さんを好き!? バカ言っちゃいけないよ! 母さんなんて好きなわけ……。

「それにEXILEのコンサートなんて楽しそうじゃん。あの、あれでしょ? 2人組の……あの、犬の写真のCDを出した……」

 それはもしや……。

「ケミストリーだね、それは……」

「えっ……え? ケ、ケミ??」

「えーーと、うん、まぁそれならそれでいいんだけど……」

 俺は心の中で自分に突っ込んだ。「良くねぇよっ!」って。

 でもさ、ケミストリーとEXILEの違いを説明するのはちと難しいって言うか、正直言っちゃえば面倒臭いって言うか……。

「楽しそうなお母さんだね!」

 彩はニッコニッコニッコニッコしながら言った。楽しそう……うん、まぁ、教育オバサンじゃないだけいいけどさ。でも兄貴に会ったらどう思うかなぁ。ボケボケだから、いくら彩でも痺れを切らして怒っちゃうかもしれない。

 いや。まだ彩が来るって決まったわけじゃないからな、うんうん。

「また今度、行かせてね」

 決まっちゃったな、うんうん…………。

 女の子っていいなぁ。母親と上手く打ち解けられそうで。俺とお父さんが楽しくどんちゃんどんちゃんやってるトコなんて想像出来ないし。俺はお父さんにお酌するので精一杯だし。

 まぁ、彩が来たいって言うんならいいんだけど、さ。うん、いいよ。

 もうこうなりゃヤケクソさ。




 俺と彩は8時頃、公園を出た。

 いつものように彩を家まで送り届けて、俺も帰る。

 帰って母さんに言った。

「今日彩の家行ってきた」

「あら? 彩ってだあれ?」

 …………この間話しただろ。なんでこうすぐに忘れるんだ、この人は。

「俺の彼女だって言ったじゃん!」

「……あ、あーあーあー! 分かったわぁ」

 絶対分かってないな。調子合わせとけばいいって思ってるんだろ。

 まぁしつこく聞かれるよりはいいか。

「彩がまた今度家に来るかもしんないから」

「あらー。それじゃあこの家大掃除しなくちゃねぇ」

「いいよ! そんな事しなくて!!」

「ダメよー。せっかく来てくださるんだもの。こんな家じゃあ…」

「この間掃除したばっかだろ!!?」

 もー。やっぱ話すんじゃないかった……!

「来ても変な事言うなよ!?」

「分かってるわよ、もう。……反抗期かしらね」

 反抗期はとっくに過ぎてるんじゃないか?

 って言うか反抗する理由が自分にあるって気付かないかね……。

 俺は2階に上がって、自分の部屋に入った。なんか俺の母さんと彩のお母さんって、似てる気がする。

「はぁ……」

 大きなため息ひとつ。

 母さん、変な事言わなきゃいいけど。

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