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第23話 小田家へレッツゴー!

 ある日彩は俺に言った。

「お父さんに晴樹くんの事を言った方がいいと思うの」

 と。

 俺はビックリして叫んだ。

「なんですとぉぉぉぉぉぉ!!!?」

 と。



 だってそりゃビックリだ。急に「お父さんに言った方がいい」宣言されちゃあ男は驚くだろ。しかも一度最悪のシチュエーションで会ってる。会ってるとは言い難いけど、でも声を聞いた。

 『カミナリ親父』そのものだった。きっと野球ボールで窓を割ったら「けしからん!」って怒るんだろう。恐いなぁ。だけど彩としてはお父さんに嘘を付き続けたく無いって気持ちがあるんだと思う。だったら俺はそれを尊重したい。

 彩の気分がスッキリしないまま一緒に居るのも嫌だし、バレてから改めて挨拶に行くってのも嫌だ。彼女の事だからきっと悩んで悩んで悩みまくって決めた事なんだと思う。軽々しく決めた事じゃ無いんだ。

 だから、いくら「なんですとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」って思っても、俺は彩の出した答えに付いていく。どんだけ怒鳴られても「馬の骨骨骨〜」って言われても、彩の費やした時間を無駄にしたくは無い。

 大丈夫だ。怒鳴られただけで別れるほど軽い恋じゃないんだ。

 大丈夫―――。







 今日は祝日。月曜日。

 いつもの祝日なら家でゴロゴロしてる。だけど今日は違う。家でゴロゴロしてる暇があったら鏡に向かって髪を梳かす。ゴロゴロしてる暇があったらスーツを探し出して即着替える。

 そんな慌しい祝日だ。

 何故って、今日は彩のご両親にご対面しなくちゃならないからだ。俺の心臓は脈打ちすぎてどうにかなりそうだった。あぁ、緊張でトイレに行きたくなってきた。

「晴樹ー? 朝から騒々しいわね……。どうしたの?」

「なんでもないよ! 母さんちょっとそこ通して!」

「あ、はいはい」

 母さんは昨日の夜遅くに帰ってきた。家に入ってからもEXILE熱が冷めないようで、1人ベッドの上に寝転んで「へ〜い」とか「ひょ〜い」とか変な事を叫んでた。相当楽しかったんだろう。姉貴も昨日の夜に帰ってきて、彼氏と2人で写ったプリクラを見て喜んでた。それで「今度こそ逃がさないわよぉ〜」って意気込んでた。

 父さんは今日の夜帰ってくるそうで、兄貴も今日帰ってくる。そして俺は今日彩の家に行く。

 まだ母さんには言ってない。帰ってきてから言おうと思ってる。だって行く前に言ってみたりでもしたら、「あらやだ、母さんもご挨拶したいわぁ」って言うに決まってるんだ。俺だって分かっていながら言うほどバカじゃない。

 母さんにはとりあえず、遊びに行ってくる、とだけ言ってある。そんな簡単なものじゃないんだけどね、ホントは。彩の家に言って遊んでくるだけならどんだけ楽か……。

「じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい。気を付けてね」

「分かってる」

 俺はそう言って、家を出た。

 今日に限って空が暗いような……。気のせいかな……?


 彩とあの公園で待ち合わせて、そこから2人で彩の家に行く。そこまでだけでも凄い緊張するのに……。

 あーヤバイ! もう1回トイレに行っとけばよかった。だけど今日は絶対に遅刻できない。こんな日に遅刻でもしてみろ。『馬の骨骨骨アッパー!!!』とか言って空にピューンと飛ばされちまう。

 月面目指してぶっ飛んだロケットより早く宇宙に放り出されちまう。

 そうなったらきっと、絶対、確実に、日本には帰れない。いや、地球にすら帰れないかも知れない!

 ダメだダメだ! 絶っっっ対に遅刻しないように……。

「あ、晴樹くん!」

 考えてたら、前から彩の声が聞こえた。こっちを見て手を振ってる。

 俺も軽く手を振り返した。

「遅刻、してないよね!?」

「うん! 大丈夫だよ。行こう?」

「はいっ!!」

「そんなに緊張しないでいいよ。そこまで恐い人じゃない…………と思うから」

 思うから、って何! 余計恐い!!!

 でもまぁ彼女も彼女なりに気を遣っててくれるんだから、ありがたく受け取っておこう。

 そうだよな。会ってもいないうちから勝手な推測で恐がっちゃ失礼だもんな。

 大丈夫。大丈夫……。





「きみが彩乃の……」

「は、はははは初めましぃて! 榎本晴樹と言います!!」

 そして今俺が直面しているのは、どうみたって大丈夫そうに見えない彩のお父さん。

 俺を見て怒ってるような悲しんでるような、そんな顔をしてる。

 どう喋ったって声が裏返っちゃう、恐〜〜いオーラをかもし出しちゃってる人。

「あらあらまぁまぁ。まぁまぁとにかく上がってください」

 リビングから出てきてスリッパを用意してくれたのは彩のお母さん。

 以前、俺が訪ねた時に「お茶でも……」と家の中に入れてくれようとした人。案の定遠慮しといたけど。

「あ、あ、す、すすすみません! ありがとうございます!!」

「そうだな。とにかく上がってもらおうか。母さん、お茶を()れてくれ」

「分かってますよ」

 お父さんとお母さんはリビングに消えた。緊張がとけた。

「晴樹くん? ……大丈夫??」

「だだだだ大丈夫……うんうん大丈夫……」

 こうなったら自己暗示で乗り切るしか無い。

 俺は心の中でお経のように「大丈夫」と唱えてスリッパを履いた。

「お邪魔しますっ!」

 リビングの中の、キッチンの方からお母さんの「ど〜ぞ〜」と言う声が聞こえてきた。

 俺は一度この家に入った事がある。このリビングに置いてあるコタツの中に足を突っ込んで、彩の淹れてくれたコーヒーを飲んで……。

 そしてその後、悪夢が……!

「きみは……」

「はい!!」

「彩乃と同じクラスなのか?」

「いっいえ!!? 同じじゃないです!! 出来れば同じが良かったかな〜、な〜〜んて思ってしまったりもするんですが、でも同じじゃないんです!!」 

「そうか」

 う……。なんだ、この重苦しい空気は……。

「はい、どうぞどうぞ。榎本さんレモンティーはお好き?」

「あ、はい! 大好きです!! ありがとうございます!! いた、いただきます!!」

「あら〜良かったわぁ。どうぞ飲んでくださいね。あ、お砂糖、もし要るのならコレだから、ご自由にね」

「ああありがとうございます!!」

 俺はレモンティーを飲んだ。……おいしい……。

 外の寒さとお父さんで冷え切った体を温めてくれる。

 このまま時間が過ぎてってくれればいいんだけどなぁ……。

「榎本くん」

「はいっ!!!」

 まぁそうもいかないよなぁ。女の子のお父さんだもんなぁ……。

「彩乃の、どこを気に入ったんだ?」

「はい?」

「この子は無口だし引っ込み思案だし、男の子とロクに喋った事が無いんだよ。勿論小さい頃はあったんだがね?」

「お父さん!」

 彩が声を出した。

 だけどお父さんはそのまま喋る。

「彩乃に彼が出来るなんて思ってもいなかったんだ。……榎本くん、彩乃のどこを好きになってくれたんだ?」

「ど、どこをって……」

 本人の前だしなぁ。……で、でも、ここでそんな事言って「そんなモンだったのか!」って怒鳴られても嫌だし。

「彩は……彩乃さんは…………他の女子とはなんか違ってて……みんな、今の高校生って簡単に「死ね」とか「ウザイ」とか「キモイ」とか言うじゃないですか。いや、一部の高校生はどうか知らないんですが……。なんか、でも、彩乃さんは「キモイ」だなんて全く言わないし、ましてや「死ね」なんて事も絶っ対に言わないし、俺……ぼ、僕は、彩乃さんのそう言うところが好きです。そんな人を傷付けるような事を平気で言える人の傍になんて居たくないって思うし、いや、なんか話がズレてってる気がするんですけど…………でも、彩乃さんは、人を傷付ける事を言いません。絶対に言いません。そう言うのって、やっぱり大事だと思うし、そこが好きです…………」

 …………。しまった!!! 何言ってんだ俺は!! 彩もお父さんも口ポカーンと開けて見てる!! 唯一お母さんだけニコニコニコニコして俺を見てる!!!

「……いやぁ凄い!!」

 お父さんは、急に拍手を始めた。

 な、何ぞや……?

「私もきみと同じ考え方なんだよ! 今の若い奴等はそう言う……なんて言うんだ? その「死ね」とかを言い過ぎるだろう? でもね、安心したよ。彩乃の彼がそんな奴じゃなくて」

 安心……? って事は?

 俺は「馬の骨骨骨〜〜!!」って言われない、って事か?

「きみになら安心して彩乃を任せられるよ。……榎本くん。これからも、彩乃をよろしく頼むよ」

 お父さんはコタツに額が付くくらい頭を下げた。

 こりゃビックリ。あらビックリ。

 「頭上げてください」って言おうと思ったら、お父さんは急に頭を上げて俺を見た。そして満足そうに頷いた。

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