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第21話 ワケ

 そろそろ「彩」って呼び方にも慣れてきた。クボもいちいちオバサンにならなくなってきたし。

 クボと奈美さんも仲直りして、なんか一皮剥けた感じ(クボだけ)。


 そして今日は土曜日。珍しくバスケの練習が無い日! って事は、彩と出掛けられる日!!

 とゆーワケで、俺は今彩の事を待っている。でも行き先はまだ未定。

「晴樹くん」

 行き先を考えてると、いつの間にか目の前に彩が居た。

「え? あっ! お、おはははおはよう!!」

「おはよう。……どうしたの? 大丈夫?」

「あぁ! うん! 大丈夫大丈夫! 全っ然大丈夫!!」

 ビビッた……。ホントにビビッた。ホントは全っ然大丈夫じゃない。心臓張り裂けるかと思った。って言うか止まるかと思った。

 だって、もっと時間掛かるかと思ってたから。

「どこに行く?」

 ……それなんだよー!!! 全く決まってないんだよー!!! ――――あ、そだ。

「そういえばさ、クボが言ってたんだけど、今日少年野球チームが草野球やってんだって。彩野球好き?」

「私はあんまり分からないんだけど、お父さんがよく見てるよ」

「あ、そうなんだ?」

「うんでも……行こう! 私野球生で見た事無いんだぁ!」

 野球って言ってもジャイアンツとかドラゴンズとかタイガーズとかそんな豪華な物じゃないんだけどね? えっと、まぁいっか。彩も賛成してくれてる事だし。行っちゃえ〜!!



 ってワケで、俺と彩は今草むらに座って草野球を見てる。

 う〜ん。まだまだぎこちなくてカワイイじゃないか。

 打ってもホームランまでいかないところも初々しいじゃないか。

「彩? 大丈夫? つまんなくない?」

「ううん、全然! みんなカワイイね!」

「そうだね!」

 そうか。……へへっ。そっかそっか。彩も楽しんでくれてるんだ。良かった良かった。

「晴樹くん。私飲み物買ってくるけど何かいる?」

「あ、じゃあ俺も行くよ」

 2人で近くの自動販売機へレッツゴー! コカコーラの自販機。お? 誰か居る。あっちもカップルみたいだ。2人で………………………………見覚えあるぞ、あの2人。

「あっれー!? 榎本くんじゃん!!」

「クボ……!! 奈美さんも! なんで居るんだ!?」

「失礼だな。大体今日草野球やってるって教えてやったの俺じゃんよー」

 あ、そっか。そういえばそうだった。しっかしホントに仲直りしたんだな、この2人。

 2人で草野球なんて見に来ちゃってー! あ、俺もか。

 心ん中で俺もオバサンになりかけてると、少し歓声が大きくなった気がした。どうしたんだろ。少年の1人が場外ホームランでも打ったかな……?

「丁度いいじゃん! 一緒に見ようよ! ねぇ剛史?」

 考えてると、奈美さんが手を叩いた。そしてクボの方を見ると、なんて言っていいのか分からないような顔してるクボが居た。

「え。うん……いいけどさぁー……その……まぁ……うん……い、いいけどさぁー」

「何よ、ハッキリしなさいよ」

 そうか。クボの奴、奈美さんと2人っきりのがいいのか。

「いいよ、俺等あっちで見るからさ。クボもそっちのがいいだろ?」

「なーに言ってんだよ榎本! 俺はべっつに…」

「あ、じゃあ一緒に…」

「別々に見よう! な!? 榎本もそっちのがいいだろ!? な!? はい、サヨナラ〜」

 クボは俺の背中を押して強制的に別々にさせた。まぁお互い2人の方がいいだろうし。

 でも奈美さんはジュース片手に「えー。なーんだ。つまんないのー」って言ってた。

「……つまんない……!!?」

 あ、クボショック受けてる。あ、奈美さんなぐさめてる。

 ふ〜ん。なんだかんだ言ってやっぱりいいコンビじゃん。

 さて、俺達も飲み物買って戻ろ。早いとこ続きを…………。







 続きを…………見ようと思ったんだけれども。

 俺達がくっちゃべってる間に終わってしまったみたいです。

 少年野球団の少年達が笑って帰っていきます。監督らしき人も満足そうな顔で少年達の肩を叩いてます。1人の子は泣いてます。1人の子はまだバット振り回してます。1人の子と1人の子はまだ足りねーぜって感じでキャッチボールしてます。

 俺はまだ見足りねーぜって感じでたたずんでます。

「え、と、じゃあどうしよっか。…………帰ろっか……」

「そう、だね……。ジュース……買ってる間に終わっちゃったんだね……」

 あの歓声はこのせいか。ホームランでもなんでも無くて、終わったぜーって、決着ついたぜーって言う歓声だったのか。

 あは。そうだったんだ。あはははははははははは。

「晴樹くん? ……どうしたの?? 大丈夫?」

 あはははははははは。じゃああの時振り返ったりしてれば最後くらいは見れたってワケか。あはははははは。

「あの……晴樹くん? ショ、ショック、だったの?」

「あははは……え?」

「……「あははは」?」

「あっ! えっ? あっ! いやいやいやいや!! えっとなんだっけ! あ、そっか、帰るんだったね!! えーーーーーーーーーーーーーと……」

 ギクシャクしながら、俺は歩き出した。

「榎本くん? あの、帰り道……あっち……」

 俺は歩き出した。その方向と逆の道を、彩は指差した。

 俺は戻り出した。その指差された道を、歩き出した。



 だけどさ、なんか、なんつーかさ、草野球見ただけで、って言うか殆ど見ないままで、これってデートって言えるのかな……?

 俺はこう……もっと……なんて言ったらいいのかな? デートっぽいデートをしたいワケで、気が済んでないって言うかさ……。

「彩!」

 どうも気が済まない俺は、後ろからトコトコついて来てた彩を振り返った。「はい?」って顔してこっちを見てる。

「あの、さ。もうちょっと…………って言うか…………なんつーか…………その……も、もうちょっとさ、い、一緒に……居よ……?」

「え? うん」

 彩は、「今更何を?」ってな顔をした。

「あれ……? 元々……もっと一緒に居る事になってた、とか……? なぁんちゃっ…」

「え? あれ? そう、なんでしょ? 私はそう思ってたんだけど。…………一緒に居て……いいんだよね…………?」

「勿論ッッ!!!!!!!」

 彩は俺の気迫にビビッた。気を抜いたら後ろにスッテンコロリンと転びそうなくらい仰け反った。俺が彩を(もといおにぎり)追いかけるハメにならなくてよかった。



 俺達はいつもの公園にやってきた。ブランコによいしょと腰を下ろす。彩も隣のブランコに座った。

 2人してキーコキーコ漕いだ。

 あ、そう言えば、気になってたんだ、俺。

「ねぇ彩さ」

「うん?」

「俺がさ、ここでスケボー出来るとか言っちゃった時あったじゃん?」

「スケボー……あぁ!! うん!」

「あれさ…」

「出来るようになったの!?」

 ほひ?

 な、何を……勘違いしちゃったりしちゃってるんだろう? この()……。

 俺は元々スケボー出来ないわけで、出来るなんて嘘付いたのはその場を持ち堪えるためであって、決してスケボーなんてそんなハイカラな事は出来ないわけで、例え後ろで『ハイカラさんが通る』が流れたって出来ないわけで…………。

 だけど彩はバッチリ確実に絶対に俺がスケボー出来るって勘違いしちゃってて、でもでも本当の俺は全く出来ないワケであって……。

 っちゅー事は、結論的に述べれば、





 ヤバイ。









 その彩の中で出来ちゃってるカッコイイ俺ってのをぶち壊さないといけない! 俺はスケボーは愚か、一輪車にだって乗れないんだ。

 いや、スケボーは言うなれば四輪車だけど、でも多分車を運転するよりうんと遥かに難しい! 俺には出来っこない!!

「彩!!」

「え?」

「俺ね、俺さ、その、彩の頭の中で思い描いてるような男じゃないんだ! ウッキウッキワックワックしちゃってるとこ申し訳無いんだけどさ、うん、あの、いや、勿論申し訳無いと思ってる! 彩にそこまで期待させといてそんな事も出来ないなんて最低だと思う!! だけど出来ない物は出来ないんだ! ……いや、言い訳がましいな……って言うか開き直って更に最低だよね。あの、とにかくさ、本当に……本っっっ当にゴメン!!」

 俺は頭を下げた。ブランコの下にある砂にオデコがくっ付くくらい下げた。幸い砂にはくっ付かなかったけど。

 でもその直後、ブランコからずり落ちた。俺はオデコどころか全身砂にくっ付いた。

「え、何、言ってるの……? あの、よく分からないんだけど……」

「だからさ、スケボーだよ、スケボー! 俺、ホントはそんなの全く出来やしないし、持ってすらいないんだ!」

「うん。いいよ? 出来ないものは仕方ないもんね。でもスケボー出来なくたって死ぬわけじゃないんだし……そんな必死に謝らなくても大丈夫だよ?」

 あぁ、彩! 天使に見えるよ!! あ、でも天使になったら天に昇っていかなくちゃいけないから、女神に見える!!

「ありがとう…………!!! ……あ、えっとね、それで……本題なんだけどさ」

「はい!」

「彩は、どうしてあの時泣いてたの?」

「あ…………。あれね」

 彩はそう言いながら少し照れくさそうに笑った。それから改めて手を膝の上に置くと、その手を見ながら話し始めた。

「あれは、ね。晴樹くんなんだよ」

「俺?」

 コクンって頷いた。俺何かしたっけ? いや、何もしてないぞ。ただ地球の果てまで行ってやるって覚悟決めただけで……。

 はっ!! まさかその覚悟のせいで彩も地球の果てまで行こうと覚悟決めちゃって、でも行き方が分からないから泣き出したとか…………!?


 ってアホか。そんな事あるわけないじゃないか。


 俺がそんなアホな事考えてる間に、彩はまた口を開いた。

「あの日、女の子に告白……されたでしょ?」

 ……あぁ、そう言えば。あのイケイケギャル。

「その子ね、私と同じクラスで……教室の中で、晴樹くんに告白したって話をしてて……」

「うん」

「それでね、晴樹くんが私を見つけてくれたでしょ? ここの……ブランコに乗ってる所」

「うん、そうだね」

「嬉しかったの。……嬉しかったんだけどね、この人には、もう告白したって遅いのかなぁって思ったら…………」

 ってぇ事は?

 彩も……その時から俺の事を好きで居てくれた、って事……!!?

「うそぉぉぉっ!!!?」

「えっ? う、嘘じゃないよ? あの、本当だよ」

 すっげぇ……なんかスッゴイ嬉しい。スンゴイスンゴイ嬉しい……!!

 そうか。そうだったんだ。じゃあ俺があの時告白してても、今と同じようになってた、って事か……!!

 なんだよー。惜しい事をした。あの時すぐにでも告白してれば良かったのかぁ!!

 でも……じゃあ聞いて良かった。

「彩」

「うん?」

 俺は息を吐き出して、また吸った。

「好きだよ」

「私も!」

 彩がニッコリ笑った。俺はその優しい笑顔に凄く癒されてきた。何度も助けられてきた。



 今日、俺と彩は、初めてキスをした―――。

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