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第12話 買い物の約束

 それから俺と小田さんは付き合い始めた。特にどっちかから「付き合おう」って言ったわけでも無いんだけど……。

 だけど付き合っても俺はまだ「小田さん」、小田さんもまだ「榎本くん」のまま。

 まぁいいんだけどね。小田さんが傍に居てくれるなら俺は満足!

 ……臭いセリフだ、我ながら…………。

 なんかこの頃臭いセリフが多くなってきたような……。

「榎本くん」

「ん?」

 今俺は3組に来て小田さんと話してる。5組に来る時の奈美さんのように窓のレールの上に腕を乗せて。

 教室内では「運動場の2人」って言われてるけど、気にしない気にしない!

 小田さんも最初はちょっと戸惑ってたけど、今はもう慣れたみたいだ。普通に話してる。

「なんかね、今年の冬は寒いんだって」

「え? あ……うん……?」

 冬は……寒いよね、そりゃ。

 ……あぁ、暖冬かそうじゃないか、って事かな?

「だから帽子を買いたいの、毛糸の」

「あぁ、いいじゃん」

「今日…………一緒に行ってくれる……?」

「え、俺でいいの?」

 俺あんまそう言うセンスないけど……。女の子の帽子とかなら奈美さんと行った方が……。

「榎本くんと一緒に行きたいから……」

「…………よっしゃ、分かった。一緒に行こっか」

「うん!」

 毛糸の帽子かー……。そういや俺って毛糸の帽子持ってなかったな。買おうかな。

 あ、でも……。

「今日部活だ……休みまくってたから……そろそろ行かないとマズイかな……」

「何時頃終わるの?」

「多分……7時頃……」

「そっか……」

 でも俺も小田さんと買い物とか行ってみたい! なんか楽しそうじゃん!!

 今週の日曜なら部活休みだし……どうだろ。

「ね、じゃあ日曜に行こうよ」

「日曜日…………」

 俺がそう言うと、小田さんは「ちょっと待ってね」と言って自分の机に行き、横に掛けてあるカバンから手帳を取り出した。なんか子犬の手帳。薄いピンク色ので、小田さんらしい。

 しばらく手帳と睨めっこした後、ニッコリ笑って戻ってきた。

「大丈夫だよ!」

 凄く嬉しそうにそう言った。行動といい顔といい、なんだか全体的に犬っぽい……。

 だけどゆんとは違う。雑種とは違って(世界の雑種さんゴメンナサイ)、もっとこう……チワワって言うかダックスフンドって言うか……。いや、ヨークシャーテリアって言う犬かも知れない。

「じゃあ、日曜に」

「うん、日曜ね」

 お互いに手を振って、小田さんは自分の席に、俺は自分の教室へと戻った。

 この頃、俺は犬種図鑑を眺めるようになってきた。小田さんとの話がもっともっと弾むように。最近知ったのが、さっきの「ヨークシャーテリア」。犬好きさんにとっては初級中の初級かもしれないけど、俺にとっちゃ大発見だ!

 呼ぶ時には「ヨーキー」と言うらしい。

 俺は小田さんと出会ってからもっともっと多くの犬の種類を知りたくなった。そしてなんと! この間本屋で犬種図鑑を買ったんだ!!

 値段が5600円と結構お高かったけど買ってしまった。

 でもこれで小田さんとの会話が弾んで楽しくなるんなら安い方だ!

 いつも寝る前に必ず見てる。全部で308ページあるんだけど、今153ページに突入してる。そのページの犬種は……なんだったっけ……。

 あ! あれだ。「アラスカン・マラミュート」! ……とかなんとか……。

 ハスキーと見分けがつかないアレ。つく人はつくんだろうけど、俺はまだダメ。

 どっち見ても「あ、ハスキー」で終わる。

 その犬の説明とか載ってたけど、そこは忘れた。長すぎて覚えられない。あんなの覚えれてたらとっくにテストで100点取ってるさ。

「さーて。部活行くかぁ」

 俺はガランとした教室に入って伸びをした。そしたらついでにあくびも出た。

(ヤバイ眠い……)

 でも眠くてもそろそろ行かないと顧問のゲンコツ喰らうどころじゃなくなる。今の状態でさえもゲンコツ以上の物を喰らうと思うのに。バスケットボールをボンボンぶつけられるだろうなぁ。なにせあの顧問鬼だから……。

 もしかしたら頭をゴールに入れられるかも。……いやいや、さすがにそれは無いな。

 無い無い。…………無いよ。

 ……多分……。

 行きたくないけど……まぁ仕方ない。自分で入った部なんだから行かないと。

 ロッカーから俺専用のボールを持って体育館に向かった。


 俺の予想は途中まで当たってた。ゲンコツ喰らってボール20連発喰らってオマケにグラウンド10周までも喰らった。

 そんな連続攻撃しなくても……。まぁ試合が近いってのに練習に出なかった俺も俺だけど。いつもなら自分の否に対しても落ち込んでるところだけど、今日は落ち込まない。

 だって明後日の日曜には小田さんと出掛けるんだ。買い物するんだ。

 それだけで俺の胸は躍った。気持ちついでに足も踊った。踊る足で走って飛び跳ねて、家に帰った。

 小田さんも今こんな気持ちでいてくれてるんだろうか。

 明後日が楽しみだー、って喜んでいてくれるんだろうか。

 あ、そういえば、明後日の前に明日は部活だ。くそー。土曜くらい休みくれたっていいのに。どうせ学校行ったって小田さんには会えないし。


 でもブーたれたって結局、次の日の土曜日、俺は部活に行く為に学校へ向かった。

 行く途中……偶然だ! 奇跡だ!! 幸運だ!!!

 小田さんに会った!

「……あ、榎本くん」

「小田さん。どうしたの?」

「ちょっと買い物頼まれちゃって」

 いつものような優しい笑顔で、小田さんは食材リストを俺に見せた。

「榎本くんは部活?」

「うん。試合近いからね」

「頑張ってね! じゃあね!」

「じゃあ」

 俺の横を通り過ぎようとした時、「あっ」と言ってまた俺を見た。

「…………あの……明日……覚え、てる?」

 明日。明日は小田さんと買い物。ちゃんと覚えてるよ!

 忘れるわけないじゃないか。

「毛糸の帽子……でしょ?」

「うんっ!」

 小田さんは凄く凄く嬉しそうな顔で頷いた。そして今度こそスーパーに向かった。

 俺も部活へ。サボりまくりだからレギュラーに選ばれる事は無いだろうけど、まぁとにかく頑張ろう。

 先輩にも「サボりさえしなければ選ばれてる」ってこの間言われたし!

 サボらなきゃいいんだ、サボらなきゃ……。

 体育館に入ると、クボはもう来てた。1人でボール追っかけてる。

「クボー。おはよ」

「あ、榎本! おはよ!」

「なに、準備運動?」

「んー……うん。まぁそんなトコ」

 なんか久々にやる気湧いてきたかもしんない。

 準備運動を済ますと、俺はクボのボールを奪い取った。

「対戦しようぜ、クボ!」

「対戦?」

「バスケの1対1バージョン」

「おう! いいよ!! じゃあ榎本そっちな」

 俺は右側のゴール。ボールは俺持ちだ。少し有利かな……。

 よし。クボには負けたくないからな。

「おっけー?」

「おう」

 そしてミニバスケが始まった。ボールを持ってる俺はひたすらオフェンス。時にディフェンス。まぁそれは当たり前だな。

 っつか、クボ結構上手くなってる。入部当時は俺の方が大分上だったのに、今はボールすぐに取られそう。だけどまだ俺の方が上みたいだ。

 少し手間取ったけど、腕を突き出して3Pシュート。ボールは、ゴールの上でグルングルン回ってからスポッって入った。

「あーー! くそっ! まだ榎本のが上かぁ……」

 クボは体育館の床に寝転んで言った。なんか悔しそう。

 久しぶりに楽しかった。部活になると顧問がうるさいんだよなぁ。こーしろ、あーしろって……。

 だから自由に出来て楽しかった。

 その日、部活は夕方まで続いた。やっぱ試合近くなるとハードだ。まぁ俺は試合に出るわけじゃないけど。

 位置的には補欠の補欠って感じの所。……うーん。微妙……。


 さて、そろそろ帰ろ。後ろにはクボ。

 って事は…………今日はコレ有り。

「じゃーな」

「おう。じゃあな」

 校門での「じゃあな」。学校から出る時ならいつでも関係なく「じゃあな」。

 俺が家に帰った時には、もう7時を回ってた。玄関のドアを開けたら母さんが出てきて、「あら晴樹、ジャージなの?」って言ってきた。

 そっか。母さんは今日の朝出掛けてて、俺が部活に行ったって事知らなかったんだ。

「あ。明日出掛けるから」

「あらそう。えーっと……誰だったかしら? クポくん?」

「クボ?」

 そう言うと、母さんは「あぁそう、その子!」と手を叩いて言った。誰だよ、「クポくん」って……。

「クボがどうかした?」

「その子と出掛けるの?」

「あー……うん、まぁ……」

 ホントは違うけど、下手な事言うと根掘り葉掘り聞かれるから、まぁそう言うことにしておこう。女の子と出掛けるなんて言ったらどうなるか分かったもんじゃない。

 「まぁー。また今度連れてらっしゃいよ」って言ってくるかもしれない。

 母さんは話し始めると止まらないから、小田さんビビッて退いちまうかも。

 いくらなんでもそれは勘弁。

 俺はテーブルに置いてあった唐揚げを1つ摘まむと2階の自分の部屋に入った。

 カバンを床に放り投げて、ベッドに寝転ぶ。

 ―――明日だ。小田さんはいつもどんな所に買い物に行くんだろう。俺が居ても不自然じゃない所だといいけど……。



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