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第10話 決心

 地の果てまで行く覚悟で走り出した俺。

 でもそんな覚悟とは裏腹に、果てまで行かなくとも小田さんは居た。俺の住む町の果てまでも行かないほど近い所に。

 小田さんが居たのはあの公園だった。制服のままブランコに乗ってキーコキーコ漕いでた。

「……1人じゃ、危ない、よ……?」

 俺は近づいてって声を掛けた。息が切れてるせいで切れ切れになっちゃったけど、小田さんの耳にちゃんと届いたみたいだ。

「あ! …………」

「……どうしたの?」

「ちょっと……寄り道」

 小田さんは困ったような笑い顔でそう言った。

「それにしたって……危ないよ」

「えへへ……。そうだね」

「……何かあった?」

 俺はブランコの柵に座って聞いた。小田さんは最初は「ううん」って首を横に振ってたけど、段々無理に上がらせてた口角が下がってって、最後にはポタポタ涙を落とし始めた。

「ちょっ……お、小田さん!? だいじょ……」

「ごめんね……大丈夫…………」

 涙を拭いながら言った。泣いてる小田さんを目の前にして、俺は少し戸惑っていた。

 ……告白するって決めたはいいけどなかなか言うタイミングが掴めない……。

 とりあえず、俺は制服のポケットに手を突っ込んでハンカチかティッシュを探した。でも狭いポケットの中で、どれだけ自分の手を探検させても見つからなかった。制服の胸ポケットも探したけど、入ってるのは生徒手帳と何故か500円玉だけ。

 探してると小田さんは自分でハンカチを取り出した。

 …………俺ってとことんダメな奴……。こんな時、ハンカチの1つでも持ってれば小田さんに差し出してあげれたのに。ハンカチ王子の真似をして笑わせる事も出来たかも知れない。

 俺、ゆんよりマヌケかも……失礼だけど。

 涙を拭き終わって、小田さんはブランコから立ち上がった。

「ごめんね。なんか……」

「別に……いいよ」

「じゃあ、そろそろ帰るね……」

「暗いけど……」

「大丈夫」

 小田さんは笑った。でも作り笑顔だって事はすぐ分かる。だって口の端が震えてたから。最後にまた「ごめんね」と言うと、小田さんは公園を出ようとした。

 俺の頭の中では1つの言葉だけがグルグル回ってた。

 「言え」。ただそれだけ。「好きだ」、その3文字を言えば自分の気持ちは伝わるのに、どうしても言えない。最初の言葉が出てこない。

 喉の辺までは出掛かってるんだ。だけど心臓が尋常じゃないくらい音を立ててそれを邪魔する。でも…………。


 でも……イケイケギャルから貰った勇気があるじゃないか。奈美さんから貰った勇気があるじゃないか。

 2人からグラムでもキロでも表せないくらい沢山の勇気を貰ったじゃないか。


 そしてとうとう、


 小田さんが公園の黄色いポールを通り過ぎた時、


 俺は動き出した。



 黒く汚れた、底が削れた上履きで。




「小田さん!!」

 緊張で声がふにゃふにゃだったけど、小田さんは振り向いてくれた。俺も黄色いポールを通り過ぎて、彼女の目の前に立った。

「……どうしたの…………?」

「俺…………。好……」

 そこで公園の時計が音を出した。針は9時を差してた。「公園に座ってないで帰れー」と言う為の音楽だ。その音楽によって俺の言葉は止まってしまった。

 「好きだ」と言ったつもりだったけど、小田さんには「好」しか伝わってない。

「…………?」

 どうして神様は俺の味方をしてくれないんだ……。俺悪魔に取り憑かれるような事した覚えないです、神様。

「ス……?」

「……す……すすすスケボーにハマってるんだ、俺!」

 あぁっ!! 俺のバカバカ!! もう本当に大バカ!!!!

 スケボーなんてやるわけないじゃんっ!!!

 いくらなんでもバレ…………

「えぇっ! 凄い!」

 …………凄いのは貴方の純粋さだ。苦笑いで「え?」って返されると思ってたのに。

 本当に凄いって思ってる顔だ。なんか、なんかなんか、輝いてる。

「また私にも見せてね! あ、ゆんも見たら驚くかも!」

「……うん……。ははっ……そう、だね……………………」

「じゃあもうそろそろ帰らないと……榎本くんも気を付けてね!」

「……小田さんも……」

「うん! バイバイ!」

 バイバイ。俺の告白タイム……。

 俺はまたチャンスを逃してしまった―――。直接的にではないけど、イケイケギャルと奈美さんに作ってもらったチャンスを……。

 帰り、俺の心にはまたもモヤモヤが付いた。やっぱりそれのせいで光を通すことは無かった。

 ついでに『告れ君』も『告るな君』の逆襲を受けてバタンキューした。

 そしてまたついでに、上履きを靴に履き替えようと学校に行ったら、もう玄関は閉まってた。

 本当にツイてない……。もうこんなのショックすぎて立ち直れないかも知れない。

 食事も喉を通らない……。今日は早く寝よう。あまり遅くまで起きてると自分を責めまくりそうだから。俺は夜の11時に寝た。


 当然、次の日は早起きだった。朝の5時半に目が覚めて、1人で朝ご飯を食べた。

「……今日は早めに行こうかな……」

 パンを口の中でモゴモゴさせながら呟いた。食べ終わって顔を洗おうと洗面所に行く。鏡を見てビックリした。いつもより早く寝たはずなのに顔色が悪い! なんか青白くなってる。髪もボサボサ。

 いつもの俺の髪型を知らない人が見ても、セットしたのか寝癖なのか、って聞かれて即寝癖と答えれるくらいボサボサ。ブラシで梳いても直らなかった。水で濡らしてもダメ。仕舞いには蒸しタオルを頭の上に乗せる始末だ。

 そしたらなんとか直った。……けどペシャンコ。

 ついでに俺の『やる気ボックス』もペシャンコ。

 しばらく鏡と睨めっこしてると母さんが起きてきて、鏡に向かってる俺を見るやいなや「あらあらまあまあ!」と声を上げた。

「……あ、おはよ」

「晴樹、顔色が悪くない?」

「やっぱ……そう思う?」

「もーう、暢気な子ねぇ。「そう思う?」じゃないわよー」

 母さんには負けるよ、と言いたかったけど堪えた。

「体調はどう?」

 俺の頬や首に触りながら聞いてきた。でもさっき朝ご飯のトースト食べれたし……。

「大丈夫」

 そう答えた。少し心配そうな顔をしてた母さんだったけど、手を放すと「でも一応熱測っておきなさいよ?」と言ってキッチンに入っていった。母さんに言われた通り、俺は2階に上がって体温を測った。

 見てみると「35.6」だった。

(なんだよ、全然平気じゃん)

 体温計をケースにしまって着替えた。て事は顔色が悪いのは…………ショックからかな。昨日告白タイムを時計から出る音楽に邪魔されたから。

 カバンを持って外に出ようとした時気が付いた。上履きのまま帰ってきたんだった。

 ……仕方ないから黒く汚れた上履きを履いて登校した。

 俺が学校に着いた時間は6時50分。早く来た事なんて無かったから、まずこの時間から学校が開いてる事に驚いた。そして教室に入るとクラスメイトが1人居た事にも驚いた。

 あ、騒がしいこのクラスで1人静かな「中村(なかむら)一寿(かずとし)」。いつ見ても分厚い本を広げてる、言わば「ガリ勉優等生」……? そういえば1度も喋った事無かった。いい機会かもしれない。

「おはよ」

 声を掛けると、その人は牛乳ビンの底のような眼鏡を上げて、俺の顔をチラリと見た。そして本を閉じた。バン、と言う大きな音を立てて。

「おはよう、榎本晴樹」

 …………。なんかちょっと嫌な感じ……って言うか嫌な予感……。

 その人はズカズカ歩いて俺の目の前にやってきて、顔をすぐそこまで近づけてきた。

「あ、あの……?」

「君は僕になんの恨みがあるんだい?」

「…………はい?」

「なんでも小田彩乃の事が好きらしいじゃないか」

 ……なんで知ってるんだ?? もしかして昨日のイケイケギャルが情報をもらしたのか……!?

「どういうつもりだい?」

「……はぁ…?」

「はぁ? じゃないよ!!!」

 うわっ怒鳴った! なんで? なんで俺怒鳴られてるんだ? 何か悪い事したかな……。

「僕だってあの子の事が好きなんだ!」

「…………」

 うわ…。う、うわー……。これは……どう受け答えしたら……?

「べ、別に誰が誰を好きになろうが勝手じゃ……」

「綺麗な顔してるね」

 ……話噛み合ってねぇよ、おい。

 っていうかコイツ……もしかしてもしかしたらゲイ?? だってなんか今現に俺頬触られてるし……あぁぁ! なんか背筋がゾゾーッと……。

「僕の好きな人を取るなよ!」

 そう言ってノロノロ席に戻ってったけど…………うおー! 怖ぇぇぇ!!!

 なんかあれだよね! あの、体育館裏で「イヒヒヒヒヒ」って笑って藁人形にガンゴンガンゴン釘打ち付けてるような、そんなタイプ!!

 うっわ怖ぇー……!!

 なんだか要注意人物っぽい……。関わらない方が身のためだ……。

 しかも牛乳ビンの底眼鏡未だ掛けてる人居たんだ。でも俺が小田さんを好きって、どこでそんな情報仕入れたんだろ……?

「あっれー!? えっのっもっとくーん!!」

「うおっ!」

 後ろからクボが押してきた。朝から元気だなぁ。

「今日は早起きだねぇ! 朝練ー?」

「あ、そっか。部活この頃全然行ってないな」

「ダメじゃん」

「お前もだろ。奈美さんと帰るってだけでウハウハしてるくらいだし」

「お! 当たり! 榎本くん鋭いねー。さっすが俺の親友!」

 いつからお前の親友になったんだ、俺は……。あ、そういえば小田さんはもう来てるかな……。

 って言っても会うだけ自分を苦しめる気がするけど。

 そう思いながらも3組を覗いてしまう。3組もまだガランとしてたけど、1人居た。奈美さんだ。

「お、榎本くん。おはよう」

「おはよ」

「彩乃はまだ来てないよー」

「いや……別に小田さんは……」

「で。どうだったの、昨日は?」

 3組の窓に腕置いて俺を見る奈美さんの顔は「好奇心」で満ち溢れてた。そんな目キラキラ輝かせて見られても……昨日は…………。

「榎本くん? どうし……あ。彩乃ー。おはよー」

「おはよう、奈美」

 俺は奈美さんの方を向いてるから、まだ分かってないみたいだ。嬉しいような悲しいような……。

「あれ? 榎本くん。ここで会うって珍しいねー。おはよう」

「あ、うん。おはよ……」

 気付かれた。……まぁ、ここに居る時点で仕方ないんだけど。

「じゃああたしは剛史のとこでも行こっかなー」

「え、あ? ちょっと奈美さ……」

 俺が止めるのも聞かず、奈美さんは長い髪をブランブランさせて5組に向かってった。3組の静かな教室。居るのは俺と小田さんだけになった。

 昨日言えなかった言葉。まだ朝早いからチャイムは鳴らない。と言うことは邪魔する音楽は無い。他の生徒達が来る気配も無いし、まるで俺の告白の為に作った時間のように今しかない。だけど1つ足りない物がある…………。

 勇気だ…………。

 あ、でも・・・ちょっと『告れ君』が勝ち気味。なんか昨日2人から貰った勇気がムクムクわいてきたような……そんな気がする。

 今だ。今しかない!!

「聞いて欲しい事がある!」

 俺は顔を上げて小田さんを見た。「何?」って顔をしてる。

 言え!

 言えよ俺!!

「俺は…………」

「どうしたの?」

「俺は小田さんの事が……!!」

 最後まで言っちまえ、俺!!!!!


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