それでも世界は変わらなかった
Xで「あなたに書いて欲しい物語」にチャレンジしたときのログを、せっかくなのでこちらに突っ込みます。
・「一生は重すぎる」で始まり、「それでも世界は変わらなかった」で終わる物語
・できれば7ツイート(980字)以上
※案の定ビターエンドです
「一生は重すぎる」
いずれは貴方に嫁ぐことになる身、この命尽きるまで貴方を愛するわと今ここで誓ったとて何もおかしいことなどないだろうに、貴方はそう言って苦笑いした。そこは建前でも「俺もだよ」と言ってくれればいいのに。
でも、そう言うしかなかったのだと今なら分かる。
存外味気ない人だなと思いながら、私は左手の指輪を無意識に撫でていた。テーブルの上に無造作に置かれた彼の左手にも同じデザインの指輪。お互いの瞳と同じ色の宝石を嵌め込んだそれは、窓から差し込む太陽の光を反射してきらきらと煌めいている。
だというのにそれを見つめる私の心は、霞がかったように晴れない。
――漠然とした不安は確かにあった。
いつの頃からか不自然に増えた上司からの呼び出し。次第に減っていくデートの回数。ふとした拍子に見せる思いつめたような顔。
今だってどこか浮かない顔に無理に微笑を浮かべて、飲み干して氷だけになってしまったアイスコーヒーをしつこくストローで啜っている。
会話が途切れて気まずい空気が流れる中、間が持たなくなった彼は、窓の外に視線を向けた。
外に広がるのは高度に発展した科学文明と、豊かな緑が綺麗に調和した美しい街並みだ。その背景には青々とした広大な海と、眩く輝く太陽を宿した白い空がある。
世界はこんなにも明るく美しいのに、どうしてこの心はこれほどまでに晴れないのだろう。
でも、きっとどこかで理解していた。目を背けているだけで、心の奥底では分かっていたのだ。
終わりが近いのだということを。
それから間もなく彼は任務で旅立ち、そして戻ってはこなかった。
――あの日から数年。恒星間移民船団の乗組員となった私達人類は今、あてどのない旅の途上にある。
窓の外に広がる景色は、銀砂のように煌めく星々を散りばめた紫紺色の闇だ。あの日見た故郷の景色は遥か遠い。
――計算上の寿命よりもずっと早い段階から膨張を始めた母なる太陽。
いずれ、そう遠くはない未来に、住み慣れた星は太陽に呑まれることになる。否、呑まれる前に海に沈むだろう。
事実、この数百年で加速度的に気温が上昇して極地方の氷が融け、いくつもの国が海に沈んだ。人類は残された陸地に防御シールドを展開したコロニーを形成、そこにひしめくようにして生き延びたけれども、もうそれも限界に達しつつあった。
星ごと故郷を捨てる覚悟をするまでにはどうしても至らず、数百年ものあいだ決断を先送りにしてきた人類に残された道は二つ。
地球を捨て、新たな星を求めて移民船で旅立つか。
それとも一縷の望みを掛けて、地球全てを覆う全球防御シールドを展開するか。
しかし、星を脱出したとて人類が住むに適した惑星に辿り着くまでに、いったいどれだけの時間がかかるのだろう。
数十年か、数百年か。
はたまた永劫の流浪の民となるか。
仮に辿り着いたとて既に先住民がいる可能性は高く、地球人類は移民として肩身の狭い思いをすることになるだろう。
ここに至ってもなお住み慣れた大地を捨てる決断をできなかった人類は、成功する可能性が低い二つ目の選択肢を選び、そして失敗した。
――膨大な負荷に耐え切れず、全球シールドを展開する装置の一部が爆散したのだ。
あの事故で多くの作業員が宇宙の藻屑と消えた。
その中には彼もいた。技術者だった彼には、こうなることが分かっていたのだ。だからきっと、「一生なんて言わずに、新しい幸せを見つけて」と、そう言いたかったのだろう。
あの日彼は星を救うために散り、そして、それでも世界は変わらなかった。
結局12ツイートになったやつ_(:3 」∠)_




